7月27~28日、大分県日田市のオートポリスでENEOSスーパー耐久シリーズ2024 Empowered by BRIDGESTONE第3戦『スーパー耐久レース in オートポリス』が開催されているが、ST-Qクラスに参戦する“水素カローラ”ことORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptは、第2戦富士SUPER TEC 24時間レースこそ悔しい展開になったものの、今回は信頼性をきっちりと確保し、第2戦富士のリベンジに臨む。
TOYOTA GAZOO Racingは、モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり、またモータースポーツの厳しい環境を通じてクルマと人を鍛え、カーボンニュートラルの実現に向けた活動を行うべく、ORC ROOKIE Racingとともにスーパー耐久に挑戦しており、2021年からは水素を燃料とするマシンをST-Qクラスに投入してきた。
液体水素を使用するORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptが2回目の24時間へ。航続距離大幅増
2023年から投入されたのが、-253℃の超低温を保つ技術が必要な液体水素を燃料としたモデルで、“給水素”時間の大幅な短縮、設備の小型化、さらに航続距離の大幅な延長を実現してきた。
さらなる航続距離の延長、そして2023年には24時間レースで2回の交換が必要だったポンプの信頼性向上に取り組んだのが2024年で、第2戦富士では異形(楕円形)の液体水素タンクの投入、『デュアルドライブ』と呼ばれるクランク機構を使ったポンプを採用で、1スティント30ラップの実現を狙った。
その目標については達成したORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptだったが、5月の第2戦富士で多くの修復時間を要してしまったのがブレーキのトラブル。「ABSアクチュエーターの電圧変動が原因でした。ABSのアクチュエーター内にポンプが入っていて、もともと電圧の変動をともなっているのですが、今回の水素カローラを仕立てたときに採用したアクチュエーターについては、レースカーとして配線の設定が適切ではなく、電圧が落ちすぎて機能停止してしまったのが原因です」とプロジェクトを統括する伊東直昭GR車両開発部主査は第2戦富士でのトラブルの原因について説明した。
■いよいよ決勝でもST-5を“仮想ライバル”に
迎える第3戦オートポリスまでには2ヶ月ほどのインターバルがあったが、この期間を利用し、ブレーキについてはバランスを再設計ししっかりトラブルを改善。また第3戦までの間に12時間のテストを行い、ポンプの耐久性については積算で耐久性の確認を行った。第2戦富士では思うように走りきれず、しかもオートポリスは昨年ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptがリタイアを喫したコース。今季の第3戦はそのリベンジとして、第2戦富士で示しきれなかった性能を示しにいく。
「このオートポリスは、進化した性能をしっかり出し切りたいと考えています。ひとつは航続距離で、もうひとつは耐久性です」と伊東主査。
まず航続距離については、第2戦富士では30周を目指しそれを達成したが、オートポリスはややコース長も長いこともあり、28周程度を想定。また円形タンクで臨んだ昨年のオートポリス戦では、給水素回数が6回だったが、今年は1.5倍の異形タンクの採用により、4回の給水素で走り切りたいとした。
「この数字は、ST-5クラスの車両とピット回数が同じになります。いつも予選では良いところにいても、決勝レースが終わると最下位だったのが水素カローラなのですが、今回からはレースリザルトも変わってくると思います」
ただ残念ながら、今季の第3戦オートポリスはST-5の出場がない。そこで伊東主査は“仮想のライバル”としてST-5のトップ車両を見据えつつ、ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptの性能を測りたいと語った。2023年のST-5優勝車はウエット混じりのコンディションのなか、128周を走り切っている。これに今季ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptがどう迫るかは決勝のポイントだろう。
また耐久性についても、先述のとおりテストを行い、積算で24時間の性能を確保した。「当初予定していたポンプの耐久性も、ひとつ目途が立ったと思っています。ポンプは液体水素でも最も難しい部品のひとつですので、小さなことではありますが、技術的には大きな前進だと考えております」と伊東主査は語った。
「レースとしては24時間レース以上のものはないと思っていますので、モータースポーツ用としては使えるものになってきたかな、と考えています」
■水素の利活用にも新たな取り組み
今回の第3戦オートポリスでは、水素社会実現に向けた新たな取り組みも行われている。液体水素では、タンクから発生するボイルオフガスというものが課題となっていたが、今回はこのボイルオフガスをいかにエネルギーとして活用するかを取り組んでいるという。
今回、日本重化学工業が清水建設と国立研究開発法人産業技術総合研究所の委託で製造した水素吸蔵合金『Hydro Q-BiC』を使用し、液体水素タンクから発生するボイルオフガスを回収。水素吸蔵合金タンクに貯蔵し、小型のFCスタックで発電。ピットやテント内のスポットクーラーなどの電力に活用されるという。
また、液体水素の普及のためには「クルマとインフラを両輪で開発を進めなければならない」というコンセプトで進んできた挑戦だが、スーパー耐久を舞台に開発してきた液体水素の充填装置を、街の水素ステーションにドッキングさせる実証実験が始められるという。
ともに開発を行っている岩谷産業によれば、全国51カ所にある水素ステーションのうち、8割が液体で水素を貯蔵しているという。ここに、岩谷産業が開発した三叉ジョイントを組み合わせることで、液体水素貯槽から気体水素、液体水素を分岐させることができるという。
これを使い、今もスーパー耐久のピットで使用されるコンパクトな液体水素充填機を組み合わせることで、既存の水素ステーションの設備を活用しながら液体水素の充填ができるようになる。これは10月に愛知県で実証実験が行われるとのことだ。
前回満足に試すことができなかったCO2回収技術も今回トライされる予定で、驚くべき技術が続々と投入されるORC ROOKIE GR Corolla H2 concept。第3戦オートポリスでの活動から目が離せないだろう。
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