開発コード「SX-7」、初代シティの開発は、「1980年代の新たな省資源車を造れ」という指令のもと、1978年に始まっている。開発陣の平均年齢は27歳。その手法はユニークで、「トールボーイ」や「ポケッテリア」など広告・宣伝キャッチと同時進行でクルマをカタチにしていくというもの。宣伝効果も相まってピーク時には1万6000台を超える月販を記録。安全や環境性能も大切だけれど、やっぱりクルマはワクワクさせてくれなきゃ、と思わせる代表格が初代シティだった。
【画像】停滞期にあえぐホンダ。若き開発陣が上層部を説得して発売までこぎつけた「シティ」を写真で見る。
●文:横田晃(月刊自家用車編集部)
ホンダ シティR(1981年)
―― デビュー時はEとRの2タイプ。Rは前後スタビライザーで足を硬めたスポーティ仕様。後に追加された脱着式のスモークドガラスサンルーフは4万円高で設定。直射日光をさえぎるサンシェードも付く。
―― 【主要諸元 シティR(1981年式)】 ●全長×全幅×全高:3380mm×1570mm×1470mm●ホイールベース:2220mm ●車両重量:665kg●乗車定員:5名●エンジン(ER型):直列4気筒SOHC1231cc●最高出力:61PS/5000rpm●最大トルク:9.8kg-m/3000rpm●最小回転半径:4.5m ●10モード燃費:19.0km/L●燃料タンク容量:41L●トランスミッション:前進5段・後進1段●サスペンション(前/後):ストラット式コイルスプリング/ストラット式コイルスプリング(コイル分離式)●タイヤ:165/70SR12 ◎新車当時価格(東京地区):78万円
―― ダッシュボード上に設置されたエアコンを利用したクールポケットと呼ばれる収納スペースは当時としては斬新なアイデアだった。ほかにも丸形のエアダクトやエアコンパネルなどを上部に集中させることで足元をすっきりさせて左右の移動を容易にしたウォークスルーなど、当時としてはセンセーショナルな運転席だった。
―― シートバック上部を思い切って切り下げたユニークな形状のローバックシートだが、当時の記事ではとくに横方向のサポート性の良さを絶賛する声も多かった。なおRのリヤシートはワンタッチで取り外せるデタッチャブル式になっていて、取り外したシートは野外ソファとしても使えた。
若い技術者たちが常識の打破へと挑んだ開発プロジェクト
町おこしを成功させる決め手は、若者とよそ者、そして馬鹿者を参加させることだという。新しい風を求めて積極的に行動する若者と、しがらみにとらわれることのないよそ者、そして常識に頓着しない馬鹿者という役者が揃ってこそ、停滞した町に新鮮なムーブメントを起こせるというのだ。1981年のシティの誕生は、当時のホンダにとって町おこしのようなイベントだった。
ホンダは戦後に起業し、1960年代になって4輪事業に参入した最後発メーカー。躍進のきっかけとなった軽自動車事業から一時撤退した後の1970年代後半には、年間販売台数30万台の壁が破れず、停滞期に入っていた。まさに町おこしが必要な状況にあったのだ。その起爆剤として、1978年春にスタートしたのが、後にシティとして登場する新型小型車の開発プロジェクトだ。
集められた開発メンバーの平均年齢は、じつに27歳という若さ。トップから下されたコマンドは、「1980年の省資源車の決定版を作れ」というシンプルなものだった。そもそもホンダは、個性的な創業社長の元に、若いよそ者たちが集まって生まれたメーカーだ。型破りな、いわば馬鹿者役の社長=本田宗一郎と若者たちが生み出したエネルギーが、世界初の4気筒大型2輪車のCB750Fourや2輪用空冷エンジンをベースにした高性能軽自動車のN360、そして世界で初めて厳しい排ガス規制をクリアしたCVCCエンジンなどのユニークな商品を生んできた。若者たちにチャレンジングな課題を与えるという、いわばお家芸から生まれたシティの内容は、そんなホンダらしいものだった。
