かつて、メルセデス・ベンツといえば大きな高級車、というイメージが強かったが、現在ではAクラスやBクラスをはじめ、小型車のバリエーションも増えた。そんなメルセデス・ベンツの小型車の歴史を振り返ってきたが、今回が最終回となる。
小型車分野で確固たる地位を築いたメルセデス・ベンツ
革命的な設計の小型車として誕生したメルセデス・ベンツ Aクラスだったが、2012年に登場した3代目モデルは設計を大転換。ふつうの設計のFF車になる。しかしこれがまたさらなる成功につながり、メルセデスは小型車分野で確固たる地位を築くまでになる。
2004年に発表された2代目Aクラスは、初代のキープコンセプトモデルだったが、サイズは少し大きくなっていた。初代モデルは全長をわずか3.6m程度に抑えて、それでいて安全性と居住性を確保したのが最大の売りだったが、2代目Aクラスは全長が3.8mを超えていた。
この初代と2代目のAクラスが採用した二重構造フロアのFF方式には、弱点があった。ミニバン並みの車高でありながら、室内高は低くセダン並みの居住性しかなく、また重心も高くなっていた。
エンジンや駆動系を59度も前方に傾けて狭いスペースに押し込んでいるのも、苦しい面があった。高出力エンジンを積むといった拡張性には制約ができていた。
何よりも残念なことに、二層式サンドイッチ・コンセプトの最大の売りともいえた床下に燃料電池を搭載できるという構想も、いつまでたっても活かされなかった。1997年の初代Aクラス発表以来、燃料電池車は20年以上たった現在に至るまで量販車では実現されていない。そうすると、床下にムダな空間を抱えて走り回っているということになる。クルマの重心はできるだけ低くしたいものであり、燃費を考えれば空気抵抗を減らすためにも車高は低いほうが良い。
そのため、2012年に発表された3代目Aクラスは、鳴り物入りだったそのサンドイッチ構造とエンジンを前傾して搭載する設計をやめ、ふつうの低床フロアを持つふつうのFF方式に大転換した。4気筒エンジンは直立して横置きされたが、これはジアコーザ式FFと呼ばれるもので、1960年代にフィアットが実用化し、その後世界の大半の乗用車が採用するようになった、今ではいちばんあたりまえの設計方式である。
これによって3代目Aクラスの全長は長くなった。Cセグメントのふつうの小型車となって、ライバルたちとほぼ同じ寸法になり、全長は約4.4mと、初代に比べて約80cmも長くなった。
それと同時に全高も低くなった。ふつうに低くなったわけであるが、こちらは初代に比べて10cm以上低い1435mmとなった。クルマとしてのバランスは良くなり、走りはがぜんスポーティなものになった。メルセデスがAクラスの設計を趣旨替えしたのは、スポーティで若々しくアクティブな小型車へと生まれ変わらせたかったからだといえる。AMGモデルも設定され、このクラスでトップレベルの大出力エンジンが与えられ、その新しいキャラクターを強調した。
初代Aクラスは、革命的な設計を採用して登場したが、そのコンセプトは3代目で捨て去られた。「革命」は未遂に終わったのだった。しかし、メルセデスの小型車Aクラスは終わらなかった。それでも地球は回る、というか、Aクラスは成長を続けた。多くの派生モデルを生んだファミリーとしても繁栄している。メルセデスの小型化革命は、見事に成し遂げられたのだった。(文:武田 隆/写真:メルセデス・ベンツ)
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