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半導体大手がクルマに突然関心を抱く理由 未来を形作る米Nvidiaの車載コンピューター

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半導体大手がクルマに突然関心を抱く理由 未来を形作る米Nvidiaの車載コンピューター

ハイテク化する自動車業界にチャンス見出す

ITの世界や株式市場に少しでも関心があれば、Nvidiaという名前を耳にしたことがあるだろう。

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もし聞き覚えがなくても、米国の大手IT企業のハードウェアやソフトウェアを何らかの形で採用している自動車メーカー、例えばテスラ、ボルボ、メルセデス・ベンツ、JLR 、BYD、ヒョンデなどについてはご存知のはずだ。

平たく言うと、今後はTOPS(1秒間に1兆回の演算処理能力、コンピューターがデータを処理する速度の指標)が、「ps」や「km/l」と同じくらいクルマにとって重要な要素となるかもしれない。Nvidiaは自動車業界の主要プレーヤーとして台頭しつつあり、新興分野においては支配的な存在となっている。無視することはできない。

自動運転車には膨大な処理能力が求められることから、自動車産業はNvidiaにとって非常に大きなビジネスになりつつある。関連サービスを含めると、年間約50億ドル(約7500億円)規模にもなる。

しかし、ラスベガスで開催された技術見本市CESで、同社の自動車部門担当副社長兼ゼネラルマネージャーのアリ・カニ氏が筆者に語ったところによると、現在の市場ではレベル2(半自動運転)の機能を搭載しているのは「10%以下」だという。

Nvidiaは1993年に設立され、PCやゲーム機のグラフィックを向上させるグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)を開発した。

そして、膨大な3Dデータを処理するGPUは、人工知能(AI)に必要な高度なコンピューティングにも非常に適していることが判明した。AIはNvidiaが現在得意とする分野である。

だからこそ、同社の株価はここ数年で急騰し、現在では3兆3000億ドル(約495兆円)の価値がある。そう、兆だ。

自動運転車に必要なAI

Nvidiaの自動車業界への参入はほとんど偶然と言えるものだった。当初の顧客であるアウディが、インフォテインメント・システム用に同社の製品を採用したのだ。

「車載スクリーンには大量のグラフィックが必要で、自動車メーカーはそれを美しく見せたいと考えていた」とカニ氏は振り返る。「当社はグラフィックに非常に長けており、クルマで使用できるチップを開発した。それが始まりだった。しかし、その後、自動運転車がやって来ることに気づいたのだ」

自動運転車が自然に動作するためには大量のAIコンピューティングが必要であり、Nvidiaがこの分野に関心を持っている理由も理解できる。

自動運転車の技術開発には「大変な量のディープラーニング」が必要だとカニ氏は言う。

「また、クラウドでモデルを訓練し、合成データ(シミュレーション)を作成する必要がある。現実世界で起こるすべての事象をテストすることはできないからだ」

特に自動車業界が「ソフトウェア定義型車両」へと移行しつつある今、Nvidiaにとって「絶好の機会」が訪れているとカニ氏は指摘する。ソフトウェア定義型車両とは、デジタルシステムを中心に設計されたクルマであり、車両寿命が尽きるまでアップデートやリフレッシュを繰り返すことができる。

変化の遅い業界

Nvidiaには主に3つの自動車向け製品がある。車載コンピューター(Drive AGX)、AIモデルの訓練に使用できるクラウドコンピューター(DGX)、運転モデルを処理できるシミュレーションコンピューター(Omniverse)である。

「自動車業界は非常に官僚的だから、大変だ」とカニ氏は言う。「多くの人が関与する政治的なインフラストラクチャーがある。政府や労働組合、さまざまな委員会との交渉もある」

「その意思決定のプロセス全体が、IT系スタートアップ企業にとっては新しいものだ。我々はやるべきだと考えたら、実行に移す」

「しかし、自動車会社は『概念実証を始めよう』と言う。そして、何年も協力することになるが、何も進展しない」

カニ氏は、これは「ちょっとしたカルチャーショックだった」と認めているが、自動車業界が徐々に変化している兆しもある。

つい最近まで、自動車メーカーは完成した製品をリリースし、その後の商品改良(マイナーチェンジ)の際に修正を加えていた。

しかし、クルマがコネクテッド化(インターネットに接続)された今、新しいソフトウェアで継続的にアップグレードすることが可能になった。この変化が、コンピューティングに対する自動車メーカーの考え方を変えたとカニ氏は捉えている。

「かつてメーカーが安価なクルマを作る場合、最も安価なチップを使用していた」

「中型車には中価格帯のチップを、高級車には高価格帯のチップを使用する」

「しかし、テスラはすべてのクルマに高性能チップを搭載し、ソフトウェアに重点を置いた。ソフトウェア定義型車両では、最高性能のコンピューターと最も充実したソフトウェアを搭載し、車両寿命が尽きるまで、常にアップグレードを続ける」

これは、米アップルがiPhoneで採用しているアプローチと同じだとカニ氏は指摘する。そして、既存の自動車メーカーがテスラへの対応に遅れをとる一方で、中国の新興企業が「非常に優れた自動運転ソフトウェアを開発」したことで状況は変化しているという。「そこには明らかに脅威がある。そのため、今では彼らは『どうすればより迅速に意思決定ができるか?』と考えているのだ」

多くの自動車メーカーは、中国企業に追いつくために開発サイクルを劇的に短縮しようとしているが、カニ氏は「まだ実現できていない」と語る。

「中国では、2年ごとに新型車が発売される。他のほとんどのメーカーは4年か5年サイクルだ。もし競争相手が2年ごとにアップグレードし、自社が4~5年ごとだとしたら、大差をつけられてしまう」