低燃費自慢のコンバックスエンジン
―― CVCC -IIをベースに新開発されたCOMBAXエンジン。66mm×90mmの超ロングストロークで圧縮比は10.0、低・中速トルクの良さに定評があった。COMBAXはCOMPACTとBLAZING-COMBUSTION AXIOM(高密度速炎燃焼原理)を略した造語
チャレンジングな課題から生まれたエポックメイキングカー
搭載される1.2LエンジンはCVCCをベースに、超ロングストロークの採用などで、レギュラーガソリン車としては世界最高となる圧縮比10:1を実現。高性能と低燃費、コンパクトネスを見事に達成していた。それを搭載するボディは、タイヤを四隅に追いやり、全高を思い切って高めた、寸詰まりなプロポーションの2BOX。背を高め、乗員をアップライトに座らせることで空間効率を高める手法は、今日のハイト系軽自動車では常識だが、当時は誰もが驚くコロンブスの卵的な「発明」と言えた。
「機構最小、機能最大」というそのコンセプトは、今日のホンダ車も掲げるMM思想=マン・マキシマム、メカ・ミニマムそのもの。さらに、そうして稼いだ荷室にぴったりと収まる折り畳み式の原付バイク、モトコンポも同時開発。2輪、4輪をともに手がけるメーカーならではの商品企画だった。
ホンダらしいユニークな商品企画、とはいっても、当時のホンダはすでにれっきとした大企業の仲間入りをしていた。馬鹿者役の創業社長はとうに引退しており、意思決定をつかさどる経営幹部たちはもはや若くはない。当然のように、常識はずれのプロポーションを持つシティのデザイン案には、当初は反対意見も強かった。
―― シティの荷室にすっぽり格納できるモトコンポは8万円。全長×全幅×全高は1185 mm×535 mm×910 mm、車両重量は45kg。2.5PS、49ccエンジンを積み公道も走れる。燃料タンク容量は2.2L。ホンダはシティで4+2ドライブの楽しさを提案。2001年の2代目ステップワゴンにも車載用電動アシスト自転車「ステップコンポ」を設定した。
ホンダ MOTOCOMPO(1981年式)
―― 主要諸元
●全長×全幅×全高:1185mm×535mm×910mm ●車両重量:45kg●乗車定員:1名●エンジン(AB12E型):空冷2サイクル49cc ●始動方式:キック●点火方式:CDI●最高出力:2.5PS/5000rpm●最小回転半径:1.3m●燃費:70.0km/L(30km/h定地走行テスト値)●燃料タンク容量:2.2L●変速機:自動遠心クラッチ●タイヤ(前/後):2.50-B-4PR/2.50-8-4PR◎新車当時価格(東京地区):8万円
開発メンバーのみならず、宣伝・販促部門も巻き込んだ新しいクルマ造りが、市場に新風を巻き起こしたのだ
しかし、若き開発者たちは自らが生み出した新しい乗り物の可能性を信じ、難色を示す上層部を説得し続けて、ついにOKを引き出す。その新しさにわくわくして勢いづいたのは、開発メンバーだけではなかった。宣伝・販促部門の若者たちも面白がってアイデアを出し、かつてない手法に挑む。
英国の無名スカバンド、「マッドネス」のメンバーがムカデのように連なって踊りながら「♪ホンダ、ホンダ、ホンダ、ホンダ」と連呼するCMは、やはり難色を示す経営陣を押し切って作られ、子供たちはもちろん、サラリーマンの宴会芸としても定番になるほどの人気を呼んだのだ。
姿かたちや売り方がユニークだった一方で、シティはクルマとしての基本性能に関しても、専門家からの高い評価を得た。COMBAXと命名された新しいエンジンは、低燃費でありながら扱いやすく、良く回った。シャシーもきちんと作り込まれており、従来のこのクラスでは求められなかった快適な高速巡航が可能だった。ホンダはFF車第一作となった1967年のN360が、高性能と裏腹に神経質な限界特性が災いして、欠陥車疑惑をかけられるという苦い経験をしている。その汚名をそそぐために、誰よりもFF車の操縦安定性の研究に力を入れた。その成果が、Nの14年後に登場したシティに発揮されていたのだ。
