110億円積み立てにみる地元の覚悟
4月、日本経済新聞は、東京都が都営地下鉄大江戸線の延伸開業を2040年頃とする素案をまとめたと報じた。記事によれば、東京都は開業から36年目に黒字化すると想定している。この試算をもとに、都は光が丘駅から(仮称)大泉学園町駅まで、約4kmの区間を延伸する方針を固めた。
【画像】マジ!? これが大江戸線の「延伸予定図」です! 画像で見る(計6枚)
練馬区ではこれまで延伸実現に向けて独自に動いてきた。都市整備部内に「大江戸線延伸推進課」を設け、「大江戸線延伸基金」の積み立ても行っている。積み立て金はすでに110億円に達しており、延伸は区にとって悲願といえる。では、大江戸線延伸はこの地域にどのような変化をもたらすのか。
延伸構想は、練馬区北西部の大泉学園町方面を経て、将来的には東所沢駅までの接続を視野に入れる。そのなかで今回具体化が進むのは、光が丘駅から大泉学園町駅までの区間であり、以下の3駅が新設予定となっている(いずれも仮称)。
・土支田駅
・大泉町駅
・大泉学園町駅
光が丘駅以西への延伸は、地域住民、とくに練馬区からの強い要望に支えられてきた。一方で、事業は長らく停滞していた。その要因は、
・採算性の不透明さ
・事業主体の不明確さ
にある。2000(平成12)年の運輸政策審議会答申第18号では、当該路線は
「少なくとも目標年次(2015 年)までに整備着手することが適当である路線」
と明記された。以後も整備候補路線として名は挙がり続けたが、計画の具体化には至らなかった。
19年黒字化が示す現実」
流れが変わったのは、2016年に国土交通省の交通政策審議会が「鉄道ネットワークのプロジェクト」の検討結果を公表したあたりからだ。この報告では、光が丘から大泉学園町、さらに東所沢までの延伸に「意義がある」とされた。
一方で、大泉学園町~東所沢の区間については、事業性に課題があると明言された。また、延伸全体に関しても、「事業主体を含めた計画の十分な検討が必要」として、慎重な姿勢が示された。
ここで示された評価指標を確認しておきたい。
●光が丘~大泉学園町(単独整備案)
・延長:4.0km
・総事業費:900億円
・費用便益比(B/C):2.1~2.0
・純現在価値(NPV):563~519億円
・黒字転換年:開業から19年
●光が丘~東所沢(全体整備案)
・延長:12.1km
・総事業費:2300億円
・B/C:1.2
・NPV:311~240億円
・黒字転換年:33~36年
●大泉学園町~東所沢(単独整備案)
・延長:8.1km
・総事業費:1,400億円
・B/C:0.9~0.8
・NPV:▲121~▲157億円
・黒字転換年:発散(※将来にわたって黒字化の見込みなし)
これらの数値が意味するところを詳しく見ていく。
まず、光が丘~大泉学園町間に注目したい。B/Cが2.0を超えており、1円の投資に対して2円以上の便益があることを示す。インフラ事業としては非常に優良な水準だ。NPVが500億円を超えている点も重要である。将来の利益を現在価値で換算しても、大きな黒字が見込まれることを意味している。
最大の注目点は、黒字転換が開業から19年目という点だ。インフラ事業では、黒字化に数十年を要する例も多い。そのなかで、20年を切る見通しは、健全な事業採算性を裏付ける材料になる。
一方で、光が丘~東所沢の全体整備案は、B/Cが1.2と合格ラインにある。ただし、黒字転換までに30年以上を要するため、初期投資とのバランスを考えると慎重な見方が求められる。
さらに、大泉学園町~東所沢の単独整備案では、B/Cが1.0を下回っている。NPVもマイナス圏にあり、現時点では費用に見合う便益が見込めないと評価されている。単体での事業成立は難しいとされているのが実情だ。
こうした定量的な裏付けにより、延伸のうち「大泉学園町まで」の区間に関しては、採算性があるとして検討が進められることになった。
2023年3月、東京都の小池百合子知事は、都議会で新たに庁内に検討組織を設置する方針を表明した。大江戸線の延伸は、ついに実現可能性の高い事業構想へと移行したのである。
市区町村の常識覆す先行投資
このように、長年停滞していた延伸計画が具体化に向かった背景には、練馬区による制度面・財政面での先行対応が大きく影響している。東京都や国の動きを待つのではなく、練馬区は早い段階から主体的に動いた。
なかでも特筆すべきは、2011(平成23)年に制定された「練馬区大江戸線延伸推進基金条例」だ。この条例により、区は一般会計からの積み立てを制度化した。延伸に特化した基金を創設し、事業決定後に資金を確保するのではなく、いつでも対応できるよう先に体制を整えた。極めて先進的な取り組みである。この基金は、条例上の目的が明確に定められている。
「都営大江戸線の光が丘駅から大泉学園町方面への延伸に資するため」
という条文がある。他の用途には流用できない専用基金として設計されている。単なる予算措置ではなく、延伸実現に向けた制度的な覚悟の表明といえる。
