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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回】ポテンシャルを活かしきれなかったスプリント予選。フォーマットには違和感も

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回】ポテンシャルを活かしきれなかったスプリント予選。フォーマットには違和感も

 2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。イギリスGPではF1史上初めてスプリント予選が導入されたが、事前の予想通り厳しい週末になったという。グランプリの前には2022年型マシンの実物大モデルが公開され、さらにグランプリ後には来年から使用する18インチタイヤのテストも行われた。盛りだくさんとなったシルバーストンの週末だったが、そんな現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

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18インチF1タイヤテスト:アストンマーティンとハースがそれぞれ100周以上を走行

2021年F1第10戦イギリスGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/スプリント予選19番手/決勝17位
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/スプリント予選18番手/決勝18位

 グランンプリ開幕前の木曜日、2022年型F1マシンの実寸大モデルが発表されました。このクルマについては今の時点でもいろいろな意見があると思いますが、残念ながら僕が答えられることはありません。

 というのも来年のクルマは今までのものとはコンセプトが大きく異なるので、クルマを作る際にどういうアプローチをするのかというのは、最初の時点で新規則をどう理解するのかによって変わってきます。僕たちもある一定の方向性で考えていますが、僕たちとは違う考え方も存在します。僕が「こうなるのではないか」と言うと、違う考え方をしているチームにヒントを与えてしまう可能性もあるので、あまりはっきりしたことは言えないのです。

 シルバーストンで発表されたクルマは、“この新規則の範囲内でクルマを作ったら、こうなるのではないか”というあくまで解釈の一例として捉えればいいと思います。たとえ来年発表されるクルマの外見が今回のものと似ていたとしても、コンセプトがまったく異なる可能性もあります。大幅に規則が変わるので失敗する可能性もありますが、大きなチャンスでもある。蓋を開けてみないとわからないことも多いですが、これに関しては2022年の発表を待っていてください。

 さてイギリスGPではF1史上初めてとなるスプリント予選が行われましたが、予想通り厳しい戦いになりました。やっぱりFP1で1時間走ったすぐ後に予選となると、うちのようなチームや新人ドライバーふたりにはなかなか荷が重いのです。結果として、予選でクルマの性能を活かしきるレベルまでは持っていけませんでした。

 予選後にはクルマがパルクフェルメ下に置かれてしまうので、それ以降クルマのセットアップの変更などはできません。ですから普段FP1からFP3までの3セッションかけてやっていることを、FP1のみでやらなければいけないのです。しかしFP1直後に予選を行うということは、考え方としては普段のFP3と同じく予選練習がまず最優先です。特に新人ドライバーの事を考えるとこれが一番大事です。また、とにかく周回数を増やしたいので、FP1中のガレージでの作業時間は計14分しかとっていません。ですから本当に1分が貴重になってくるのです。

 もうひとつ、シルバーストンはピット出口が特殊なため、セッション中にいつも行うピット出口でのスタート練習ができず、セッション終了後のグリッドスタートのみになります。しかし、これだけではどうしてもデータ不足ですので、貴重な時間を割いてセッション中にガレージ前のピットボックスを使ったスタート練習も行いました。

 スプリント予選とレースの準備は土曜日のFP2で行います。FP2でスプリント予選の準備を優先しているチームもありましたが、僕たちの考えとしてはレースを重視していたので、通常のFP2と同様に燃料を積んでロングランを行いました。ただスプリント予選に向けてクルマのバランスを確認したかったので、FP2の最初にミディアムタイヤを2セット使うことにしました。これによって日曜日のレースには新品のミディアムタイヤが残りませんでしたが、これはまったく懸念していませんでしたし、実際レースでも何の問題もありませんでした。

 スプリント予選ではミディアムを使おうと事前に決めていて、ソフトを使う選択肢はありませんでした。ウチは予選を失敗したわけではなく、なるべくして19番手、20番手という位置になったわけです。もしソフトでスタートして1周目に他車を抜いたとしても、タイヤがダメになった状態ではポジションを守りきれません。ですので当初からミディアムできちんと走りきる戦略をとりました。

 ソフトで走ってよかった例がアルピーヌの2台です。特にフェルナンド(・アロンソ)がそうでした。彼は1周目にポジションを上げることができるドライバーで、なおかつアルピーヌのクルマもトップ10に入るだけのポテンシャルがあります。アルピーヌが予選を失敗したことと、フェルナンドのスタートでの強みを考えれば、ソフトでのスタートは成功だったと思います。その後マクラーレンの2台に抜かれるのは仕方ないとしても、タイヤがダメになった状態でセバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)を抑え切って予選順位よりも上の7番手でフィニッシュしたので、このソフトタイヤ戦略を活かしきったフェルナンドはやはりすごいと思います。

 上位のドライバーもソフトでスタートする必要はなかったはずです。100km走ることだけを考えたら、しかるべき順位で予選を通過したドライバーにとっては、ミディアムで走るのが一番の正攻法だからです。リスクとリワードを考えた時に、フェルナンドのような状況だったらソフトを使うべきだとは思いますが、それ以外は予想通りほぼみんな正攻法でした。

