ダンディたちはメンズウェアを永遠に変えた。しかしどれだけ見事に着こなしても、それはコンサバティブなスーツ&タイの装いとは関係がない。ダンディズムとは、服でエレガントに反抗心を示すことなのだ。
ダンディとは何か? 200~300年ほど前まで、その意味は非常に明確だった。しかし、今日でははっきりとした定義を失ってしまったように思われる。21世紀の私たちは、ダンディというのはフィットの良いスーツを着る人のことだと思い込まされている。正しい着こなしであり、ひけらかすような華やかさはない、というものだ。しかしそれは、何千回も繰り返されるうちに私たちが信じてしまうに至った嘘である。スーツをきちんと着こなすことは、自身の装いに注意を払う男性に最低限求められていることに過ぎない。そして、それができるからといって「ダンディ」だというわけではないのである。
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この言葉は、歴史と同じくらい俗説も残している。ダンディというものは実在せず、文学のファンタジーの中に見出される理想像に過ぎなかったという人もいる。一方、ほかの理論家たちは、ダンディズムは18~19世紀の革命前後に生まれたとする。おそらく最も正確な定義のひとつは、作家ルイス・アントニオ・ビレナがインタビューで語ったものだろう。
「ダンディとは服で反抗心を表す人のことをいいます。良い服をきちんと着るだけでなく、ほかの誰とも違う着こなしを披露する人のことです。その男性は、規範に逆らった要素を自身の装いに取り入れます。(中略)ダンディズムとは、注目を集める服を着ること。エレガントな雰囲気を維持しながら、同時に目立つ服を着ることなのです」と、彼は話している。
ダンディズムのカギがそこにある。規範に従うのではなく捻じ曲げることによって、コンサバティブから離れた自分だけのエレガンスを定義するのである。もし現在言われている「正しくスーツを着ること」が反抗的な行為なのだとしたら、それは困った話だ。
ダンディたちは我々の服装を一変させたが、その作法はかつて風刺や嘲笑の対象だった。彼らのなかには女々しいとか軟弱だとかいったネガティブなレッテルを貼られた者もいた。しかし実際には、彼らは服装によって規範を堂々と踏み越えていった存在なのである。それも、行き当たりばったりにではなく、知識と知性をもってやってのけたのだ。
コンサバファッションの台頭
心理学者ジョン・カール・フリューゲルは、男性ファッションのある大きな転換点を「大いなる男性の放棄(The Great Male Renunciation)」と呼んだ。この理論を紹介した彼の著書『The Psychology of Clothes(衣服の心理学)』では、現在も支配的であり続けるフォーマルファッションのある様式が生まれた背景が分析されている。
フランス革命直後、かつらや化粧、ヒール、ジュエリーといった装飾が男性のワードローブから突如として消え、メンズファッションの新たな形が確立されていく。これは決して気まぐれによるものではなく、ギロチンの露と消えた貴族階級のこれ見よがしな装いから距離を取ろうという動きだった。そうして男性たちは装飾を、色彩を、そして冒険心を捨て、グレーの服で体裁を整えるようになっていった。
さらに、そこにやってきたのが産業革命である。産業革命は衣服の地位を下げ、男性のワードローブをさらに簡素化していった(しかしその一方で、色、生地、装飾の可能性を大幅に拡大してもいった。なんと逆説的なことではないだろうか)。フリューゲルが19世紀のファッションを指して保守的と評したのはこのためだ。
「大いなる男性の放棄」の最中に生まれたボー・ブランメル、オスカー・ワイルド、シャルル・ボードレールといった元祖ダンディたちは、秩序の守護者ではなく、退屈さの破壊者だった。産業の進歩や発展を讃えた彼らの多くが教養あるブルジョワ階級の一員だったのは確かだが、彼らが意図したように優雅にそこに溶け込むにはその属性だけでは十分ではなかった。このため、そしてもちろん目立ちたいという欲望から、彼らは振る舞いやイメージを洗練させていった。
こうして彼らは、皮肉とウィット、そして挑発的態度によって、男性の服装を一変させた。彼らはヴィクトリア朝の保守主義の手先ではなく、衣服はそれ自体が言語であり、糊のきいた襟や選び抜かれたウエストコートはどんな政治的マニフェストよりも破壊的になりうることを理解していたのだ。
彼らが着ていたのは美しい黒と白の服だった。19世紀に一般的だった控えめで慎ましいスタイルではあったが、彼らはそれを人とは違う方法で着こなした。豊かな多様性と質感を持つテキスタイルという、産業革命がもたらした恩恵を最大限に活用したのだ。彼らはフロックコートをテールコートやモーニングコートに換え、短く華やかなウエストコートで注目を集め、その大げさな見た目ゆえに当時は嘲笑の的だったネッカチーフを巧みに結び、今日のネクタイへの道を切り拓いた。
現代のダンディズムとは?
