ドイツの寒さは日に日に増すばかりで、最低気温は0度を下回り、最高気温も5度に届かないという日がちらほら見受けられるようになりました。クリスマスに向けて街はより華やかな雰囲気に包まれいますが、なかなか外に出るのもおっくうな天気が続いています。そんなどんよりとした曇り空に溶け込むような、シルバーに塗られた1台のクルマが目に留まりました。メルセデス・ベンツのシタンです。
シタンの中身はルノー・カングー?
ルノー車の日本販売台数の約1/3を占めるカングーが、日本で愛されている理由を考えてみる
以前のCLでもご紹介したことがあるシタン。その時に掲載された個体は商用タイプでしたが、今回の個体は乗用タイプです。シタンは簡単に言うと「中身はルノー・カングー、衣装はメルセデス・ベンツ」というクルマで、メルセデス・ベンツとルノーの共同開発によって2012年に登場しました。メカニズム部分の大半はカングーからの流用です。残念ながら、2017年11月現在、日本には正規輸入されていません。
メルセデス・ベンツとルノーの業務提携は2010年代以降強化されていて、特に最近のニュースと言えば、ルノー・トゥインゴとスマートの共同開発や、北米でのエンジン共同生産、インフィニティ・ブランドとのエンジン共用化などが挙げられます。今後も提携体制は強化されていくのかどうか、注視していきたいところですね。
シタンが生産されているのはドイツではなく、フランスのモブージュ工場です。モブージュと聞いてピン!ときた方はかなりのルノー車好きですね。そう、生まれ故郷はルノー・カングーと全く同じなのです。しかし、フロントマスクのデザインといい、リアビューといい、カングーに少し手を加えただけでこんなにもメルセデス・ベンツのクルマらしく変身しまうとはちょっと驚きです。ちなみに内装にもきちんと手が入れられていて、カングーに比べるとシックでシンプルな印象を受けます。
ボディタイプやホイールベースのバリエーションも豊富
シタン、という名前は、「City(街)」と「Titan(巨人)」という言葉を組み合わせた造語です。街中を縦横無人に駆け回って活躍するシタンにはぴったりの名前ですね。ただしドイツにおいては、こうした小型商用バンで圧倒的なシェアを誇っているのは、やはりルノー・カングー。乗用タイプにおいてもカングーの人気は安定していて、シタンの乗用タイプを見かける頻度はかなり低いです。
ドイツ現地でのシタンのボディタイプは、貨物用のパネルバン、貨物・旅客両用のクルーバン、乗用のツアラーが用意されています。また、ホイールベースはコンパクト、ロング、エクストラロングがラインナップされています(ボディタイプによって選べるホイールベースには制限あり)。ホイールベースの長さをカングーで例えると、コンパクトは以前ラインナップされていた「カングー・ビボップ」、ロングはカングーの通常モデル、エクストラロングは日本未導入の「グラン・カングー」に相当します。
搭載されるエンジンはガソリンエンジンの1種類のみで、114psを発生する1.2リッターターボとなっています。ディーゼルエンジンはCDIと呼ばれ、同じ1.5リッターの排気量で、チューニングが異なる3種類(75ps、90ps、110ps)が用意されています。写真の個体は111 CDIのエンブレムが付いているので、110psを発生するディーゼルエンジン搭載車ですね。
シタンは「シンプルな道具」を感じさせてくれる貴重な存在
日本におけるメルセデス・ベンツのイメージは、やはり「プレミアム・ブランド」ということになるのでしょうが、本国ドイツでのイメージは少し異なります。大小のトラック、高速バスや路線バス、タクシー等の商用車やゴミ収集車などの作業車を日常的に見かけることから、「プレミアム・ブランド」というよりは、より身近な「クルマの総合メーカー」というイメージが強いです。
日本でのルノー・カングーの人気は磐石ですし、メルセデス・ベンツ日本のブランド戦略が、シタンを正規輸入しない理由のひとつとなっているのかもしれません。しかし、ポップなカングーをベースにしたとは思えない、シタンのシックで落ち着いた雰囲気は、日本でも人気が出ると思いませんか?
かつてのメルセデス・ベンツのクルマが備えていた「シンプルで高品質な道具」感を持つシタンは、現行ラインナップの中では貴重な存在です。ルノー・カングーとのラインナップの住み分けを気にするのであれば、いっそ3列シート・7人乗りのエクストラロングの乗用タイプを輸入してみては…などと妄想もふくらみます。「中身はカングーじゃん」で済ませるのはもったいないメルセデス・ベンツのシタン。筆者が密かに正規輸入を待ち望んでいるクルマのひとつなのです。
[ライター・カメラ/守屋健]
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