メーカーの課題解決

カニ氏は、NvidiaのDrive AGX Orinプラットフォーム(自動運転車の「頭脳」に相当)を欧州の自動車メーカーとして最初に採用したメルセデス・ベンツとボルボは、同技術を量産車に導入するまでに数年を要したが、中国は「9か月後にはそれを使用したクルマを製造していた」と指摘している。

ボルボEX90などのOrin搭載の欧州車は最近発売されたばかりだが、Nvidiaは2022年にさらに高性能なDrive AGX Thorプラットフォームを展開しており、すでに中国ではこれを搭載したクルマが走っている。

「つまり、同時にスタートしたのに、クルマを発売する頃には初日から出遅れているということだ」

「DellやHP、アップルに話をすると、彼らは当社の次のコンピューターがいつ発売されるのかを尋ねてくる。そして、彼らの次の製品(例えばiPhone)の発売はそれに合わせて行われる」

「自動車メーカーは、『次のプラットフォームはいつ利用可能になるのか?』ということと、その日に(利用を始める)準備ができるようにするにはどうすればよいか、ということを考え始めなければならない」

「自動車業界がソフトウェア定義型車両へとシフトするのは容易なことではない。フォルクスワーゲン・グループが直面した課題や、最近のボルボのモデル発売の遅れを例に考えてみてほしい」

その理由の一部は、自動車メーカーが新世代の車両に必要なソフトウェアの種類が変化したことに気づくのが遅かったためであり、現在では機械学習に重点を置いているとカニ氏は述べている。

自動車メーカーがこの変化にどう対応しているかについて意見を求められると、カニ氏は次のように答えた。

「確かに彼らはより多くの情報を入手している。彼らのチームはますます知識が豊富になっている」

「短期的な課題は、ソフトウェアスタックの開発方法の変化だ。かつてフォルクスワーゲン、BMW、メルセデスといったメーカーは、知覚ソフトウェア、融合ソフトウェア、プランニングおよびコントロールを個別に実行していた」

「もはやソフトウェアの開発方法はそんなものではない。アウトソーシングしていた知覚ソフトウェアを導入し、知覚、融合、プランニングを1つのモデルで実行するエンドツーエンドモデルに置き換えるのだ」

専門用語を省いて説明すると、自動車メーカーはこれまで、特定のタスクごとにソフトウェアを個別に開発してきたが、Nvidiaなどの企業が開発した最新の超高性能チップにより、より高度なAIシステムを実行することが可能になった。これはデジタル化が進んだ真の自動運転車に必要なものだ。

「彼らが持っていなかったノウハウをさらに強化しているのだ」とカニ氏は続ける。

「問題は、自動車メーカーは実際に多くのことを学んできたが、彼らが知識を持っているソフトウェアの種類は、もはや将来的に使用したいものではないということだ。そのため、機械学習ができる人材を大量に採用する必要がある」

「誰もが思っていた以上に難しい。しかし、当社は全力で彼らを支援するつもりだ。それが当社の仕事だからだ。『これらの問題の解決をお手伝いします(let us help you with these problems)』」

その点についてカニ氏は、Nvidiaと自動車メーカーの関係はパートナーシップであり、Nvidiaはさまざまなチップやサービスを活用して、自動車メーカーのニーズに合ったソリューションをカスタマイズしていると説明する。

Nvidiaの車載パッケージは強力だが、同社が特に優位性を発揮しているのはクラウドコンピューティングとシミュレーションシステムであるという。

実際、同社の最大の自動車関連パートナーであるテスラは、AI開発にNvidiaのハードウェアをほぼ全面的に採用している(CEOのイーロン・マスク氏は昨年、NvidiaのAIハードウェアに30億~40億ドルを投じる予定であると述べた)。

自動運転の実現には「ほど遠い」

Nvidiaにとって大きなビジネスチャンスとなるのは、自動運転車である。現在道路を走っているレベル2以上のクルマ(特定の状況下で監視下において自律的に走行できる)だけでなく、業界が長年夢見てきたレベル4(完全な自動運転)のクルマである。

現在の半自動運転車は、一般的にかなりコントロールされた環境でのみ走行できる。カニ氏の見解としては、カオス的な都市部で真の自動運転車を実現するには、「はるかに高度なソフトウェアスタックが必要だ。ノイズやカオスが多すぎるため、ソフトウェアの機能を充実させる必要がある」という。

カニ氏によると、この1年で自動運転車の開発は、マルチモーダル・ラージ・ランゲージ・モデルAI(MLLM AI、複数の種類の入力データを処理・理解できるソフトウェア)を使用するまでに進歩したという。いわば、クルマ向けのChat GPTのようなものだ。

また、完全なフェイルセーフのバックアップが求められていることもあって、自動運転機能に必要な大量のセンサーを制御するための、より強力な処理能力も必要となっている。

それゆえ、カニ氏が真の自動運転車には「ほど遠い」と認めるのも不思議ではない。

自動運転車の将来性に魅力を感じないとしても、Nvidiaのシステムには他の利点があることを知っておいてほしい。

現在、多くのクルマに搭載されている、誤作動を起こす厄介な緊急ブレーキシステムや車線逸脱警報システムなどは、新しいテクノロジーによって改善されるはずだ。

また、自然言語による音声コントロールの改善、よりスマートな駐車支援、故障の自己診断と解決策の提案といった機能も実現するだろう。

したがって、自動運転かどうかに関わらず、クルマがますますハイテク化するにつれ、Nvidiaは自動車業界においてますます重要なプレーヤーとして台頭してくると予想される。

「当社にとって、この市場はまだ始まったばかりだ。そして、すでに50億ドル規模の市場となっている」とカニ氏は言う。

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