資源有限論と環境破壊が大きくクローズアップされ始めた1970年代、自動車産業は強い逆風の中にあった。大きさと豪華さをよしとしてきた米国でさえ、省エネ、省スペースが叫ばれる中、世界に衝撃を与えたのがFF2BOXの省スペースボディに、CVCCエンジンを積んだホンダのシビックだった。シビックの成功で世界のコンパクトカー市場は一気にFF、2BOXへの流れを加速。ランサーの活躍でラリーフィールドで名声を高めていた三菱も、満を持して初のFF車ミラージュを投入。仏語で「神秘/蜃気楼」などを意味するこのグローバルカーの知名度を高めるため、三菱は発売前の’77年12月にアメリカンフットボールの全米大学公式戦を誘致。「ミラージュボウル」と銘打たれたこの一戦が全国にテレビ中継された3か月後、フラッシュサーフェスボディと大きなガラスエリアを持つ3ドアハッチバックが先行デビュー、ミラージュは、性別や世代を超えたヒット車となったのだ。
→【写真10枚】「全米注目のアメフト大会をスポンサード」「4段×2段の8段変速を採用」知れば知るほど凄いことをしている、三菱初のFF 2BOX:初代ミラージュ【ジュネーブではデザイン賞も獲得】
●文:横田晃/月刊自家用車編集部
環境の時代を見据えたFF2BOX+省エネ技術
―― 張りのあるクリーンなフォルムや大きな窓、サッシュのないプレスドアなどの、多くの見どころを持つ欧州調のデザインを採用した。
―― FR用エンジンを使った横置きFF、U字型リヤサスペンションを採用した4輪独立懸架など創意工夫で生まれたミラージュ。
頑強だが垢ぬけない三菱車のイメージを一変させたデザイン
クルマの売れ筋のトレンドは、時の世界情勢にも左右される。現在では地球環境保護や気候変動抑制という課題を背景に電動車への関心が高まっているが、かつてのゲームチェンジャーは、もっぱら石油価格。なかでも国際紛争をきっかけに、1973年と1978年に世界を襲った石油ショックは、小型車や低燃費技術への注目という形で日本車の追い風になった。
1978年に到来した第二次石油ショックでは、レギュラーガソリン価格がリッター200円を超えた。三菱初のFFコンパクトカーの初代ミラージュは、まさにその年に誕生して人気者となったのだ。
三菱重工の自動車部門として乗用車作りを始めたばかりの1960年代は、良くも悪くも同社のもう一つの柱だった大型車のような、質実剛健なデザインや造りが三菱らしさだった。しかし1970年に三菱自動車として独立した頃からのモデルは、出世作となったギャランを筆頭に一気に垢ぬけた。1976年に登場して大ヒットとなったギャランΣ/Λに続いたミラージュも社内デザインながら、張りのあるクリーンなフォルムや大きな窓、サッシュのないプレスドアなどの、多くの見どころを持つ欧州調のデザインを採用。発売翌年のジュネーブショーでは、デザイン賞も受けている。
北米のマスキー法に準ずる、当時世界一厳しかった日本の1953年排ガス規制をクリアしたエンジンは、細いサブインレットバルブを設けることで燃焼室内にジェット気流を作り、薄い混合気をきれいに燃やすMCA-JET方式。コスト面で有利なキャブレター式のままで、クリーンな排ガスと低燃費を両立させた技術も一流だった。
登場当初はスポーツモデルは用意されなかったが、まるでオフロード4WD車のように、通常の4速に加えて高低2速の副変速機を備えるユニークなスーパーシフトを搭載し、ラリーでも活躍した。
もっとも、じつはこれは苦肉の策。三菱初のFF車として開発されたミラージュだが、縦積みのFR車用のエンジンを最小限の手直しで横積みにすると、進行方向の左側にしか載らない。するとエンジンの回転方向の関係で、トランスミッション内に逆転軸が必要になったため、それを逆手に取って副変速機としたのだ。
4段×2段の8段が使えるという触れ込みだったが、街中では副変速機を低速段で使い、高速段は巡行時に実質上の5速目として使うのが現実的な運転。ラリーストには片手で器用に8速をフルに使いこなす人もいたが、変人扱いされたものだった。
