日本でも受注好調だというマセラティのMC20はブランドのDNAを継承し、さらには半世紀前に誕生したボーラのコンセプトを受け継いでいると言えるだろう。そこで、「イタリアのクルマたちにまつわる人や出来事など、素晴らしき“イタリアン・コネクション”を巡る物語」では、そのユニークなミドシップ・モデル、ボーラの歴史を紐解いてみよう。
Maserati優れた快適性、実用性を持ったGTカー
マセラティが先日発表したミドマウント・エンジンのスポーツカーであるMC20の受注が開始され、日本においてもたいへん好調な出だしであるという。マセラティにとって日本はとても重要なマーケットだから、彼らも大いに喜んでいるはずだ。ギブリ、ボーラと言った大型GT時代はごく限られた台数しか輸入されることはなかったが、デ・トマソによるコンパクトな“ビトゥルボ”が誕生すると、日本は一気に大きなマーケットとなった。
とりわけ1990年代初頭は、日本が世界で最もたくさんマセラティを売る国となったのだ。スーパーカーブーム時代のマセラティ・ブランドの名前が刷り込まれていたこともあり、このバブル期に登場したビトゥルボ・モデルがヒットしたことにより、日本におけるマセラティの存在感は、思いのほか高いものになった。
ビトゥルボ系のモデルは外観こそ比較的おとなしかったが、中身はけっこう硬派なクルマぞろいだった。ドライブフィールはかなり荒々しく、エグゾーストノートも野太かった。エンジンマウントなども快適性に向けたチューニングがされてはいなかったから、アイドリング時から結構なバイブレーションがあり、助手席に乗せた人からは、「このクルマ、ディーゼルなんですか? 」なんて言われたこともあったほどだ。
さて、この辺で本題のボーラについていえば、30年以上、ボーラとビトゥルボ系のモデル、および時々の最新マセラティを保有し続けた人間(=著者)に言わせるなら、それは恐ろしく洗練されたスポーツカーなのである。断言できる。乗り心地、遮音性や使い勝手などが充分に考慮された、まごうことなきグラントゥーリスモなのだ。ビトゥルボ系と比較してもボーラの方が運転におけるストレスが少なかったくらいだ。であるから、スーパーカーブームの頃に比較されたランボルギーニ カウンタックやフェラーリBB系などとは全く性質を異にしたモデルといえる。
Maserati S.p.A. / Norisボーラのステアリングを握ると、ペダルレイアウトは全く無理がなく、コクピット全体が広々としていることを第1に感じるはずだ。ペダルの前後調整もシートアングル調整もワンタッチでできるので、理想的なドライビング・ポジションを得られる。もちろん、ステアリングの角度及び前後の位置決めもアジャストできる。分厚いドアを閉めてみよう。すると、この時代のスーパーカーにはありえない静粛な空間がそこにある。エンジン・コンパートメントと室内を区切るリアウィンドウは2重ガラスだ。ボディには、これでもかというほどの吸音材が詰め込まれているし、サブフレームに搭載されたV8エンジンは大型のラバー製インシュレーター介して強固なボディと接合されている。これらのこだわりを見る限り、軽量化などということは二の次であったことは間違いない。
では、いったい何故、そこまで快適性を重視したコンセプトでボーラが開発されたのか? 実は、そこに、ある人物が大きく関わっている。
シトロエンからマセラティへのラブコール
ボーラの開発が始まらんとしていた頃、ランボルギーニ ミウラは自動車業界におけるスーパースターであった。そして、それを地団駄踏んで眺めていた人物がいた。ジュリオ・アルフィエーリである。アルフィエーリはマセラティのチーフエンジニアとしてレースカーの250Fやバードケージから3500GT、ギブリなど、マセラティの歴史に残る名車を手掛けていた。
時計の針を1961年に戻そう。アルフィエーリはフェラーリから一人の若者を引き抜いた。その若きエンジニアの名前はジャン・パオロ・ダラーラであり、のちにミウラの生みの親となった人物だ。ダラーラは、アルフィエーリが生み出した数々の画期的なアイデアに出合うことになった。
Tipo8と称するコンパクトな横置きV12エンジンや、バードケージ=鳥かご、と称された細い鋼管を鳥籠のように組み合わせた軽量かつ高剛性なシャシーなどだ。ミウラの横置きV12エンジンはこのTipo8を参考にした、とダラーラ本人も語っている。また、バードケージ・フレームは、当時ジャガーDタイプのようなモノコックのボディ/シャシー作りのノウハウがモデナになかったため、苦肉の策としてアルフィエーリが考案したものだった。しかし、ダラーラはモデナのシャシー作りの匠と共に、ミウラ用のモノコックシャシーを作り上げてしまったのだ。
