フェラーリとセバスチャン・ベッテルの駆け引きは、果たしてどちらが勝ったのか? フェラーリはベッテルを切りたがっていたのか? ベッテルはフェラーリで走りたかったのか? 2者の確執の行方は?
ベッテルの夢
F1 Grand Prix of USA - QualifyingDan Istitene新型コロナウイルス禍でF1エンジンのサウンドが途絶えて久しい。しかし、その裏で生臭い戦いが展開されていた。フェラーリとセバスチャン・ベッテルの駆け引きである。事の発端は、ベッテルのフェラーリとの契約が今年の末で切れることだ。つまり、両者は今期限りで契約を更新するのか、それとも終結させるのかという分岐点にあった。結論から先にいうと、契約は更新されなかった。フェラーリとベッテルは袂を分かったのだ。しかし、その結論に達するまで両者は駆け引きを続け、これまで6年間にわたって築いて来た信頼は崩れてしまった。
ベッテルの夢は、フェラーリでタイトルを獲得することだった。しかし、在籍した6年間にその夢は叶なわず、最高位は2017年、18年の選手権2位。レッドブルで4年連続チャンピオンに輝いた男も、フェラーリの不安定性に泣かされた。しかし、タイトルが獲得出来なかった理由がフェラーリのせいだけではないことが、2019年、フェラーリにやって来た若いシャルル・ルクレールによって証明された。ベッテルはほとんどすべての成績でルクレールの後塵を拝し、自の力が衰えてきたことを痛感せざるを得なかったのだ。2人の記録を比べて見ると、明らかにルクレールがベッテルを凌駕していた。優勝はルクレールの2勝に対して1勝のみ、ポールポジションはルクレールの7回に対してたったの2回、最速ラップはルクレールの4回に対して2回。さらに、最終選手権ポイントはルクレールの264点に対して240点、選手権順位はルクレールが4位、ベッテルは5位だった。数字がすべてを語っていた。
F1 Grand Prix of RussiaMark Thompson6年間にわたる蜜月
ベッテルはこの現実に向き合って、明らかに自らの力の衰えを感じたはずである。深夜にひとりで才能の枯渇に涙しただろう。自分にもルクレールのようなときはあった、と。しかし、メディアの前ではそのことを認めるわけにはいかない。そして、もう一度フェラーリでタイトルに挑む。それには2021年もフェラーリに留まっていなくてはならない。ベッテルは一縷の望みを託してフェラーリと契約延長の交渉のテーブルに付いた。
だが、フェラーリが契約の場に持ち込んできた条件は、ベッテルには到底飲める者ではなかった。契約の延長期間は1年、契約金約10億円。これは、ベッテルへの最後通牒だった。アメリカの経済誌『Forbes』 によれば、2019年、フェラーリがベッテルに支払った契約金は4030万ドル(約43億円)。今年2020年もほぼ同額だろう。しかし、2021年はその約4分の1に減額しての契約延長示唆だった。フェラーリはベッテルを切ってルクレールに集中したい。これが決定打になった。さすがにベッテルは首を縦に振らなかった。彼は自分に言い聞かせた。俺は世界チャンピオンのタイトルを4度も獲得した男だ。4年連続の世界チャンピオンだ。その価値が僅か10億円? ふざけるんじゃない。彼は差し出された契約書にサインをすることなく席を立った。フェラーリとベッテルの6年間におよんだ蜜月時代は幕を降ろした。
ベッテル解雇の最終判断を下したのは、チーム代表のマッティア・ビノットではなく、より上層部だといわれている。会長のジョン・エルカーン、CEOのルイ・カミレーリかもしれない。カミレーリは、「若い才能あるドライバーを採用した方がいい。その若者と一緒にフェラーリは成長するのだ」と公言している。
サインツJr.を抜擢
F1 Grand Prix of China - Final PracticeDan Istiteneベッテルがフェラーリを去ることで、必然的にドライバー・マーケットに大きな動きが生じたが、フェラーリでベッテルの抜けた穴を埋めたのはマクラーレンのカルロス・サインツJr.、そしてマクラーレンでサインツJr.の抜けた穴を埋めたのはルノーのダニエル・リカルド。2人の移籍はベッテルがフェラーリを去って数日で発表された。驚きの早期決着だ。実はベッテルの抜けた穴を埋める候補には、フェラーリの若手育成ドライバーのアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオF1ドライバー)の名前もあった。しかしビノットは、ジョビナッチにはまだその荷は重すぎると判断、サインツJr.、リカルド、ニコ・ヒュルケンベルクの3人を候補に絞り、その中からサインツJr.を抜擢した。本命はリカルドと見られていただけに大逆転といえる。
F1 Grand Prix of Brazil - PracticeDan Istiteneさて、最後になったが、フェラーリを辞したベッテルはどこへ行く? 彼の要求する40億円もの契約金を支払えるチームはいったい何チームあるのだろう? メルセデス? レッドブル? しかし、メルセデスには最高のNo.2バルテリ・ボッタスがいる。レッドブルにも急成長のアレックス・アルボンがいる。レッドブルのチーム代表、クリスチャン・ホーナーはフェラーリが見放した下降気味の才能より、成長まっただ中の若い可能性を選ぶことは明らかだ。となると、残されたシートはリカルドの抜けたルノー? その可能性は大いにある。ただし、お騒がせ男のフェルナンド・アロンソがF1復帰をルノーで狙っている。ルノーはどちらを選択するのだろう? ルノー・チームで2度の世界タイトルを獲ったアロンソか、ルノー・エンジンのレッドブルで4度のタイトルを獲得したベッテルか?
もしルノーがベッテルを選ばなければ、彼は引退の道を選ぶだろう。33歳は引退には早い? いや、そうとも言えない。ニコ・ロズベルグは31歳で引退している。ヨーロッパのゴシップ紙は、「ベッテルには美人の夫人、3人の子供がおり、スイスには豪邸、資産は200億円といわれる。引退しても何も問題はない」と報じている。そりゃそうだ。しかし、まだ引退が決まったわけではない。ベッテルが決めたとき、我々はそれを知ることになる。それまで少し静かに待っていよう。どちらにしても彼の人生だ。
PROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)
1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。
文・赤井邦彦
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