3ドアハッチバック1400GLX(1978年型)
―― 三菱初のFFコンパクトである初代ミラージュは、これまでの三菱車のイメージを一転させるクルマとなった。 【主要諸元 3ドア1400GLX(1978年式)】 ●全長×全幅×全高:3790mm ×1585mm ×1350mm●ホイールベース:2300mm ●車両重量:795kg●乗車定員:5名●エンジン(4G12型):直列4気筒SOHC1410cc ●最高出力:82PS/5500rpm●最大トルク:12.1kg-m/3500rpm●10モード燃費:15.5km /L●最小回転半径:4.9m●燃料タンク容量:40ℓ●トランスミッション:前進4段×2、後進1段●サスペンション(前/後):マクファーソンストラット式独立懸架/セミトレーリングアーム式独立懸架●タイヤ(前/後):155SR13
3ドアハッチバック1400GLS(1978年型)
―― フロントからリヤにいたるすべての窓が大きく設計され、上品感を演出したドアはプレスによるサッシュレスを採用するなど、1977年のジュネーブショーではデザイン賞を獲得するほどだった。
5ドアハッチバック1400GLS(1978年型)
―― 発売から半年後に追加された5ドアはホイールベースの延長などで、室内長は3ドアより120ミリも拡大している。GLSはGLXの上級仕様で、FMレシーバ+カセットステレオの本格オーディオも標準装備。ルイジアナグリーンの専用ボディカラーも設定された。 【主要諸元 5ドア1400GLS(1978年式)】 ●全長×全幅×全高:3895mm ×1590mm ×1350mm●ホイールベース:2380mm ●車両重量:835kg⦆●乗車定員:5名●エンジン(4G12型):直列4気筒SOHC1410cc ●最高出力:82PS/5500rpm●最大トルク:12.1kg ・m/3500rpm●10モード燃費:14.3km /ℓ●最小回転半径:5.0m●燃料タンク容量:40ℓ●トランスミッション:前進4段×2、後進1段●サスペンション(前/後):マクファーソンストラット式独立懸架/セミトレーリングアーム式独立懸架●タイヤ(前/後):155SR13 ◎新車当時格(東京地区):106万8000円
―― 初期型3ドア1400GLSのインパネ。ワイパー作動とライト点灯はメータークラスター左右のレバーで操作する。ダイヤトーン製のオーディオは左がカセットデッキ、右がFMチューナー+パワーアンプのコンポーネントタイプ。ちなみに1978年9月追加の5ドアには、当初タコメーターの設定がなかった。
―― 初期型GLS/GLXのチェック柄のシート。シートスライドは180mm で32段フルリクライニングが可能。
ターボパワーで武装した国産ホットハッチの先兵となったミラージュ
当初は3ドアの1.2L&1.4Lでスタートしたミラージュは、全長とホイールベースを延長した5ドアやGTを名乗る1.6Lスポーツモデルなどのバリエーションを増やしながら、順調な販売実績を挙げた。
しかし、市場では低燃費へのニーズがますます高まる一方で、さらなる高性能や上質を求める声も増していた。そこで初代のモデル末期の1982年にビッグマイナーを施し、車名もミラージュIIを名乗ることになった。
デビュー当初は規格ものの角型だったヘッドランプは、スラントした樹脂レンズをもつ異形の専用デザインとなり、控えめなエアダムスカートも与えられた。内装の質感も高められ、当時販売比率が上昇し始めていたAT車も拡充。小型車にはまだ珍しかった、パワーステアリングも設定した。低負荷時には2気筒のバルブ作動を休止する日本車初のメカニズムを搭載し、当時の10モードでリッター20km の低燃費を実現させたモデルも投入。さらにオーソドックスな4ドアセダンボディも設定し、兄弟車としてランサーフィオーレも出た。
