718ボクスターの慣らし運転を兼ねた年末の伊勢神宮へのロングドライブは、とても楽しかった。
池波正太郎が書いていたように、伊勢神宮や志摩の町やホテルなどは正月休みを控えて混雑していなかったから、ゆっくりと羽根を伸ばすことができた。
道路も渋滞していなかったので、伊勢志摩スカイラインのワインディングロードで思う存分718ボクスターを走らせることができた。
先代ボクスターからの買い替えの最大の目的だった、“クルマの知能化”の働き具合も確認できた。往復の東名高速や新東名、一般道などではACC(アダプティブクルーズコントロール)やコーナリングアラートなどの運転支援デバイスの効き具合を存分に試すこともできた。
ACCは前方のクルマとの車間距離を自動的に一定に保ちながら走り続けるデバイスで、走行距離が長くなればなるほどドライバーの心身の負担を減らしてくれるものだと以前から他のクルマで認識していたが、長距離を自分のクルマで試してみて、その思いはより強固なものとなった。
伊勢志摩スカイラインのワインディングロードもほとんどクルマの通行がなかったので、718ボクスターのドライビングパフォーマンスを引き出して走ることができた。
自分が718ボクスターに望んでいたものはほとんど期待通りに仕上がっていることが確認できたのだけれども、困ったことがふたつあることも旅行中に判明したのである。それらは、まったく予期していなかったものだった。
まず、ひとつはシート位置が以前に乗っていたボクスターから前進していることだ。シートはスライドするから、自分に合う位置を探し出せば良いのだが、僕のベストポジションだとドアを最も大きく開けないと降りられないことがわかった。
僕のベストポジションが、ドアとの相対的な位置関係に於いて前方に移ったのだ。そこからドアを開けても、前の方なので狭い隙間しか開いておらずに足も出せない。
仕方がないので、シートを後方にスライドさせて降りなければならない。そこからならば、ドアとボディの隙間が大きく開いているので楽に降りることができる。
ということは、降りる度にシートを下げなければならない。そして、それと同じ回数だけ、今度は乗り込んだ後は上げなければならない。つまり、乗り降りのたびにシート位置を手動で調整しなければならないのだ。
下げる分には目一杯引き下ろせば良いのだが、上げる時は上げ過ぎず、下げ過ぎず、ドライビングに好適な位置を探らなければならないから厄介だ。スポーツカーだから、シートポジションは厳密に定める必要がある。
ようやく各部分の操作にも慣れ、少しずつクルマが自分の身体と同一になっていっていたと喜んでいたのに、これはショックだった。乗り降りのたびにいちいちシートを上げ下げしなければならない。
では、オプションの電動シートを注文すれば良かったのかというと、そうでもない。電動シートはスイッチを指で押すだけで済むのだが、ウィーンと時間が掛かってもどかしい。
以前に乗っていたボクスター(というか、ほとんどすべてのクルマ)のように、一度、「この位置とこの角度の組み合わせ以外はあり得ない」と厳密に設定したシートポジションを動かす必要がないことがどれだけありがたいことだったのか、とても良くわかった。
解決するには自分の脚を長く伸ばすしかないから、不可能だ。
今までにも、2ドアのクルマは乗り降りが厄介なこともあるとは経験していたけれども、まさか自分のクルマでそんな目に遭うことになろうとは思いもよらなかった。これからずっと乗り降りのたびに、グーッ、ガチャという手順を踏まなければならないのは面倒臭い。718ボクスターの、最も自分に向いていない部分を見付けてしまった。
それに較べると実害はないけれども、改めることができない欠点をもうひとつ見付けた。トランスミッションのPDKから聞こえてくるガチャガチャというノイズだ。
PDKはポルシェがグループCレーシングカー「962」で実用化したツインクラッチシステムによるトランスミッションで、クラッチペダルを持たない2ペダルタイプながら、マニュアルトランスミッションと同じギアを用いているので、人間よりも素早く、かつ効率的に変速を行う。シフトアップもダウンも素早いだけでなく、スムーズそのものだ。
ところが、赤信号で停まるような時の極低速域で、ギアが入れ替わるのかガチャガチャいう音が盛大に聞こえてくるのだ。トップを下ろしてオープンで走っている時など、背後からとてもよく聞こえてくる。
それでドライビングに支障を来すようなことは何もないのだけれども、なんとなく興醒めしてくる。
フットブレーキを踏み続けるのではなく、パドルでシフトダウンをすれば改善されるか? あるいはフットブレーキの踏み方に強弱を付ければいいのか?
いろいろ試みてみたけれども、変わらなかった。
ポルトガルの国際メディア試乗会への参加や国内での取材で718ボクスターには、購入前に複数回乗っていたのだけれども、シートポジションの問題もPDKからのノイズもどちらも気付かなかった。
どちらも、所有して、ある程度の時間と距離を共に過ごしてみて初めてわかったことだった。
とくに、今回の買い替えの最大のテーマは「クルマ知能化時代のスポーツカーライフ」だったので、そちらの方にばかりアンテナとセンサーを向けていたので、なおさらだった。
とはいえ、どちらも受け入れないわけにはいかない。乗りながら、何か善後策を考えることにしよう。
気を取り直して距離を重ねていくと、困ったことにほかにも問題点が明らかになったのである。それも、詳しく探っていたはずの「知能化」のひとつであるコネクティビティに潜んでいた。(次回に続く)
金子浩久 モータリングライター
1961年、東京生まれ。大学卒業後、出版社で書籍と雑誌の編集者を3年半務め、独立。20~30代には、F1記者として世界を駆け巡る。主な著書に、『ユーラシア大陸1万5000キロ 練馬ナンバーで目指した西の果て』『10年10万キロストーリー』 (1~4)、『セナと日本人』、『地球自動車旅行』、『ニッポン・ミニ・ストーリー』、『レクサスのジレンマ』、『力説自動車』などがある。
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