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「レースの神様の演出」で起きた2007年第5戦SUGOのスリーワイドバトル【スーパーGT名レース集】

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「レースの神様の演出」で起きた2007年第5戦SUGOのスリーワイドバトル【スーパーGT名レース集】

 日本でもっとも高い動員数を誇るスーパーGT。2019年にはDTMドイツ・ツーリングカー選手権との特別交流戦が行われ、2020年からはGT500クラスにDTMとの共通車両規則『Class1(クラス1)』が導入され、日本のみならず世界中でその人気は高まっている。そんなスーパーGTの全レースから選んだautosport web的ベストレースを不定期で紹介していく。

 連載4回目は2007年シーズンの第5戦SUGO。ARTA NSXとTAKATA童夢NSX、宝山 TOM’S SC430の3台が歴史に残るスリーワイドバトルを繰り広げた1戦だ。

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※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 ややもするとそのレースの勝者が誰かも忘れてしまう、それほど強烈な瞬間は度々発生する。2007年第5戦SUGOで勃発したスリーワイドバトルは、その代表的なシーンと言えるだろう。

 この時、宝山 TOM’S SC430、TAKATA童夢NSX、そしてARTA NSXの3台がスポーツランドSUGOの最終コーナーから横一線にきれいに並んだまま、誰も脱落することなく、誰も抜け出すこともなく、1コーナーまで駆け抜けて行ったのである。

 しかもこれはこのレースのトップ争いであり、誰もが注目しているなかで起きた。その3台をドライブしていたのが、脇阪寿一、道上龍、伊藤大輔であった。

 寿一は言う。

「3台ギザギザではなくきれいに並んだよね? あれはレースの神様の演出だと思う」

 これがコース幅が広いサーキットだと迫力が出ないが、SUGOのホームストレート幅はスーパーGTが開催されるサーキットのなかでもっとも狭く12.5メートルしかない(富士は25メートル)。それを3台が並走しながら(しかも途中でコツコツ当たりながら)、いきなりストレート上に現れる。

 SUGOの直線は最初は登り勾配だが、途中から平坦になる。そのため、ピットから見ていると、突然下からマシンが飛び出して来るように見える。サインボードを掲げて待ち構える3チームのサインマンはさぞかしビックリしたことだろう。

 なにより1コーナースタンドのお客さんは、その迫力に息をのんだことだろう。神様の仕掛けに、我々は見事に引っかかってしまっているのだ。

 伝説のスリーワイドの伏線は、スタート直前の降雨から始まっていた。全車がレインタイヤを装着して走り出したが、ポールポジションスタートのTATAKA NSXがワイパートラブルでペースが上がらなかったのである。これをフロントロウスタートのARTA NSX、4番手スタートの宝山SC430がパス。

 雨が上がり路面が乾きかけたタイミングで、各車がピットインしてスリックタイヤに交換。この時のトップは宝山SC430の寿一だが、その3周前にピットに入ったARTA NSXの大輔はタイヤが温まっており、やがて追いつくことになる。

 46周目の1コーナーで寿一に仕掛けた大輔だが、軽くオーバーランして失敗に終わる。その隙にTAKATA NSXの道上がこれを交わして2番手に浮上。これでトップ寿一の直後に道上、その後に仕切り直しの大輔が続くという構図になった。タイヤがもっとも温まっていたのは大輔だ。

■ファンの心をわしづかみにした約20秒の攻防
 路面はライン上だけ乾いているという難しいコンディション。前車を抜こうとインに入ればそこは濡れた路面であり、ブレーキングでオーバーテイクするのは相当難しい。

 3台の間隔はジワジワと詰まっていき、やがて最終コーナーで寿一がGT300のマシンに引っかかる。「アウトから抜くか、インから抜くか」、わずかな迷いが生じる。背後の道上はそれを逃さず、GT300のインを選択した寿一のさらにインにマシンを向ける。

 この2台の攻防を後ろで見ていた大輔は、あらかじめアクセルを戻し、前2台よりも手前から全開加速状態に持っていく。できれば寿一のアウトに並びたかったが、それはタイミングが合いそうもないため道上のインを選択し、ノーズをねじ込んだ。こうして最終コーナーの立ち上がりで3台の横並びが完成することになった。

 寿一は乾いた路面を道上に踏ませないように、わざと正規のラインよりも内側にポジショニング。寿一よりもスピードが乗っている道上だったが、2台は軽く接触してしまい加速が鈍る。大輔はアウト側の2台よりもスピードが乗っていたものの、道幅が足りなくなってしまい、芝生の上をバウンドしながらフラットアウト。

「えらいとこ走ってもうた!」とハイテンションになった大輔は、6速にシフトアップするのを忘れてしまう。その左で、道上は「右にも左にも行けないっていうのは、もう縛られてるみたい(笑)」と考えながらとにかく全開。その左の寿一の無線に、関谷正徳監督の声が届く。

「ブレーキじゃ負けないから! 絶対負けない!」

 もちろん寿一は百も承知。そのために道上にラインを踏ませないようにしてきたのだから。ブレーキングに入る直前まで道上をけん制し、自身はドライ路面でしっかり制動を開始する。

 前の周に失敗した大輔は、イン側の路面がスリッピーであることを知っているから早めにブレーキを踏み、次いで道上が踏み、最後に寿一が踏んだ。

 伝説のスリーワイドのシーンは、寿一がトップで1コーナーに入ったことで幕切れとなった。3台がGT300を交わしてから1コーナーに入るまでの時間は、わずか20秒程度にすぎない。だが、この場面のインパクトはあまりにも大きく、GTファンの心をわしづかみにしたのであった。

 ちなみにこのレースで優勝したのは、ARTA NSXである。2位はTAKATA NSXで、スリーワイドのバトルを制した宝山SC430は5位だった。あなたの記憶と違う? それは、それだけこの瞬間のインパクトが強烈だったからだろう。

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