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現行WRカー最後の戦いで主役を飾ったトヨタのふたり。歴史に残る1戦で復活した“攻撃的なオジエ”

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現行WRカー最後の戦いで主役を飾ったトヨタのふたり。歴史に残る1戦で復活した“攻撃的なオジエ”

 1997年から始まったWRカーの時代、そして2017年にスタートした現行WRカー規定最後のシーズンのラストイベントを担ったWRC世界ラリー選手権第12戦モンツァ(ラリー・モンツァ)は、史上まれに見る素晴らしい戦いにより、歴史に残る一戦となった。ドラマの主役はトヨタのふたり。通算8回目のドライバーズタイトルに王手をかけたセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)と、それを17ポイント差で追うエルフィン・エバンス(トヨタ・ヤリスWRC)。

 仮にエバンスが優勝し、ボーナスポイントが得られるパワーステージを制したとしても、オジエは表彰台に立ちさえすればタイトルを手にすることができる。老獪なるオジエならば、リスクを冒して優勝を狙うことなく、エバンスの出方を見ながら手堅く表彰台に立つ戦いもできたはずだ。しかし、オジエはそうはしなかった。

トヨタ、1994年以来の3冠達成! オジエ&イングラシアが優勝で8度目の王者決める/WRCモンツァ

 シーズン後半に入り、オジエは5戦で一度しか表彰台に立っていない。それも、アクロポリスでの3位が最上位だった。選手権リーダーとして、グラベルラリーで不利な先頭スタートを何度も担わなければならなかったという理由はある。

 しかし、少し前までのオジエには、そういった不利な状況でも表彰台をつかむ強さがあった。ところが、ここ数戦はグラベルラリーだけでなく、ターマックラリーでも、チームメイトのライバルの後塵を拝することが少なくなかった。実際にステージサイドでその走りを撮影していても、昔のようなキレ味が感じられるシーンがあまり見られず、『どうしたのかな?』と思うことも多かった。

 選手権争いを最優先し、やや保守的なアプローチをとっていたことは間違いない。シーズン前半の4勝でしっかりと貯め込んだ、大きなアドバンテージをうまくコントロールしていたのは事実だ。だが、ここ数戦は順位を争う大事な局面でもライバルに競り負けることが少なくなく、単に順位をマネジメントしているようには見えなかった。

「少し疲れていたのかもしれない」

 ラリー前のインタビューでその言葉がオジエの口から出たとき、納得した。本人も本調子ではないことを認識していたのだ。オジエは今年の12月で38歳を迎える。若いころのような突破力や、あり得ないほどのスピードを示すことが難しくなりつつあるのは、ごく自然なこと。それでも、全盛期を知る身としてはさみしくもあり、今年限りでフル参戦をやめるのも、仕方がないと思えるようになっていた。

 ところが、イタリアンアルプスでのオジエの走りは別人かと思えるほどアグレッシブで、タイムもそれに見合ったものだった。朝霧で路面はやや湿り、グリップレベルも変わりやすい。ある意味、彼がもっとも得意とする『ホーム』のラリー・モンテカルロと似たような山岳ステージで、オジエは本来の速さを取り戻し、ギリギリのラインを突いていた。初日、午前中の4本のステージのうち、3本でオジエはベストタイムを奪い、2番手エバンスに6.5秒差をつけて首位に立った。

 しかし、エバンスも負けてはいなかった。モンツァ・サーキット内に舞台を移した午後のステージでは、グラベルも混ざるトリッキーな路面でオジエを上回るタイムを記録。オジエがクルマの問題でやや遅れをとったこともあるが、逆転に成功して首位に立ち、2番手オジエに1.4秒差をつけてデイ1を終えた。

 ここ数戦のオジエならば、ここで無理に優勝を狙うことはなかっただろう。しかし、今回は違った。「クルマが自分の一部に感じられる。こういうときは攻めてもミスをしないものだ」と、攻撃的な姿勢を緩めなかった。そしてデイ2、WRCの歴史に残るであろう、6ステージで5回という首位交代劇が開幕したのだ。

 タイトル獲得の可能性は少ないながらも、渾身のアタックで優勝を狙うエバンス。そして、タイトル獲得のために優勝する必要はないながらも、WRカー最後のラリー、フル参戦最後のシーズンを締めくくる1戦で勝利をつかもうとするオジエ。モンツァは彼らのためだけの劇場と化し、息をのむようなハイレベルな戦いが延々と続いた。そしてデイ2最後のステージ、暗闇に包まれたモンツァでオジエはエバンスを抜き、0.5秒差でトップに立った。

 迎えた最終日のオープニングステージ、彼らは同タイムで並び、どちらも一歩も引かなかった。最悪の場合、どちらもコースを外れる可能性すらある極限の戦い。そのためのマニュファクチャラーズポイント獲得要員として、カッレ・ロバンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)が地道な走りで総合9番手につけていたことも、彼らにアクセルを緩めさせなかった。

 永遠に続くかと思われたハイレベルな勝負がほぼ決まったのは、ラスト2ステージのSS15だった。エバンスはブレーキングでタイヤをロックさせ、コースをオーバーシュート。エンジンをストールさせてしまった。リズムを乱したのか、エバンスはその後さらにエンジンストールを喫し、大きな遅れをとる。

 首位オジエもあわやというシーンがあり、大きくタイムを失ったが、それでもエバンスよりは速く、差は7.6秒に。勝負あった。どちらも限界を超えた走りだったのだろう。チームが案じていた、両者共倒れとなる危険を何とか寸前で回避し、オジエは通算8回目のドライバーズタイトルを、チームは3年ぶり、トヨタとして通算5回目のマニュファクチャラーズタイトルを獲得した。

 オジエが今回、最後までアクセルを緩めなかったもうひとつの理由として、長年コンビを組んできたジュリアン・イングラシアがモンツァを最後に引退するということもあったに違いない。苦楽をともにし、素晴らしい仕事でオジエを支えてきたイングラシアの最後のラリーを、オジエはどうしても優勝で飾りたかったに違いない。

 そして、その気持ちは結果となって現れ、イングラシアは8回目のコドライバーズタイトルを獲得。トヨタが3冠を獲得したのは1994年以来のこと。それをWRカー時代の最後に達成したことにより、ヤリスWRCによる5年間にわたるプロジェクトは、これ以上はない最高のかたちで終幕を迎えたのだった。

※この記事は本誌『auto sport』No.1565(2021年11月26日発売号)からの転載です。


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