■GT-Rな4WDにポルシェな一面もある?
2021年に「ノートシリーズ」に追加された「ノートオーラNISMO(以下:オーラNISMO)」。その人気は高く、約3年で2.1万台を販売(ノートシリーズの約18%)。
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そんなオーラNISMOが2024年7月18日、マイナーチェンジを実施。開発陣は「NISMOロードカーのセカンドジェネレーション」と言いますが、どんな進化を遂げたのでしょうか。
今回のモデルの最大のポイントは、多くの人が切望していた4WDモデルの追加でしょう。
基本的な構成はノーマルと同じ前後モーターを独立制御するe-POWER 4WDですが、リアモーターを60kW/150Nm(ノーマルは50kW/100Nm)に出力アップ。更に制御もリアタイヤが担う駆動を増やしフロントタイヤをより旋回方向に活用するNISMO専用設定となっています。
一方、フロントはFFのオーラNISMOと同じく発電用の直列3気筒1.2リッターエンジン(60kW/103Nm)、フロントモーター(85kW/280Nm)を加速の伸びの良さとレスポンスを重視したNISMO専用制御(VCM)でコントロール。
シャシー系はFFモデルと同じく、専用サスペンション(20mmローダウン、リア・モノチューブ式ダンパー採用)、高性能タイヤのミシュラン「パイロットスポーツ4」(205/50R17)、専用のEPS制御/シャシー制御などが行なわれていますが、車両重量(FF+110kg)や前後バランスの変更に合わせて再チューニングされています。
ちなみにアルミホイールは4WD専用品で、ENKEI(エンケイ)のMAT工法の採用でFFモデルより12%軽量設計です。フラットな形状はネオレトロな雰囲気ですが、実はホイールハウス内圧低減効果を生む機能のための空力デザインを採用しています。
エクステリアはモータースポーツで培ったエアロダイナミクスをフィードバックさせたエアロを装着しますが、4WDのプラットフォームの特性に合わせて形状や空力バランスを再チューニング。
大きく変わっているのは前後で、フロントは冷却性能とドラック低減を両立させるフラッシュタイプデザイン、リアは両端部のエアスプリッターを強調したデザイン(気流の剥離を促進)にアップデート。個人的にはより低重心、より切れ味アップ、よりアグレッシブになり、GT-R NISMOやフェアレディZ NISMOとの近似性がより増したような気がしました。
ボディカラーはGT-R NISMOやフェアレディZ NISMO、そしてアリアNISMOにも採用される、空の青よりも暗く、サーキットなどの路面よりも明るい「NISMOステルスグレー」が追加され、全7色を用意しています。
インテリアは専用のステアリング、メーターグラフィックは不変ですが、標準シートは運転席にパワーシート、オプションのNISMO専用チューニングレカロシートは運転席/助手席にパワーリクライニング機能を設定。より細かいドラポジ調整ができるのは嬉しいものの、個人的には標準シートにこそ助手席にパワーシートが求められていると思います。
更に筆者(山本シンヤ)は前々から開発陣に「スポーツカー好きはオーディオにもこだわるので、設定すべき!!」と主張していましたが、今回BOSEパーソナルプラスサウンドシステムがOPで選択可能に(標準シートのみ)。
このように、かなり気合が入ったマイナーチェンジになっていますが、今回正式発表に先駆けて神奈川県横須賀市の日産・追浜試験場内にある施設「グランドライブ」で試乗してきました。
■その実力は“ポルシェ感”もある?
