シンプルで軽量、そして爆音を響かせるV8エンジンへの回帰論が、声高に叫ばれている。それが実現すれば、夢物語のように聞こえるかもしれない。しかし、本当にそれでいいのだろうか?
現行のパワーユニット(PU)レギュレーションが導入される以前から、将来の規則について語られてきた。そのことは、F1とは何か、そしてF1があるべき姿とは何か、そして近い将来のF1はどんな姿になるのかという問いに対する、新たな考察を促した。
■V8エンジン目指すFIAとF1、次期規則ではPUカスタマーチーム消滅!? “フォード・コスワース的”第三者メーカーの供給検討か
PUのレギュレーションを策定するには、長い時間がかかる。そのため、ある意味でF1の将来は、既に始まっているとも言えるかもしれない。そしてFIAのモハメド・ベン・スレイエム会長が推し進めるV8エンジンを中心としたより安価でシンプルなPUに回帰する案は、合意されればすぐにでも加速していくはずだ。
この件に関する正式な協議は、まだ成熟し切っているとはいえない。しかしウイリアムズのジェームス・ボウルズ代表らの言葉を借りれば、進むべき方向性は明確だ。自然吸気V8エンジンをベースに、現在よりもはるかに小型の電気モーターを装着し、燃料は持続可能燃料とする……というものだ。より音が大きく、より軽く、そしてより安くてシンプルにすることが目指されているわけだ。そうなればF1参戦コストは抑えられつつも、全開のレースが繰り広げられるようになる。ドライバーや純粋なレースのファンにとっては、この提案はとても都合の良いものである。
この案には、理論上はいくつかの可能性が秘められている。エンジン音をより迫力のあるモノにすれば、多くのファンにアピールすることに繋がるだろう。しかし音が大きいことが、必ずしも良いことだとは限らない。
ただエンジンが軽くなり、ハイブリッドシステムに必須のバッテリーが小型化すれば、近年問題とされてきた車両重量の増加という難題の解決策となるだろう。車重が重く大きくなったことで、F1マシンの操縦性能と安全性に悪影響を及ぼしてきた。
シンプルなPUにすることは、既存のメーカーの参戦コストを下げるだけでなく、将来F1に挑むメーカーにとっての参入障壁を下げるということになる。また、FIAが第3者のエンジンビルダーを任命し、そのエンジンを容易に使えるようにすることで、カスターマーチームという枠組みを完全撤回する道が開かれる。つまり各チームは、自前でエンジンを開発するか、あるいは市販される”第3者”のエンジンを使うことになるわけだ。
ギヤボックスの仕様も統一される可能性がある。チームの中には、なぜファンに見えない、近年では特に性能差を生まなくなったギヤボックスに、なぜ多額の投資をする必要があるのかということに疑問を呈している。
2014年以前の姿にF1を戻すことの最大のメリットは、ドライビングとレースを純粋に楽しめるようになるということだろう。このことはドライバーや既存のファンを喜ばせ、F1をより分かりやすいモノにするはずだ。現在のPUは実に複雑であり、それぞれのドライバーの癖などが見えにくくなっている。
■V8エンジンを復活させることには問題も?
ただそのことに問題がないわけではない。逆に多くの問題も秘めている。
たとえば第3者のエンジンを用意するという案は、カスタマーチームという問題に終止符を打つことになるかもしれないが、一方でメーカー系チームと非メーカー系チームという二層構造を生み出すリスクを負うことにも繋がる。
逆に、自動車メーカーがPUを開発する意義がなくなってしまうということに繋がる可能性もある。たとえばマクラーレンやウイリアムズのようなチームが、メーカー系PUと同等の性能で、しかも安価なサードパーティー製のPUを使えるということになれば、車体の開発に集中することができ、相対的なパフォーマンスで優位に立つ可能性もあるかもしれない。
もうひとつの疑問点は、旧来の技術への回帰が、持続可能なモノのかという点だ。
最近F1がV8回帰を目指すという話が出たのは、自動車業界においてEVの普及ペースが鈍化したことで、各国で軌道修正が行なわれたからだ。世界中の多くの国々は、環境対策の一環として電気自動車を積極的に普及させる施策を講じていた。しかし最近ではその方針を転換。EUは2035年までにエンジン車の発売を禁止することを目標に掲げていたが、この構想も一時停止されることになった。
その上で、F1では2026年から持続可能燃料のみの使用を義務付けた。これも、F1のV8回帰論を後押しした。
しかしEVの販売台数は、2025年には2000万台を突破。2030年に向けて飛躍的に増加していくことになるだろうと予測されている。そのため目指すべきはEVからの完全撤退ではなく、より現実的に、緩やかに普及させていくこと目指す形だ。
そんな中でF1が2030年もしくは2031年からV8エンジンに回帰すると、自動車業界から遅れをとってしまう可能性がある。新しいエンジン規定を導入するには時間がかかるため、この判断を下すのは実に難しい。しかし、考慮に入れておく価値は十分にある。
■解決せねばならぬたくさんの問題
もうひとつの疑問は、V8エンジン車に回帰した場合、そのマシンが消費する膨大な燃料をどう処理するかということになる。限定的な小型ハイブリッドシステムに移行するということは、現行および前世代のターボハイブリッドF1が誇ってきた優れた熱効率から脱却するということを意味する。F1はこの利点をこれまで十分にアピールしてこなかったが、これは大失策と言わざるを得ない。
レース距離を走破するためには、ハイブリッドが限定的になるということを考えれば、レース中の給油復活は不可避だろう。もし給油しないということになれば、軽量化という成果は大きく損なわれることになる。しかも、多量の燃料を使うということは、マイナスのイメージに繋がることにもなりかねない。
F1は開催カレンダーを効率化し、輸送量も徹底的に削減してきた。そんな中で給油作業を復活させれば、シリーズとしても、マシンというハードウェアのみを持ってしても、効率化とは逆方向を向いているように感じられることだろう。
2026年シーズンを見てみても明らかなことであるが、スポーツとしての魅力と企業としての自動車メーカーとしての要求のバランスを取るのは、極めて困難だ。F1は自動車メーカーを必要としているが、同時に自動車メーカーに依存したくはない。F1は純粋でアドレナリン全開のレースを求めているが、モータースポーツの頂点として、常に技術面で時代の最先端を走り続ける必要もある。優れたエンジニアリングを讃える一方で、公平な競争環境も確保しなければいけない。
このように、相反する二面性が、F1には存在する。FIAとF1の首脳陣は、この複雑なパズルを解決しなければいけないが、そこには多くの落とし穴が潜んでいる。
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みんなのコメント
コスワーズさんとかジャッドさんとか、エンジン職人さんが活躍していた時代も、楽しかったし。