翻って2025年、我々は「不況ファッション」時代の真っ只中にいる。その抑制の美学はここ何年ものランウェイを支配し、ロザリアのアルバム『LUX』にも顕著な形で表れた。その意味で、メンズファッションは再び、より自制的な方向へと舵を切ってきたといえる。ディオール、プラダ、マックイーンは、ダークスーツ、ウールコート、ベルベット、レイズドカラーやきちんと上まで閉めた襟などで、禁欲的な落ち着きを湛えた英国貴族のイメージを復活させた。ノスタルジーと安心感の渇望が入り交じったものだが、「ファッションの保守化」と題した『Fordham Political Review』誌の記事によれば、これには現在の社会経済情勢が反映されているという。先行きに不安がある時代には、我々は服装で目立とうとはせず守りに入る、というものだ。
ファッションは新たなピューリタニズムの時代に突入した。私たちはそれを、ニュートラルなトーン、控えめなシルエット、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』張りのオールドマネーの美学やプレッピートレンドの台頭、そしてクワイエット・ラグジュアリーへの変わらぬ執着に見ることができる。評論メディア『The Skeptic』は数カ月前、これを「保守主義のソフトパワー」と呼んだ。服装を通じて、秩序と伝統を取り戻そうとする動きである。そして、そこにパラドックスがある。ダンディズムはもともと規範への反抗として生まれた理想だが、今や規範への順応を象徴するコンセプトとなっている。
私たちは「エレガンス」をテーラードジャケットを着ることと混同し、「ダンディズム」を完璧な仕立てのスーツを着ることと混同しているが、それは違う。現代のダンディとは、クワイエット・ラグジュアリーのコードに溶け込む男ではなく、それをさりげなく打ち破る男である。ダンディとは、単に貴族のような服装をする者ではなく、その貴族を内側から解体する者なのだ。ダンディであるということは、無意味なノイズを求めるのではなく、常にエレガンスとセンスの良さを伴って、自分にとってベストな装いを実現するためにあらゆる美的可能性を追求することである。
ダンディは決して消えることはなかった。彼らは、ある特定の時代と場所に停滞した存在ではない。ダンディが現れ、そう名付けられたのは19世紀のことだが、彼らは歴史を通して存在し続けてきた。最初はボー・ ブランメルであり、オスカー・ ワイルドであった。その後デヴィッド・ボウイが現れ、幾度となくその美学を刷新していった。あるいはデヴィッド・ベッカム。男性が身繕いをすることが異質なこととされ、それが「メトロセクシュアル」と命名された時代のことを覚えているだろうか? ハリー・スタイルズもそうだ。コールマン・ドミンゴは華麗なテーラリングで、ティモシー・シャラメは型破りなスーツで、アレッサンドロ・ミケーレはヴァレンティノ、そしてその前にはグッチでのマキシマリズムの美学で、それぞれ現代のダンディを体現してきた。スペインのクリエイティブ・デュオ、ハビスは男性の化粧への偏見を拭い去ろうとしている。男性の化粧そのものは新しくはないが、フランス革命の以後に嫌われるようになったものであり、それが今になって様々な評判に晒されながらもカムバックをしているのだ。
本来のダンディズムとは、政治的正しさがエレガンスを装い、リスクに疑いの目が向けられるような、順応主義が蔓延する2025年の風潮とは相容れない態度である。ダンディズムとは、慎み深さに順応することではなく、礼儀正しくそれを破壊することにある。だからこそ、ファッションがスーツ、高い襟、控えめさに回帰しつつある今、ダンディとは──かつてそうであったように──美学による抵抗の形であり、挑発であるべきなのだ。ただし、他者のセンスに対してではなく、あくまでも自らの迎合的な意識に対する挑発として。
From GQ Spain
By F. Javier Girela
Translated and Adapted by Yuzuru Todayama
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