古今東西、怪物的な属性を与えられたクルマは数多く存在してきたが、“怪物”の異名が本来の車名とおなじくらい有名になったクルマは多くない。とはいえ、なぜかイタリアには筆者の知る限り、2台の有名な“怪物”が存在する。
1台は1964年に試作されたフィアット・アバルト「OT1600/OT2000 Mostro(モストロ:イタリア語で“怪物”を意味する)」。フィアット「850ベルリーナ」の小さなボディに、アバルト自社製の1.6リッター/2リッター直列4気筒DOHCエンジンを、その一部がはみ出てしまうように搭載した“怪物”である。
もう1台が、1989年に登場したアルファロメオ「SZ」。こちらは一般的な自動車美の常識を覆すような強烈至極なスタイリングから「Il Mostro(イル・モストロ)」と、呼ばれた。
1989年の発売当時、日本ではバブル景気だったこともあり、希少性から数千万円で取引されたという。古典的なメカニズムの集大成「ES30」の社内コードネームでも知られるSZは、同時代にアルファロメオが生産していたミドル級セダン「75」のメカニズムを流用し、開発されたスポーツカーだ。
75は、1972年に登場した「アルフェッタ」以来のメカニズムを綿々と継承していたモデル。したがって、基本設計の旧いシャシーを使っていた。ただし、もとのアルフェッタは、自動車史上稀に見るほどに贅沢なメカニズムを投入されたモデルであったのを忘れてはならないだろう。
「75」は、1985年から1992年まで生産されたミドル級セダン。トランスミッションは、クラッチとともにデフの直前に置かれたトランスアクスル形式を採用。リアサスペンションは、1930年代以来レーシングモデルを含む高性能車に採用されてきた半独立懸架のド・ディオン・アクスル。アルフェッタの語源となった1930~50年代のグランプリ/F1マシン「アルフェッタ158/159」由来のこれらメカニズムは、75ベースのSZにも採用された。
ただしSZは、市販用の75ベースではない。北米IMSA選手権用に開発されたレーシング・マシン「75ターボ」のシャシー用コンポーネンツを流用し、アルファ社内のレーシング部門スタッフによって開発された。
レーシング・マシンの「75ターボ」。くわえて、かつて日本の自動車専門誌でも連載コラムを執筆していたジョルジオ・ピアンタ氏をはじめとするテストドライバーたちの助力も得て綿密なチューニングをおこなった結果、1990年代初頭におけるRWD(後輪駆動)車の常識を遥かに上まわる、素晴らしいハンドリング・マシンに仕上がった。
パワーユニットは、アルファロメオの至宝と称される名機、総アルミ軽合金製V型6気筒SOHCエンジンだ。設計者であるジュゼッペ・ブッソ技師の名から「ブッソーネV6」と、呼ばれている。75の輸出向けモデル「75アメリカ」に搭載された3.0リッター版をもとに、ファインチューニングを実施。75アメリカ用から22psアップの最高出力210psを発揮した。
奇怪なスタイリングの誕生経緯SZのボディは、アルファロメオとおなじく、ミラノを本拠とする名門カロッツェリア「ザガート」がコーチワークを担当した。SZの名は、ザガートとアルファロメオのコラボレーションで製作された伝説的レーシングGT「ジュリエッタSZ(スプリント・ザガート)」(1960年)へのオマージュと言われているが、新生SZのデザインワークは、ザガートによるものではない。
1960年登場の「ジュリエッタSZ(スプリント・ザガート)」。ALBERTO ALQUATI「ES30(Experimental Sportscar 3.0 liter)」プロジェクトの発足にあたり、当時アルファロメオを傘下に収めたばかりのフィアット・グループは、デザインコンペを実施。結果、選ばれたのは、フィアット・グループ社内の「チェントロスティーレ(デザインセンター)」のデザイン案だった。
このプロポーザルを手掛けたのは、チェントロスティーレにコンサルタントとして参画していたフランス人スタイリスト、ロベール・オプロン氏と言われている。彼は、シトロエン在籍時代に「SM」や「CX」を手掛けたのち、ルノーへの移籍後。「フエゴ」や「25」などのデザインを担当した名匠だ。
このデザインをもとに、ザガートとの関係を重要視していたアルファロメオとフィアット・グループは、ボディワークのディテールとインテリアのデザインをザガート側に委託。当時、所属していたスタイリストのアントニオ・カステッラーナ氏が担当したとされる。
「zagato milano」と、刻印されたエンブレムが誇らしげに取り付けられたSZは、1989年のパリ・サロンにてワールドプレミア。1991年までに1000台のみが、ザガートのファクトリーにて限定生産された。
SZのストーリーは、これで終わりではない。1992年、SZのルーフをソフトトップに置き換え、かつウィンドシールドを低めたロードスターの「RZ」がリリースされた。アルファロメオ主導で開発されたSZに対し、RZはSZの生産を担当していたカロッツェリア・ザガート側の意向が強く働いたとされている。
SZのオープン版「RZ」。インテリアも、75のパーツを数多く流用。1991年、「SZの生産終了後に350台を限定生産」という生産計画とともに、東京モーターショーにて発表されたが、実際の生産は278台(ほかにも諸説あり)に終わったとも言われている。
生産終了から四半世紀を経た現在、SZとともに「究極のトランスアクスル・アルファ」として、RZは絶大な支持を受けている。
文・武田公実
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