カーボンニュートラル社会実現に向けて世界中の自動車メーカーが電気自動車(EV)シフトを本格化している。欧州委員会は2035年にハイブリッド車、プラグインハイブリッド車を含めて内燃機関を搭載する新車販売の禁止を打ち出したことで、EV普及のスピードアップも予想される。EVのキーデバイスであるリチウムイオン電池を確実に調達し、低コスト化できるかが電動車時代を生き残るカギとなるだけに、電池を巡る動きが本格化している。
内製と電池メーカーとの両睨み EV用電池の安定調達に向けて先行して手を打ってきたのがテスラだ。車載用電池の調達では当初、パナソニックに頼っていたテスラだが、その後、中国・寧徳時代新能源科技(CATL)や韓国のLG化学など、調達先を拡大している。自社でもドイツ・ベルリン近郊のブランデンブルク州に世界最大級の車載用電池工場を建設中だ。CATLとの車載用電池供給契約も25年12月まで延長することで合意している。
EUの内燃機関車販売禁止で広がる波紋、日本メーカーも電動化の前倒しが不可避
テスラは車載用電池の低コスト化にも手を打っている。単位容量当たりのコストを56%引き下げた電池パックを開発して内製化する目標を掲げる。自動車各社のEVシフトによって車載用電池の需要が急増、コストが下がりにくくなるためだ。実際、EV用電池パックの価格は、1キロワット時当たり150ドル前後で下げ止まっている。
低コストの車載用電池を安定調達することがEVの競争力を左右するだけに電池の内製化と複数の電池メーカーとの取引拡大の両睨みで、競争力の高いEVを市場に安定的に供給する道を探る。
EVで先行した電池対策でも着々と手を打ってきたテスラに対して、既存の自動車メーカーは、当初の想定を上回る早さでEVシフトを進めるため、電池の安定調達に奔走、スピードアップを図るため、電池メーカーとの連携も目立つ。
30年にEV専業メーカーになることを表明しているボルボ・カー・グループは、車載用電池を手がけるスタートアップのノースボルトと新たに合弁会社をスウェーデンに新設することで合意、年間最大50ギガワット時の生産能力を持つ電池工場を欧州域内に新設し、26年に生産開始する予定だ。合弁会社は研究開発センターを22年に稼働して低コスト電池も開発する。ボルボは24年からノースボルト・エットの電池工場から年間15ギガワット時のバッテリーセルを調達することも検討している。
車載用電池に関して同じくノースボルトを頼りにしているのがフォルクスワーゲン(VW)グループだ。大胆なEVシフトを打ち出しているVWグループは30年までに年間240ギガワット時の電池セル生産能力を確保する方針で、資本提携しているノースボルトとの合弁会社などを含めて、欧州に6つの電池工場を確保する計画だ。
ノースボルトはVW、ボルボのほか、BMWなどからも車載用電池を大量受注しており、すでに270億ドル(約3兆円)を超える契約を結んでおり、欧州自動車メーカーからの期待を一身に受けている。
25年までに電動化やソフトウエア開発に300億ユーロ(約3兆9千億円)を投じる計画を発表したステランティスは30年までに260ギガワット時のバッテリー生産能力を確保するため、欧米に5カ所のギガファクトリーを新設するとともに、CATLや比亜迪(BYD)などの電池メーカーからも調達する。また、ステランティスは車載用電池のコストダウンも図る方針で、高価なニッケル・コバルトフリーの電池を開発するなどして24年までに20年比40%減、30年までにさらに20%減を目指す目標も掲げる。
ゼネラル・モーターズ(GM)はLGエナジーソリューションとの連携を強化して車載用電池を確保する。両社の電池製造の合弁会社アルティウム・セルズは、米国オハイオ州に車載用電池工場を建設中だが、テネシー州に2カ所目となる車載用電池セルの工場新設を決めた。
