1990年代の日産を代表するスポーツセダン「プリメーラ」の名が帰ってきました。ただその中身は、中国で開発されたバッテリーEV「N7」。かつてのプリメーラとはその成り立ちが大きく異なります。なぜ日産はこのN7に「プリメーラ」の名を与えたのでしょうか。その背景から、日産の新たな商品戦略を探ります。
文:吉川賢一/写真:NISSAN
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約20年ぶりに復活した「プリメーラ」はどんなクルマ?
日産は2026年6月4日、第10回フィリピン国際モーターショー(PIMS)で、新型バッテリーEVセダン「プリメーラEV」を公開しました。P12型が販売終了(2008年)して以来、約18年ぶりに「プリメーラ」の車名が復活したことになります。
日産「プリメーラ」は、1990年代の日産を代表するミドルクラスセダンです。高い操縦安定性とスポーティな走りが評価され、日本だけでなく欧州市場でも人気を集めました。とくに初代P10型と2代目P11型は、いまも名車として語り継がれる存在です。
その伝統ある車名が、今回、パワートレインも開発環境も大きく異なる新型BEVの名に選ばれたのです。
ベースは中国で人気を集める最新BEV「N7」
冒頭でも触れたように、新型プリメーラEVは、中国市場で販売されているBEVセダン「N7」をベースとしたモデルとみられています。正式な車両諸元は公表されていませんが、日産は、中国で開発した電動車を海外市場へ展開する取り組みを進めており、今回の発表に際しても、日産のチーフ パフォーマンス オフィサーであるギョーム・カルティエ氏は「この発表は“From China”輸出戦略の始まりを示している」としています。
公開された車両がN7との共通点を数多く備えていることからも、新型プリメーラEVはN7をベースとしたモデルと考えてよさそうです。
N7は、中国市場で人気の高い全長約4.9mクラスのミドルサイズBEVセダンです。駆動用バッテリーは58kWhと73kWhの2種類(いずれもリン酸鉄リチウムイオンバッテリー)を設定し、CLTCモードで最大635kmの航続距離を実現。急速充電では約15分で30%から80%まで充電できる性能を備えます。
装備も充実しています。中国の自動運転技術企業モメンタと東風日産が共同開発した先進運転支援システム「Navigate on Autopilot」を採用するほか、AIが乗員の姿勢に合わせてサポートする「ゼロプレッシャーシート」を搭載。12点マッサージ機能や空気圧式クッションも備え、快適性にも力を入れています。
ターゲットユーザーは若いファミリー層。東風日産によると、N7購入者の多くは35歳以下で、約70%が日産車を初めて購入するユーザーとのこと。若い世代の新規顧客獲得という開発時の狙いは、一定の成果につながっているようです。11万9900元(約284万円、1元=約23.7円換算)からという競争力の高い価格設定も、その後押しになっていると考えられます。
なぜ「N7」ではなく「プリメーラ」を名乗ったのか
N7の好調ぶりをみれば、新型プリメーラEVも競争力の高い商品となることが期待できますが、気になるのは、日産が「N7」という車名をそのまま使わず、あえて「プリメーラ」という名前を使ったことです。
中国市場では、アルファベットと数字を組み合わせた車名を持つ電動車が数多く販売されており、シャオミ「SU7」やBYDの高級ブランド・デンツァ「N7」のほか、日本メーカーもトヨタの「bZ3」「bZ5」や、ホンダ「S7」、マツダ「EZ-6」など記号式を採用しています。先進性やデジタル感を印象づけるほか、ヒエラルキーがわかりやすいというメリットもあるようです。
ではなぜ、フィリピンで発表したモデルは「プリメーラ」としたのか。かつてのプリメーラはフィリピンに正規導入されておらず、現地でその名を知る人は多くないと思われますが、フィリピンが日本車への信頼が根強い市場であることを踏まえれば、往年の名車の車名を与えることで、このクルマが長い歴史を持つ日本ブランドだ、というイメージを訴求する狙いがあったと考えられます。
また今後の”From China“輸出戦略において、かつてプリメーラが高い評価を得ていた欧州などで、そのネームバリューを生かそうという狙いもあるのかもしれません。
日本では「N7」のほうがいいかも!??
ただ日産は、2026年4月の北京モーターショーで、中国市場向けのPHEVコンセプトSUVに、往年の名車「テラノ」の名を与えており、中国向けモデルでも、車種によっては歴史ある車名を使う姿勢を示しています。
N7のような電動セダンには市場のトレンドに沿ったネーミングを与え、「本格派」であることが求められるテラノPHEVには、新興メーカーにはないヘリテージを活用するという、ネームプレートを商品づくりの一部として考えていることがわかります。
現時点ではこの新型プリメーラEVの日本導入に関する情報はありませんが、もし「プリメーラ」の名で販売されれば、中身は最新のデジタルBEV、名前は往年のスポーツセダンという大きなギャップが生まれることで、かつてのプリメーラを知るファンを中心に賛否をよぶ可能性があります。そのため、日本で販売するのであれば、むしろ「N7」のまま導入したほうが受け入れられやすいかもしれません。
「プリメーラの名前の安売り」と映るかもしれませんが、ビジネスの視点で考えれば、日産というブランドが次の時代もグローバルで生き残るために使える武器(中国の技術と過去の遺産)を全て使い切る、という攻めの姿勢として、この判断にも十分納得できます。
今後は、プリメーラに続き、「サニー」や「ブルーバード」、「シーマ」など、日産を代表する車名が新たな時代のクルマとして復活する日が来るのかにも注目したいところです。
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さよなら日産の間違いでは?