しかしこのモデルで大きな話題を呼んだのは、3ドアのみに設定されたターボ車だ。排ガス規制で牙を抜かれた日本車の救世主と期待されたターボは、1979年に日産がセドリック/グロリアに初めて積んで大人気となった。グループ内でタービンの調達が可能な三菱も1981年に、まだFRだったランサーEXに欧州向けの2Lと国内向けの1.8Lターボを投入。以後、フルラインターボを謳って搭載車を増やした。
1982年春のデビュー時点では国産車最小排気量のターボ車となったミラージュ1400ターボの最高出力は、グロス105PS。現代の水準ではかわいいものだが、ボンネットにパワーバルジを載せた精悍な出で立ちとあいまって人気を呼び、その後の小型車の高性能競争のきっかけを作った。ミラージュIIが登場した
1980年代前半には石油ショックを乗り越え、日本車はターボで走りも取り戻す。それから世界の市場で認められて、1980年代を通して人気、実力ともにトップランナーへと駆け上っていくことになる。
小型FF車の第一作ながら高い完成度を見せた初代ミラージュは、IIではターボによる動力面強化にも耐える足回りも実現。それはのちにWRCで活躍するランエボなどへと発展していく。ミラージュで培った技術と経験は、日本と日本車がもっとも輝いた時代の、三菱の礎となったのだ。
初代ミラージュの変遷
―― 1977年(10月) 東京モーターショーに参考出品。(12月) アメリカンフットボールの全米大学公式戦を誘致。ミラージュボウルと銘打って、ミラージュの名を一気に広める。1978年(3月) 3ドアハッチバックを先行発売。(9月 )ホイールベースを80mm 延長した5ドアハッチバックを追加。1979年(3月) 1.4L車に3速オートマチックを設定、同時に3ドア車に「1600GT」を追加。1980年(2月)「1200GLX』追加。(6月)「1600GT」にガラスサンルーフ車を設定。(10月) 一部改良(フロントグリルのデザイン変更、フロント合わせガラスの導入など)。(11月) 「UCLAバージョン」発売。1981年(4月) 「1200ELデラックス』追加。(6月) 「1600GTサウンド仕様車』追加。1982年(2月) 異形角型2灯ヘッドランプなど内外装を一新しミラージュIIへ。4ドアサルーンおよび1.4Lターボ(3ドアハッチバック)追加。1400ELに気筒休止の低燃費オリオンMDエンジン搭載など。(8月) 4ドアサルーンと5ドアハッチバックに1.4Lターボ追加。(10月) 廉価グレードの「1200EXスペシャル」(69万8000円)追加。(12月) 女性仕様の「1200ミッシー」と「1400スーパーエディション」を追加。1983年(10月) フルモデルチェンジで2代目へ移行。
ミラージュII 3ドアハッチバック1400ターボ(1982年型)
―― デビュー時点では国産車最小排気量のターボ車となったミラージュ1400ターボ。 【主要諸元 3ドア1400ターボ(1982年式)】 ●全長×全幅×全高:3780mm ×1585mm ×1350mm ●ホイールベース:2300mm ●車両重量:820kg ●乗車定員:5名●エンジン(4G12ターボ型):直列4気筒SOHC1410cc +ターボ●最高出力:105PS/5500rpm●最大トルク:15.5kg・m/3000rpm●10モード燃費:16.4km /ℓ●最小回転半径:4.9m●燃料タンク容量:40ℓ●トランスミッション:前進4段×2、後進1段●サスペンション(前/後):マクファーソンストラット式独立懸架/セミトレーリングアーム式独立懸架●タイヤ(前/後):165/70SR13 ◎新車当時価格(東京地区):118万6000円
―― ターボにはやや硬めの高弾性ウレタンを使ったシートを採用。肌触りのいいスウェードニットのシート生地、黒×赤の精悍なカラーリングもターボ専用。
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