現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 「ウナギ頼んだらドジョウ」といわれた悲運の「ミニ新幹線」「スーパー特急」計画 フル規格への「見せ玉」だったのか?

ここから本文です

「ウナギ頼んだらドジョウ」といわれた悲運の「ミニ新幹線」「スーパー特急」計画 フル規格への「見せ玉」だったのか?

掲載 更新 79
「ウナギ頼んだらドジョウ」といわれた悲運の「ミニ新幹線」「スーパー特急」計画 フル規格への「見せ玉」だったのか?

実は国鉄時代生まれの「ミニ新幹線」

新幹線と在来線を直通する山形新幹線、秋田新幹線は「ミニ新幹線」と呼ばれます。民営化を象徴する柔軟な取り組みと思われがちですが、国鉄末期の1983(昭和58)年に検討が始まっています。在来線の標準軌化や速度向上の検証結果はJR東日本に引き継がれ、1988(昭和63)年8月に着工しました。

【つぎはぎドジョウ】北陸新幹線の「コストカット整備案」を見る(路線図)

この時点でミニ新幹線という名称はなく、「新幹線・在来線直通運転」あるいは「新在直通」と呼ばれていました。ミニ新幹線という用語は、1988年8月に運輸省が政府・与党検討委員会に提出した整備新幹線の「運輸省案」で、「新幹線鉄道直通線」の通称として登場したのが最初です。またこの時、「新幹線鉄道規格新線(通称・スーパー特急)」という概念もあわせて登場しました。

ミニ新幹線は、在来線の線路の幅(1067mm)を新幹線と同じ1435mmに変更して新幹線車両を直通運転させる運転形態です。一方、スーパー特急は新幹線規格の構造物に1067mmの線路を敷設し、在来線車両が160~200km/hの高速運転を行う運転形態です。

運輸省がミニ新幹線とスーパー特急を打ち出したのは、1973(昭和48)年に整備計画が決定するも、オイルショックや国鉄の経営悪化で建設が凍結された整備新幹線計画を打開するためでした。

国鉄分割民営化が決定すると整備新幹線の建設再開に向けた検討が本格化しましたが、問題は莫大な建設費でした。北海道・東北・北陸・九州(鹿児島ルート)・九州(西九州ルート)の5路線のうち、東北・北陸(高崎~金沢間)・九州(鹿児島)を優先的に建設するにしても、建設費は総額2兆9200億円が必要でした。

1987(昭和62)年時点の国鉄長期債務は25兆円だったので、その1割以上の金額です。国鉄改革の舌の根も乾かぬうちに莫大な投資をしようという計画は理解されるはずがありません。そこで運輸省は大胆なコストカット案として、ミニ新幹線とスーパー特急を組み合わせた暫定整備案を立案したのです。

法令上は「新幹線」ではなかった

運輸省案は「幹線鉄道の高速化は必要である」「第二の国鉄は絶対に作らない」「整備実現に向けて現実的な考えに立つ必要がある」という三つの考え方に立っています。東北盛岡~青森間、北陸高崎~金沢間、九州新八代~西鹿児島間のうち、フル規格は東北の沼宮内~八戸間と北陸の高崎~軽井沢間のみ、他はミニ新幹線とスーパー特急にすることで、建設費を1兆3800億円まで圧縮しました。

興味深いのは、長野以南と北陸方面でアプローチを変えた北陸新幹線です。碓氷峠を越える高崎~軽井沢間は時短効果が大きいためフル規格とする一方で、軽井沢~長野間は標準軌に対応し在来線に乗り入れます(運輸省案では狭軌・標準軌の3線軌条を想定していたようです)。

一方、北陸方面は六日町から犀潟まで北越北線を高速化して整備し、越後湯沢から乗り入れます。つまり往年のほくほく線特急「はくたか」ですが、運輸省案では時短効果の高い糸魚川~魚津間、高岡~金沢間に新線を建設し、スーパー特急として運行する計画でした。ほくほく線内の160km/h運転はスーパー特急の系譜を示すものだったのです。

とはいえ、つぎはぎの整備計画を目の当たりにした沿線地域は「ウナギを頼んだらドジョウやアナゴが出てきた」と不満の声を上げました。そもそも新幹線とは全国新幹線鉄道整備法(全幹法)で「主たる区間を列車が200キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道」(第2条)と定義されており、200km/hに満たないミニ新幹線、スーパー特急は新幹線ではありません。