電池メーカーとの関係薄れた日本 欧米自動車メーカーはEV販売比率を引き上げる計画の裏付けとして、電池を大量調達する道筋を示している。そこで頼りにしているのが電池メーカーだ。自動車メーカーと電池メーカーの関係は、日本でもEVの普及が見込まれた10年以上前に急接近した時期があった。三菱自動車はジーエス(GS)ユアサコーポレーション、三菱商事の3社と07年にリチウムイオン電池を開発・製造する合弁会社「リチウムエナジージャパン」を設立。GSユアサはホンダとも09年にリチウムイオン電池を手がける合弁会社「ブルーエナジー」を設立している。
日産自動車は08年、初の量産型EV「リーフ」の市場投入に向けてNEC、NECトーキンとリチウムイオン電池を製造する合弁会社「オートモーティブエナジーサプライ」(AESC)を設立した。当時、車載用電池を製造してくれる電池メーカーがなかったことから日産は自社で手がけるしかなかったという。
その後、EV市場が本格的に立ち上がらなかったこともあって自動車メーカーと電池メーカーの関係は薄れ、リチウムイオン電池から手を引く動きも表面化した。化学メーカーの一部がリチウムイオン電池関連部材から撤退。メガサプライヤーの独ボッシュも18年に内製化を検討していたリチウムイオン電池セルの自社生産から撤退し、全固体電池を開発するGSユアサとの合弁事業を解消した。リチウムイオン電池関連事業は装置産業で、巨額の投資が必要だが、EV市場が期待通りに成長しなかったためだ。
日産も18年、再生可能エネルギー事業を手がける中国系のエンビジョングループにAESCを売却し、NECとの合弁を解消して電池生産から撤退した。電池事業を売却することで、グループ外からも高性能で低コストのバッテリーを調達するのが目的で、実際、日産が年内に市場投入する予定の世界戦略EV「アリア」にはCATL製のバッテリーを搭載することが決まっている。
電池メーカーから距離を置いていたはずの自動車メーカーが一転して急接近しているのは、カーボンニュートラル機運の高まりで、想定以上のペースでEVシフトを迫られているからだ。日産は欧州市場でのEVラインアップを拡充するための電池の調達で、売却したエンビジョンAESCに依存する。エンビジョンAESCは日産の英国工場近隣に車載用電池工場の新設を決定。日産が提携するルノーに対してもフランス・ドゥエに建設しているEV生産拠点の隣接地に電池工場の新設を決めた。英国工場が30年には25メガワット時、フランス工場が30年に24メガワット時の生産能力を持つギガファクトリーとなる。
電池調達の自由度を上げるために電池事業を売却した日産だったが、急激なEVシフトで電池を確保する方が重要となり、想定が狂った。ただ、エンビジョンAESCの株式20%を保有しており、関係を保ってきたことで電池の安定調達先を確保できた。
EVの性能を大きく左右する電池を安定的に調達できるかが電動化時代の生き残りを左右することから自動車メーカーは電池関連に巨額の投資を決断、電池メーカーとの関係強化に動いている。世界的に車載用電池の調達先は限られる中、電池のコストダウンを含めて、どの電池メーカーと組むかでEVの競争力に影響する。だからといって幅広い自動車メーカーと取引している電池メーカーからの調達に依存すると、需要の集中で安定的に電池を調達できなくなるリスクもある。自動車メーカーは電池関連に引き返すことのできない規模の投資を決断しているが、今後のEV市場の動向を見極めつつ、電池調達のリスクを常に目を光らせ、電動化戦略を柔軟に見直していく必要がある。
(編集委員 野元政宏)
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みんなのコメント
もうとっくに中国ではEVが普及し、
そしてコストダウンした使い物にならないEVが
たくさんゴミと化してる。
つまり数を稼ぐための安物EVは、
せいぜい5年くらいしかもたない。
そんなのを量産する方がむしろ環境破壊なんだけど、
こういう自動車業界新聞がこんなことを言うようでは
あんたらもう終わってるよ。