基金の累積額は、2019年度で50億円に達した。現在は前述のとおり110億円にまで増えている。練馬区は、要望活動にとどまらず、毎年12億円程度を積み立ててきた。これは延伸に備える財源を自前で確保する姿勢の表れだ。
通常、交通インフラの整備では、国や都道府県が中心となり、市区町村は土地提供や一部整備にとどまるケースが多い。そうした中で、練馬区がここまで主体的に取り組んできた事実は、延伸実現に向けた大きな後押しとなったことは間違いない。
区画道路11本が支える拠点形成
もうひとつ、練馬区が取り組んだのが、採算性を確保するための都市改造である。延伸に必要な乗客数を見込むための施策だ。
特に注目されるのが、延伸区間の骨格となる都市計画道路・補助230号線および233号線の整備だ。さらに、それに沿った複数地区で、地区計画の策定や用途地域の変更も行われた。補助230号線の真下を大江戸線が通る予定であり、この沿線ではすでに88%の用地整備が完了している。土地区画整理も進み、周辺の街づくりの段階に入っている。
例えば、補助230号線と北の越後山通りをつなぐ補助233号線沿いでは、住民や事業者との協議を経て、以下のような都市設計が進められている。
・容積率の引き上げ(一部地区で200%から300%へ)
・高度地区指定の見直し(建物高さ制限の緩和)
・防火地域への格上げ(延焼遮断帯としての沿道活用)
・建築物の用途・意匠・色彩に関する詳細な制限
・土地の細分化防止(敷地面積の最低限度設定)
・生活道路ネットワークの拡充(11本の区画道路を新設)
こうした制度整備の狙いは、新駅周辺に中高層住宅や複合機能施設を誘導し、居住人口や利用者を安定的に確保することにある。また、防火地域の指定や敷地面積の下限設定により、災害に強く、秩序ある都市基盤の形成も視野に入れている。
敷地面積の下限や区画道路整備によって乱開発を防ぐ一方、容積率の緩和や高度地区の見直しで中高層マンションや医療・商業施設の建設を可能にする。これは、延伸によって設けられる駅を、単なる通勤・通学の通過点ではなく、まちの中心に据える戦略だ。
延伸地域である土支田・大泉町・大泉学園町は、これまで最寄り駅まで徒歩1km以上かかる住宅街だった。住民の多くは、バスを乗り継いでの移動を日常的に強いられていた。23区内にありながら、鉄道による都市的なアクセスに乏しい。
とりわけ高齢者や子育て世代にとっては、通勤・通学・通院といった日常移動の負担が大きかった。この立地の弱さは、23区という地理的条件を持ちながらも、地域の潜在力を十分に発揮できない一因となっている。
延伸で変わる地域経済の地図
現状を打破するために、都営大江戸線の延伸は重要な手段だ。この延伸がもたらす効果は、単なる通勤時間の短縮だけでなく、広範な経済的影響も予想される。練馬区の試算によれば、新宿副都心までの所要時間は11~21分短縮される見込みだ。この短縮時間は、通勤者にとって大きな価値を提供し、地域全体に対して予想以上の効果をもたらす可能性が高い。
まず、都心とのアクセス時間が圧縮されることで、練馬区とその周辺地域の不動産価値は向上するだろう。鉄道網の拡充は、周辺地域の土地利用効率を劇的に高め、地域経済を活性化させる。この流れは、住居地としての魅力を高めるだけでなく、商業施設やオフィスの立地選択にも影響を与える。企業のオフィス移転や新規出店が増え、それに伴う雇用機会の拡大も期待される。インフラ投資は地域経済に循環的な波及効果を与える。
また、鉄道の延伸によって生活圏が再編される可能性がある。都市機能の再評価により、住民のライフスタイルや消費行動にも変化が生じるだろう。移動時間が短縮されることで、生活圏が拡大し、商業・文化施設へのアクセスが向上するだけでなく、地域間の交流が促進される。これにより、従来の商業中心地とは異なる新たな集積が生まれ、周辺エリアは新しい社会的・経済的価値を発見するだろう。
しかし、この延伸がすべての地域に同じような恩恵をもたらすわけではない。鉄道が延びるだけでは地域全体の発展が保証されない。地域ごとの特性や既存の人口構造、経済基盤に応じた活用が求められる。例えば、すでに高い住宅需要がある地域では、不動産価値の上昇が顕著に見られるが、人口減少が進む地域ではその効果が限定的になる可能性もある。延伸効果を最大限に引き出すためには、適切な都市開発と公共サービスの充実が不可欠だ。
この鉄道延伸が示すのは、インフラ整備が物理的なネットワークの拡充にとどまらないということだ。鉄道網の整備は、土地利用計画や社会インフラの再編成、さらには地方創生の促進にも関連している。都市間のアクセス改善が、地域ごとのポテンシャルを引き出し、次なる成長の芽を育てる方法を注視することが重要だ。
この延伸プロジェクトは、現在進行中の都市経済の再編の兆しであり、今後の都市発展における重要な指針となるだろう。
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ホーム延長や車両を増やすことも考えてもらわないと。