「OTA」という言葉をご存じでしょうか。OTAとは、「Over the Air」の頭文字で、データの送受信を無線通信で行うこと。身近なところでいえば、スマートフォンなどで、ファームウエアアップデートを無線通信で行ったりしますが、これが「OTAアップデート」、略して「OTA」といっています。
いまクルマ開発でも、このOTAの普及が進み、クルマ開発の流れが大きく変わろうとしています。我々ユーザーにとっても大きなメリットのあるOTA。OTAの普及によって何が変わるのか、考えていきます。
究極の自動運転技術は“トロッコ問題”にどう対応するのか?【自律自動運転の未来 第19回】
文:エムスリープロダクション、橘一徳
アイキャッチ写真:AdobeStock_ SergeyBitos
写真: NISSAN、写真AC、AdobeStock
【画像ギャラリー】クルマにOTAが普及することで、できるようになること
クルマのリセッティングが容易に
前述したように、OTAとは、「無線通信を経由してデータの送受信する技術」のこと。
クルマに関していえば、コネクティッドによって、クルマ同士やその他の外部との通信ができることのほか、ナビゲーションのアップデートや、不具合のあったプログラムの書き換えなどのソフトウェアのアップデートも、OTAによって、販売店にいくことなく可能となります。
トヨタでは、MIRAIやレクサスLSで、最新の地図情報を常時アップデートするため、OTAの導入を進めています。今後、自動運転技術がさらに進化する中では、常に最新の地図情報がクルマに登録されていることが、より重要になります。地図情報が古いままだと適切な道案内ができず、クルマが遠回りしてしまったり、目的に着けなかったりすることが考えられるためです。
OTA普及のメリットとして、もっともわかりやすいのが「地図データの更新」だろう。地図データのアップデートをわざわざ販売店にいかずともできるのは、うれしいメリットだ(PHOTO:写真AC_BANANA18)
地図情報だけではありません。かつてボルボの40シリーズでは、エンジンやトランスミッションを制御するソフトウェアの書き換えを、オプション(約19万円)で用意していました。
このオプションによって、40シリーズを同社のスポーツモデル「ポールスター」並のエンジンマッピングにすることも可能であり、加速性能を容易に向上させることができたのです。(法規変更に伴い、日本では本サービスはすでに終了)
ほかにも、自動運転機能や車載AIアシスタントなどのソフトウェアの更新も、OTAの普及によって可能となります。
ご存じの通り、近年のクルマには、さまざまな電子制御が搭載されているため、搭載されているソフトウェアも多くあります。OTAは、それらのソフトウェアを通信によって書き換え、クルマのリセッティングを容易にする技術として期待されているのです。
地図情報のほかにも、自動運転機能や車載AIアシスタントなど、OTAによって、さまざまなソフトウェアの更新が容易にできるようになる(PHOTO:AdobeStock_ zapp2photo)
ソフトウェアのリコール対応も迅速に
また、リコールに関しても、ソフトウェアであれば、OTAの普及によって容易になります。従来は、自動車メーカーが販売会社に更新版のソフトウェアを配布し、販売会社がお知らせを配布。その後、ディーラーへの入庫調整をする、といった対応が必要ですが、OTAがあれば、自動車メーカーがオンラインで更新プログラムを配布することでクルマのアップデートが可能。販売会社やユーザーの手を煩わせることなく、クルマの品質・信頼性を維持できるのです。
いちいち販売店に持ち込まなくていいので、いろいろな手間やコストを省くことができる(PHOTO:写真AC_acworks)
あるとき、筆者の所有する30系プリウスが、ブレーキ制御のソフトウェアのエラーでリコールを受けました。しかし、プリウスの販売規模が巨大すぎるためか、販売店との調整がなかなかつかず、何か月もの間ブレーキに不安を抱えて運転するはめに(修理完了まで8カ月かかりました)。
その後も複数のリコールがありましたが、OTAがあれば、迅速にアップデートができたのに、と考えさせられる出来事でした。
高額車を中心に続々と導入
既にBMWでは、一部地域で導入されている「BMWリモートソフトウェアアップグレード」というサービスにて、既納車に対するソフトウェアのアップデートをOTAによって行っています。現バージョンはOS7ですが、これがOS8にアップデートすると、先進運転支援の機能を更新することができます。
メルセデスベンツでも、OTAによる自動運転機能の追加や、その他機能のアップデートを行うサブスクリプションサービス(有料課金制)を、2024年から導入することを発表しています。
日産アリアでは、ナビシステムの更新のほか、ドライブモードの追加なども、OTAで提供される
他にも、フォルクスワーゲンの「I.D.シリーズ」や、日産の「ARIYA」なども、OTAの導入を発表済です。今後も、主要な自動車メーカーでは、順次OTAの採用が進むものと予測されます。
OTAによって「ソフトウェアが常に最新」に
筆者のスマホはちょっと古い機種なのですが、OSが毎年アップデートされるので、常にリフレッシュした気持ちで過ごしています。アプリが使いやすくなったり、操作性が向上したり、新しいソフトウェアが追加されたりと、外側は古くても中身は常にフレッシュな気持ちでスマホを使用することができています。
今後は、クルマもスマホと同じようになっていくものと考えられます。OTAによるアップデートでクルマの品質を維持・改善し、ユーザーにあったカスタマイズもできるようになれば、より快適なカーライフを送れるようになるのでは、と期待しています。
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