そこで1991(平成3)年の全幹法改正で、ミニ新幹線とスーパー特急をフル化までの「暫定整備」と位置付ける附則を追加し、地元の不安・懸念に対応しました。ということは、整備新幹線の暫定整備ではない山形新幹線・秋田新幹線は、法令上の「ミニ新幹線」ではないというのはおもしろい話です。

評判の悪かったミニ新幹線とスーパー特急は、その後の地元選出議員の働きかけで、最終的に全区間がフル規格に格上げされました。最後まで残ったスーパー特急の西九州新幹線も、2011(平成23)年にフリーゲージトレイン(FGT)の導入が決まりフル化されました(その後FGTは開発を断念)。こうした経緯から「ミニ新幹線とスーパー特急は元々、見せ玉だった」と語られることがありますが、運輸省には運輸省なりの真面目な考えがあったようです。

運輸省案の作成に携わった元運輸官僚の佐藤善信氏は「整備新幹線の着工を大蔵省に認めてもらうために、闇雲に建設費を圧縮したものでは決してありません」と述べます。東京~青森間約4時間、上野~金沢間約3時間、博多~西鹿児島間約2時間といった目標水準を定め、「投資効果を考慮して、各線ごとに極めて時間短縮効果の高い施設整備を行う」ものでした。

新八代~西鹿児島間の先行着工については「先っぽの方を作っておけば、そのうち博多まで作らざるを得なくなると解説する人もいましたが、そんな事は全く考えていませんでした」とも述べています。

全線フル化で東京~新青森間は3時間弱、東京~金沢間は2時間半、博多~鹿児島中央間は1時間半に短縮されました。速いに越したことはないですが、そのためにどの程度の費用を投じるべきかは全体のバランスで考えることです。資金・資産を最大限活用しようとした運輸省案の試みは、財源不足に直面する今だからこそ振り返る必要があるのかもしれません。

文:乗りものニュース 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

関連タグ

【キャンペーン】お得に給油!第1・3金土日はガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録&特定情報の入力)