新型ノートオーラ NISMO 4WDの動力性能は、車両重量がFF+110kgの1390kgと重いものの、発進加速はFFモデルと同じく軽快かつ俊敏です。ただ、4WDによるトラクションの良さに加えて、加速時でもクルマの姿勢が常にフラットに保たれるので、いい意味で“速さ感”は少なめかなとは思います。
一方、高速での追い越しなど巡航→加速などのシーンでは、「もう少し“馬力”が欲しい」と欲が出るものの、開発コンセプト「Agile Electric City Racer」を考えれば十分かなと。
それよりも3気筒特有のエンジンのビートがNISMOっぽさを削いでしまっているほうがガッカリ。せっかくアリアNISMOで「NISMO EVサウンド」を作り上げたのなら、こちらにも水平展開すべきでしょう。
減速時はノーマルと同じく絶品。僅かに前荷重になるも基本はフラットな姿勢のまま変速する様は、ブレーキング時に荷重が前に移動してもリアの荷重が抜けにくいRRレイアウトを採用するポルシェ911と良く似ています。
完全停止はブレーキを踏む必要がありますが、日常域からワインディングまでワンペダルでリズムよく走れると思います。
フットワークを一言で言うと、驚きの旋回性能です。操舵時の応答の鋭さや姿勢変化を抑えたクルマの動きはFFのオーラNISMOと同じですが、そこから先は別格です。
もう少し具体的に言うと、旋回中はアンダー知らずでドライバーが狙った通りに曲がれるライントレース性の高さと、+110kgの重さを全く感じさせない軽快なクルマの動き、更に4つのタイヤの能力を効率的かつ最大限に使いながらコーナリングする様は、むしろエクストレイル/アリアの「e-4ORCE」で感じたドライブフィールに近いと感じました。
更に上記の2台と比べると圧倒的に軽量なので、旋回速度に関しては本格スポーツカーに引けを取らないレベルだと思います。
ちなみにe-4ORCEは前後の駆動力と4輪のブレーキを緻密に制御するシステムですが、「オーラNISMOは前後の駆動力制御のみで実現しているのは、なぜ?」と開発者に聞くと「クルマが軽量なのとリアの接地性が高いので、ブレーキ制御を使わずに同じ走りができるのです」と教えてくれました。
更なる驚きは旋回加速時で、アクセルの踏み込みにあわせてリアタイヤの蹴り出しを感じると共に、アクセルで旋回姿勢をコントロール…つまり駆動で曲げる感覚がある事です。
さすがにオーバーステアにも持ち込めるような力強さはないものの、「4WDなのにまるでFRのような自在性、どこかで味わった事があるな?」と考えると、第2世代スカイラインGT-RのアテーサE-TSを思い出します。
「横置きFFベースの4WDなのになぜ?」そんな疑問を開発者に聞くと、「リアモーターの出力アップでリアタイヤが担う駆動を増やすことができたので、フロントタイヤはより旋回に使えるようになった事が大きいと思います。
加えて、当時のアテーサE-TSを知る『匠(=神山幸雄氏)』がセットアップしていますので」と教えてくれました。
ちなみにこの4WDシステムは「NISMO tuned e-POWER 4WD」と呼びますが、日産にしてはネーミングのセンスが下手な気がします。個人的には「アテーサe-4ORCE」と呼ぶくらい、攻めてもいいと思っています。
ちなみにドライブモードによって走りの味付けは異なります。どのモードでも、より速く、より気持ちよく、より安心して走る事はできますが、ECOモードはとにかく安定方向、NOMALモードはオンザレールだけど機械の介入を感じない自然な旋回フィール、そしてNISMOモードは面白いくらいグイグイ曲がる印象でした。
ただ、旋回速度がスポーツカー並みに高いのでノーマルシートではホールド性が少々厳しい時もあるかもしれません。
そのため、走りの面だけで言えばレカロシートはマストですが、路面からの入力はFFのオーラNISMOよりダイレクトな印象で、日常域ではバネ上がヒョコヒョコ動く落ち着きの無さは少々気になるところ。
対するノーマルシートは路面からの入力を上手に吸収してくれるようで、快適性はスポーツモデルにしては悪くないレベルかなと。どちらも一長一短あるので悩ましいですが、用途や予算に合わせて選んでほしいと思います。
もし筆者が買うならば、普段は高速移動が多いので、BOSEパーソナルプラスサウンドシステム優先してノーマルシートかなと。
気になる4WD車の価格(消費税込み)はFFの40万1300円高となる347万3800円です。これにオプションのレカロシートやナビゲーション+プロパイロットなどをプラスしていくと、それなりの価格になってしまうのも事実です。
Bセグメントのハッチバックにしては「高すぎだろ」と思う人もいるかもしれません。ただ、コンパクトな電動AWDスポーツハッチと言う“唯一無二”の存在で、指名買いしたくなる魅力を持つ一台である事は間違いないです。
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