―― イギリスのスカ・バンド、マッドネスを起用したムカデダンスでさらに話題性を振りまいた。
優れたシャシーゆえに、派生モデルが次々と誕生した初代シティ
優れたシャシーの甲斐あって、1982年には100PSの高性能を実現したホンダ初のターボも誕生。さらに1983年にはインタークーラーターボで110PSを絞り出したターボII、通称「ブルドッグ」も投入され、好評を博す。そのCMに登場して話題を呼んだロボットブルドッグをデザインしたのは、出世作となる「AKIRA」の連載が前年に始まったばかりの大友克洋。シティはハード、ソフトの両面において、まさに若いセンスが炸裂していた。それらの成功は、日本におけるマイカーが、かつてのようなステイタスシンボルや憧れの対象ではなく、乗り手の個性で選ばれる、ファッションと同様の自己表現手段になったことを示していた。シティはヒエラルキーに属さない、初めての小型車であったのだ。
発売から2年で15万台を売るヒットとなったシティは、その後も若い感性を発揮した装備やバリエーションを投入し続けた。ターボと同じ1982年には、前席に20W+20Wのアンプで駆動する振動板を仕込み、重低音を直接身体に響かせる、世界初のボディソニック仕様を発売。プレリュードに初採用されたスモークガラスサンルーフも設定している。
さらに1982年秋には、ルーフ部分を100mmもかさ上げしたマンハッタンルーフを登場させ、1984年になると、そのハイルーフ部に大出力スピーカーを装着し、駐車中には外部に向けてPA(コンサート用などの大出力音響機器)としても使えるマンハッタン・サウンド・システムも登場した。ピニンファリーナのデザインと架装によるカブリオレも同年の作だ。かと思えば、翌1985年には世界初のアルミコンロッドを採用して、当時の10モード燃費で24km/Lという低燃費を実現。4速MTの2~4速に低高速を切り替えられる副変速機を備えた新機軸、ハイパーシフトも続けて投入している。常識にとらわれない発想で開発されたシティは、市場投入後も走りや環境性能、使い勝手や楽しみ方など、全方位でユニークなニュースを発信し続けたのだ。
ホンダ シティターボ(1982年式)
―― 主要諸元 ●全長×全幅×全高:3380mm×1570mm×1460mm●ホイールベース:2220mm●車両重量:690kg●乗車定員:5名●エンジン(ERターボ型):直列4気筒SOHC1231cc+ターボ ●最高出力:100PS/5500rpm●最大トルク:15.0kg-m/3000rpm ●最小回転半径:4.5m●10モード燃費:18.6km/L●燃料タンク容量:41L●トランスミッション:前進5段・後進1段●サスペンション(前/後):ストラット式コイルスプリング/ストラット式コイルスプリング(コイル分離式)●ブレーキ(前/後):Vディスク/ドラム●タイヤ:185/60R13 80H ◎新車当時価格(東京地区):109万円
―― ゼロからデザインされたターボのバケットシート。ヘッドレストはシースルータイプ。シートベルトはELR付きの3点式。
ホンダ シティターボII(1983年式)
―― 主要諸元 ●全長×全幅×全高:3420mm×1625mm×1470mm●ホイールベース:2220mm ●車両重量:735kg●乗車定員:5名●エンジン(ERターボ型):直列4気筒SOHC1231cc+インタークーラー付きターボ ●最高出力:110PS/5500rpm●最大トルク:16.3kg-m/3000rpm●最小回転半径:4.6m●10モード燃費:17.6km/L●燃料タンク容量:41L●トランスミッション:前進5段・後進1段●サスペンション(前/後):ストラット式コイルスプリング/ストラット式コイルスプリング(コイル分離式)●ブレーキ(前/後):Vディスク/ドラム●タイヤ:185/60R13 80H ◎新車当時価格(東京地区):123万円