アルフィエーリはアイデアマンであり、誰もやっていないユニークなことに取り組むことに命を懸けていた。であるから、ミド・マウントのエンジンを採用した初の量産大排気量スポーツカーであるミウラの誕生は、彼にとっては、してやられたという気持ちを抱いたとしても不思議はない。それもかつての弟子であったダラーラの手によって……。アルフィエーリは以来、ミウラに負けないユニークなモデルを開発してやろうと虎視眈々とその機会を狙っていた。しかし、開発資金にさほど余裕があるわけでもないマセラティにとって、すべてを刷新した新しいモデルを開発する機会はなかなか訪れなかったのだ。
そんな時、シトロエンからマセラティへのラブコールが寄せられたのである。
Maserati当時、拡大政策をとっていたシトロエンが北米マーケットでも通用する高付加価値型エンジンの開発と製造をもくろんで、モデナの小さなスポーツカーメーカーであるマセラティにコンタクトを取ったことから、マセラティ買収へといたるストーリーは始まった。そして、アルフィエーリはいとも簡単に、シトロエンSMに搭載するハイパワーエンジンを仕上げた。
このコラボレーションはビジネスライクなものだけでなく、その背景には、シトロエンのCEOであったピエール・ベルコ―のマセラティ・ブランドに対する深い敬意が存在していた、と言われている。マセラティは、イタリアの宝石であり、決してシトロエンの下請けメーカーではなかったし、マセラティをシトロエン色に染めてやろうとも、彼は思っていなかった。むしろ、イタリアのメーカーとしてのアイデンティティを、強めることが期待されていた。
シトロエンとのマリアージュは、アルフィエーリとって又とないチャンスであった。豊富な開発予算を期待出来たし、ミウラへのリベンジとなるモデルの開発も夢ではなかった。シトロエン・サイドも流ちょうにフランス語を話す、アイデアの宝庫であるアルフィエーリに全幅の信頼を置いたという。
ミウラへのアンチテーゼ
ボーラについては、その開発にあたって、LHMオイルを使ったブレーキ等の導入をシトロエンから強く求められた、というようなことを述べる記事が見られるが、大筋としてそれは正しくない。LHMを使うというのは、むしろ、新しいことに挑戦したいというアルフィエーリの方からの提案であり、シトロエンは、保守的なマセラティの顧客にそれが受け入れられるかどうか懸念をもったほどであったという。いずれにせよ、ボーラはLHMオイルを使ったブレーキ・システムなどを採用した。
マセラティには、ブランドに忠実な裕福なカスタマー・ベースがあった。彼らは概して保守的でもあったので、彼らのニーズにあったモデルを開発する必要もあった。そこで、アルフィエーリは、最新のミド・マウント・レイアウトを取りながらも、どんなハイパフォーマンスカーよりも優れた快適性、実用性を持ったGTカーをつくるというアイディアを抱いた。それは、騒音やバイブレーション、暑いコクピットといった問題点をかかえていたミウラへのアンチテーゼでもあった。
もちろんスタイリングも重要なポイントだ。アルフィエーリは、時代を先取りするシェイプでありつつ、充分なキャビンスペースやトランクルーム等の実用的にも万全なパッケージを求めた。そして、それを託されたイタルデザイン社を興したばかりのジョルジェット・ジウジアーロは、期待に応えた傑作を仕上げた。ミド・マウント・エンジンのレイアウトを活かしたフューチャーリステックで、エレガントなスタイリングがボーラの大きな魅力となった。
ボーラのデザインがジウジアーロに託されたのは、ジウジアーロのスタイリングによる前作のギブリが大好評であったことから当然のように思われるが、実はそれが叶ったのは奇跡でもあった。
なぜなら、ジウジアーロがチーフデザイナーとして在籍していたカロッツェリア・ギアは、当時はすでにアレッサンドロ・デ・トマソの手に渡ってしまっており、マセラティからの仕事は受けない、と宣言していたからだ。デ・トマソ・アウトモビリとマセラティのラインナップはマーケットで競合するから、ジウジアーロのデザインをマセラティに渡したくなかったというのがその理由だった。
しかし、一寸先はわからない。ジウジアーロはアレッサンドロと揉めてあっさりとギアを辞し、自らイタルデザイン社を興した。ボーラのプロジェクトが動き出したのは幸運にもちょうどその時だったのだ。アレッサンドロがトム・チャーダをギアに招き、パンテーラのデザインを進めたのはそのすぐ後のことだ。当連載でも何度も登場しているアレッサンドロ・デ・トマソが、暗躍していたのだ。(続く)
文と写真・越湖信一、EKKO PROJECT 編集・iconic
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