 そういう意味でも、スプリント予選の半分を消化した時点でほぼ結果が見えてしまったので、楽しめる部分は前半だけだったのではないでしょうか。ただ、だからと言って距離を半分の50kmにすると、全員がソフトタイヤで走ることになってしまいます。そうすると今回のフェルナンドのように予選の失敗を挽回できるチャンスも減ってしまいます。そうなればスプリント予選の意義自体がなくなるので、なかなか難しいコンセプトだと思います。

 この週末を振り返ってみて、やっぱり僕が思ったのは、以前のコラムにも書きましたが、FP2をただのフリー走行にしないで日曜日のレースに向けた予選セッションにしてほしかったなということです。セッションが進むにつれて徐々に緊張感が増していくというのがいつものレース週末ですが、そうではなかったイギリスGPは少し違和感がありました。金曜日の予選で緊張感のピークが来て、それが土曜日のFP2で一度下がって、またスプリント予選で上がって……。結果に直接影響する予選をやった後に、結果に繋がらないフリー走行をやるのはどうなのかな、と。またスプリント予選の結果と日曜日のレースは切り離したかったというのが僕の感想です。

■次のページへ18インチタイヤで初走行。バックアップのスタッフの活躍が大きな助けに
 イギリスGP後にはシルバーストンに残って来年に向けた18インチタイヤのテストが行われました。テストはアストンマーティンとレッドブルと合同でした。今回テストで使用したクルマは2019年のVF-19で、前後のサスペンションを18インチタイヤに合うものに取り替えて、ブレーキダクトは13インチタイヤ用のものを改造して使いました。チーム内ではこのテスト用のクルマをVF-19Pと呼んでいます(PはピレリのPです。タイヤテスト用のクルマですから)。

 初日は構造の異なるタイヤが3種類、2日目はコンパウンド違いも含めて4種類ありましたが、もちろんチームによってプログラムは異なります。タイヤテストのメニューはすべてピレリが決定します。午前中はまず2時間ほどかけて、クルマのセットアップ用に2~3セットのタイヤを使用します(2019年のイギリスGPのデータをベースにセットアップを決めました)。その後は比較的軽めの燃料で一発の速さを見るために計測ラップを5回ほどこなして、タイヤがどうなるのかを確認し、午後はレーススタート時と同じくらいの燃料で20周ほど走ってタレ具合や温度、内圧などの変化を見ていました。

 タイヤテストが始まったら、セットアップは基本的には最初に決めたところから変更しません。タイヤはいわゆる“ナマモノ”なので、走らせてみないとどう変化していくのか正確にわからないのです。中途半端な予測を基にセットアップを変えてしまうと余計にわからなくなるので、最初に決めたセットアップで走り、もし「これだとオーバーステアでタイヤの本来の性能を使えないけど、バランスを変えたらもっとこのタイヤを活かせるかも」といったような結果が出れば、再度セットアップを変えて走ることもあります。

 また、このようなタイヤテストの機会を使ってチームがクルマを開発することがないように、クルマの仕様は厳しく管理されています。パーツや車体がどういう状況なのかというのはすべてFIAに報告し、それらを変更する場合はピレリの同意が必要で、変えた場合は再度FIAへ報告します。

 またクルマにどのようなセンサーを搭載するのか等もピレリから指示があり、技術司令(Technical directive)で決められています。その他のセンサーについても、タイヤを理解する目的以外のものは許可されません。

 ところでハースにはテスト用のクルマはないですし、テストチームもありません。ただメカニックについては『レースチームサポート』という、普段ファクトリーで仕事をしているバックアップのスタッフがいます。レースチームサポートのなかには元レースチームのメカニックの人もいるし、まだ経験の少ない若手もいますが、彼らが普段クルマを走らせる機会はありません。今回は彼らにVF-19Pの部品の製作や組み立てなどを任せて、テストでは実際にクルマを走らせる機会を作りました。これは今後に繋がるいい経験になったと思います。

 一方でエンジニアリングにはバックアップのスタッフがいないので、初日はニキータのクルー、2日目はミックのクルーがそれぞれテストを担当し、僕がチーフという体制でした。初日はニキータが110周、2日目はミックが112周とクルマはまったく問題なく走ることができましたし、セットアップ(これも普段レースをしているレースエンジニアではなく、ファクトリーでサポートしてくれているエンジニアたちにお願いしました)も走り出しからかなりいいところにありました。データを収集するために様々な機器が必要になりましたが、それもチーム内のプロジェクトで対処して、ゼロから比較的安価で高性能なものを作ってくれました。僕らのような小さなチームにとっては、このように開発仕様のクルマを1台走らせるのもなかなか大変なことですが、関わったみんなが本当によくやってくれたと思いますし、これから先に繋がると確信しています。

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