こんな記事も読まれています

寝台特急が「ドア全開」で5km逆走! 東京の日常だった「客車が先頭」運転 空から捉えた11年前の記録
寝台特急が「ドア全開」で5km逆走! 東京の日常だった「客車が先頭」運転 空から捉えた11年前の記録
乗りものニュース
新幹線にグリーン車を遥かに凌駕する「最高峰の座席」が登場! 移動の概念を変える“極上のプライベート空間”に
新幹線にグリーン車を遥かに凌駕する「最高峰の座席」が登場! 移動の概念を変える“極上のプライベート空間”に
乗りものニュース
標高855m! なぜ東京の通勤電車が山形に? ロープウェイ駅で見た“ありえない光景”実現の経緯
標高855m! なぜ東京の通勤電車が山形に? ロープウェイ駅で見た“ありえない光景”実現の経緯
乗りものニュース
JR東の“黄色い事業用車両”の鉄道模型化が決定! 同時にナゴヤの名店の模型化も発表される
JR東の“黄色い事業用車両”の鉄道模型化が決定! 同時にナゴヤの名店の模型化も発表される
乗りものニュース
新快速「お手頃有料座席」で1日1本だけの行き先へ 満員列車を3時間乗り通してみた光景
新快速「お手頃有料座席」で1日1本だけの行き先へ 満員列車を3時間乗り通してみた光景
乗りものニュース
「なぜ消すんだ!」ドイツで叱られて気づいたヘッドライトの真の役割と、日本の“もったいない”文化の壁【木下隆之コラム】
「なぜ消すんだ!」ドイツで叱られて気づいたヘッドライトの真の役割と、日本の“もったいない”文化の壁【木下隆之コラム】
LEVOLANT
「尾翼が壊れるほどの超急降下する旅客機」 ”戦慄の惨事”となった機内が公開される 「機長の機転」で無事着陸も
「尾翼が壊れるほどの超急降下する旅客機」 ”戦慄の惨事”となった機内が公開される 「機長の機転」で無事着陸も
乗りものニュース
まだ使われていたの? 軍用ヘリ墜落事故、原因は「老朽化」 日本も対岸の火事と言い切れない理由
まだ使われていたの? 軍用ヘリ墜落事故、原因は「老朽化」 日本も対岸の火事と言い切れない理由
乗りものニュース
地下鉄東西線から「大宮駅まで直通する列車」が運行へ 始発駅は“葛西”!  超異色のルートを1日限定で走行
地下鉄東西線から「大宮駅まで直通する列車」が運行へ 始発駅は“葛西”! 超異色のルートを1日限定で走行
乗りものニュース
【なぜ駅・電車のマナーは守れない?】現代人の2割超が「スマホの使い方」にイライラ、便利な行動が迷惑になる理由とは――「個人の責任論」では見えない公共空間のリアル
【なぜ駅・電車のマナーは守れない?】現代人の2割超が「スマホの使い方」にイライラ、便利な行動が迷惑になる理由とは――「個人の責任論」では見えない公共空間のリアル
Merkmal
地図会社も「びっくり道路」認定!道路にデカデカと描かれた“巨大な30”の謎 「速度制限じゃない」…一体何なの!?
地図会社も「びっくり道路」認定!道路にデカデカと描かれた“巨大な30”の謎 「速度制限じゃない」…一体何なの!?
乗りものニュース
「空港発宇宙行きです」“旅客機みたいに飛ぶ宇宙船”その驚愕プランとは? 「コンコルド」の知見もフル活用
「空港発宇宙行きです」“旅客機みたいに飛ぶ宇宙船”その驚愕プランとは? 「コンコルド」の知見もフル活用
乗りものニュース
まるで双頭竜! 1機だけ作られた「世界最大の怪鳥飛行機」の姿、”スゴい視点”から捉えた圧巻の映像が公開される
まるで双頭竜! 1機だけ作られた「世界最大の怪鳥飛行機」の姿、”スゴい視点”から捉えた圧巻の映像が公開される
乗りものニュース
なぜドイツ人はSUVよりワゴンを選ぶ? 日本でもSUVやミニバンじゃ得られない「知られざる特権」
なぜドイツ人はSUVよりワゴンを選ぶ? 日本でもSUVやミニバンじゃ得られない「知られざる特権」
WEB CARTOP
中央線の「複々線延伸」は本当に実現するのか? 計画から半世紀以上 “多摩都民の悲願”を阻む壁
中央線の「複々線延伸」は本当に実現するのか? 計画から半世紀以上 “多摩都民の悲願”を阻む壁
乗りものニュース
【まさかの展開】 北陸の赤字鉄道が39.5億円の新造車両を導入!なぜ採算が合わなくても投資できるのか?廃止より存続が選ばれた意外な理由とは
【まさかの展開】 北陸の赤字鉄道が39.5億円の新造車両を導入!なぜ採算が合わなくても投資できるのか?廃止より存続が選ばれた意外な理由とは
Merkmal
「保線さんじゃニャイんですか?」線路内への侵入に関する注意を呼び掛ける投稿での“カワイイ侵入者”に「勘弁してやってください」の声も!?
「保線さんじゃニャイんですか?」線路内への侵入に関する注意を呼び掛ける投稿での“カワイイ侵入者”に「勘弁してやってください」の声も!?
乗りものニュース
代替バスも9年で撤退か JRの長大廃線が「2度目の廃線」危機 加速した客離れ
代替バスも9年で撤退か JRの長大廃線が「2度目の廃線」危機 加速した客離れ
乗りものニュース

みんなのコメント

79件
  • dar********
    北陸新幹線小浜京都ルートの建設費5兆円は、どうやって捻出するんでしょうか...
    前原の話だと、JR西日本に1兆円以上負担させることで、京都府の負担を500億円に軽減できるとの事だったが、こんな巨額負担をJR西日本とその株主が容認するはずは無く、いずれ建設費の負担先のことでもめると思います。
  • miz********
    山形新幹線は1992年に開業。フル規格にこだわってたらいまだに山形には新幹線は来てなかったでしょうね。下手したら永遠に新幹線は開通してなかったかも。ミニで手打ちしたから早い段階で全国のローカル都市に先駆けて新幹線の利便性を手に入れられた。そういう意味で時間を買うことができたのは大きい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

178 . 9万円 ~ 209 . 9万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

55 . 0万円 ~ 495 . 0万円

中古車を検索
ローバー ミニの買取価格・査定相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

178 . 9万円 ~ 209 . 9万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

55 . 0万円 ~ 495 . 0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村