―― シティターボIIのCMで話題を読んだキャラクター「ロボットブルドック」。デザインを担当したのは、当時売り出し中だった大友克洋氏。
ホンダ シティカブリオレ(1984年式)
―― 主要諸元 ●全長×全幅×全高:3420mm×1625mm×1470mm ●ホイールベース:2220mm●車両重量800kg●乗車定員:4名●エンジン(ER型):直列4気筒SOHC1231cc●最高出力:67PS/5500rpm●最大トルク:10.0kg-m/3500rpm●最小回転半径:4.6m●10モード燃費:16.4km/L●燃料タンク容量:41L●トランスミッション:前進5段・後進1段●サスペンション(前/後):ストラット式コイルスプリング/ストラット式コイルスプリング(コイル分離式)●ブレーキ(前/後):Vディスク/ドラム●タイヤ:175/60R13 76H ◎新車当時価格(東京地区):138万円
―― ボディ剛性と安全性のためオーバーヘッド・バーを採用するが、前席からは視界に入らず、爽快感の邪魔にならない。手動式の幌の開閉は
慣れれば1分もかからずに完了、重くないので女性でも簡単にできた。
―― ハイパーシフト(副変速機付きの変則7MT)
ハイパーシフトは4速マニュアルの2、3、4速に副変速機を採用した実質7段変速。副変速機は手動のほか、アクセルの踏み加減や速度などにより自動変速する機能も併せ持つ。高速の追い越しや登坂では自動で低速側に変わり、パワフルな加速を引き出すわけだ。
―― マンハッタンルーフ/マンハッタンサウンド
マンハッタンルーフはシティRの車高を100mmアップしたハイルーフ仕様。その天井の高さを利用したスーパーオーディオ付きのマンハッタンサウンド仕様車も登場した。左右のドアスピーカーに加え、リヤルーフに大型のスピーカーボックスを装着。車内でも車外でも楽しめるこのオーディオには、マイクミキシング機能も標準装備された。
NSXが世に出るはるか前に、初期のミッドシップ実験車両のベースとなったのも初代シティだった
ちなみに、のちにNSXとして結実するホンダのミッドシップ技術の初期の実験車両も、このシティがベースだったという。世界的に環境性能と安全性能の向上が求められる中で、重量増などのネガティブ要因とハンドリングを両立させる手段のひとつとしてミッドシップが研究された。そのテストベッドとして、短い全長とホイールベースに高い車高という、本来走りには不利な諸元を持つシティが選ばれたのだった。
初代シティの誕生から45年近くを経て、日本の軽自動車はそれを上回るパッケージを実現し、小型車の全高も世界的に高まっている。当時の若いホンダ開発者たちが挑んだ非常識は、今や常識になったのである。
初代シティ(AA型)変遷
―― 1981年(11月 )シティおよび商用のシティ・プロを発売。1982年(8月) 低燃費仕様の「E」追加。(9月 )シティ・ターボ追加。(11月 )マンハッタンルーフ付き追加。1983年(10月 )インタークーラー付きターボのターボII追加。1984年(4月) マイナーチェンジ。マンハッタン・サウンド・システム発売。(7月) カブリオレ追加。1985年(3月 )マイナーチェンジ。アルミコンロッドを量産車として世界で初めて採用した低燃費仕様車のE IIIを追加。(4月) ハイパーシフト仕様車を設定。1986年(10月 )フルモデルチェンジで2代目に移行。
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みんなのコメント
ミニカトッポが後に続いたクルマかな
5バルブターボなグレードもあったし
その後、ワゴンRで昇華した
ホンダは背の低いモデルに頑なに固執し、オデッセイ同様に流用ラインで許される背高のライフを出して久々にコンパクトのヒットモデルを出すまで冷飯食らってましたね