この記事をまとめると
■BYDが日本専用開発の軽EV「ラッコ」を発表し軽自動車市場へ本格参入した
ガチの日本車キラーがついにお披露目! BYDのスーパーハイト軽EVその名も「ラッコ」【ジャパンモビリティショー2025】
■最大320kmの航続距離やブレードバッテリーなど高い商品力を備える
■補助金適用で実質200万円を切る戦略的な価格設定
軽EVで国産勢に挑む本気の一台
2026年7月28日、BYD Auto Japanが新型軽EV「ラッコ」を発表した。
日本の軽自動車市場は、長年にわたって国内メーカーが磨き上げてきた「ガラパゴス」と評される特殊な市場だ。独自の規格、日本特有のユーザーニーズという参入障壁。つまり、軽自動車を作っても、日本でしか売れない。そうした壁があるにもかかわらず、BYDは真っ向から挑んできた。
ラッコのボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1800mm。これはいうまでもなく軽自動車規格に合致しており、ホンダN-BOXやスズキ・スペーシア、ダイハツ・タントと同一の軽スーパーハイトワゴンのジャンルに属する。
デザインの基軸にはBYDが展開する「オーシャンエステティック(海洋美学)」を採用。アザラシ(シール)、イルカ(ドルフィン)と続く海洋生物シリーズの一員として、水面に映る光のゆらぎや海の静けさと力強さをモチーフに仕上げられている。
インテリアにも細かいこだわりが光る。フロントシート周辺には大容量の収納スペース、シート背面にはカップホルダー付きのトレー、長傘の収納スペース、スマートフォン用スロットと、国内メーカーがお家芸としている「かゆいところに手が届く」装備が積み重ねられている。ステアリング調整がチルト・テレスコピック両方備わるのも軽自動車としては珍しいポイント。最先端のEVらしく、スマートフォンを近づけるだけでドアロックが解除される機能が備わる点も見逃せない。
グレード構成は3種類。エントリーの「200」は22.4kWhのブレードバッテリーを搭載し、WLTCモードで210kmの航続距離を実現する。ファブリックシート、両側電動パワースライドドア、165/65R15タイヤとスチールホイール、10.1インチタッチスクリーン(Apple CarPlay/Android Auto対応)、リヤビューカメラ、安全運転支援機能を標準装備する。
「300Plus」と「300Premium」は35.84kWhのブレードバッテリーを搭載し、一充電航続距離は320kmを誇り、軽EVとして初めて300kmの壁を超えた形だ。日産サクラの一充電走行距離180kmには大きく差をつけ、295kmをマークするホンダN-ONE e:をも突き放す。電力消費量は同じくWLTCモードで124Wh/kmとなる。
なお、この電力消費量でバッテリー容量を割って航続距離を算出すると約289kmとなるが、発表されている一充電航続距離の320kmとの齟齬は、カタログ記載のバッテリー容量が電力損失を換算した充電器からの充電量であって実際のバッテリー容量ではないために生まれている。実際の走行環境では、回生を有効活用することで公証値に近い一充電航続距離を実現することができるだろう。
「300Premium」には、合成皮革シート、運転席6ウェイ電動調整、リヤセンターアームレスト、ホットカップホルダー、BYDアラウンドビューモニター、足もと投影ガイド付きハンズフリースライドドアといった、軽クラスを超えた快適装備を追加。内装色もブラックとホワイトから選ぶことができる。
技術面でとくに注目すべきは、BYD独自の「ブレードバッテリー」の採用だろう。薄く長い形状をもつこのバッテリーは、安全性と空間効率の高さに定評があり、BYDのEV技術の根幹をなす。床下への搭載によって低重心化も実現しており、背の高いスーパーハイトワゴンとしての走行安定性向上に貢献している。なお、急速充電は全グレードで最大50kWのDC対応となる。
もうひとつ、軽自動車として特筆すべき装備が4輪ディスクブレーキだ。一般的な軽自動車はリヤにドラムブレーキを採用することが多いが、ラッコは全輪ディスク化することで制動性能と放熱性を高めた。軽EVとして「必要にして十分」を超える装備への投資は、BYDがこのカテゴリーで本気の勝負をかけていることを示している。
外装色はアークティックホワイト、コスモスブラック、チーズイエロー、アークティックブルー、ミッドナイトグリーン、ルビーレッドの6色展開となる。
本気の販売戦略と驚きの価格設定
発表会では、BYD株式会社副総裁/BYD JAPAN株式会社 代表取締役社長の劉 学亮氏が登壇し、ラッコの発売に至るまでの経緯を語った。BYDが創業したのは1995年のことで、自動車事業への参入は2003年と若い会社であるが、電動化が進むなかで、もとはバッテリーメーカーという強みを活かして急成長。2025年度にはグローバルで460万台のNEV(新エネルギー自動車:BEV、PHEV、HEV、FCEVなどの総称)を販売。この数字は世界の並居るメーカーを押さえるトップだ。
日本市場には2023年に参入。2025年末まではBEVのみのラインアップという攻めの体制を敷きながら、2026年7月には販売台数が累計1万台を突破した。そうして日本国内でも販売ネットワークを広げるBYDが直面したのが、軽自動車への需要だった。劉氏はチームで全国をまわるなかで、「技術があるならば、生活の足である軽自動車を出してくれないか」という要望を、とくに地方部で多く耳にした。
それを受けて、軽自動車の開発に踏み切ることに決定したのが約2年半前。立ち上がった開発チームは中国を拠点としており、メンバーも当然現地のエンジニアが主体となるため、日本の生活などがわからない。そこで中国人エンジニアが自ら日本の地方部へ足を運び、スーパーマーケットや幼稚園など、生活と一体化する軽自動車の姿を研究したという。
「いままでにない便利さを、いままでにない楽しさを、私たちの技術で、確実に日本のすべての皆様にお届けしたい。そういう思いでラッコの発表を迎えました。 ただ、発売して終わりではない。新たな始まりなんです。これからはラッコがどういう形で皆さんと一緒に暮らし、そしてこの元気な日本社会に貢献できるかが、大変楽しみです」と、劉氏は最後に思いの丈を露わにした。
BYDがラッコとともに日本市場へ向ける並々ならぬ気概は、その販売戦略からもうかがえる。ジャパンモビリティショー2025でその存在が明かされて以降、小出しで徐々に公開されてきたラッコの詳細だったが、最大の関心事である価格については今回の発表が初公開となった。
ラッコが掲げたプライスタグは、エントリーの「200」が214万5000円、「300Plus」が239万8000円、「300Premium」が249万7000円(いずれも税込)。そこに全グレード一律で国のCEV補助金が15万円受給できるため、実質的にはギリギリ100万円台スタートからという極めて戦略的な価格設定となる。
参考までに、いくつかライバル車となり得るモデルを挙げる。直接競合となるモデルは存在しないが、軽BEVのカテゴリでは、日産サクラがエントリーのSグレードで244万8600円で、そこに補助金58万円が乗り、実質は約187万円。軽スーパーハイトワゴンでは、ホンダN-BOXのベースグレードが176万8000円となり、ラッコの「200」はそれらと十分に競合する価格帯といえる。10.1インチセンターディスプレイや両側電動スライドドアといった、国産勢のエントリーではオプションとなる装備が標準となるので、その競争力はかなりのものだ。
さらにBYD Auto Japan株式会社 代表取締役社長の東福寺厚樹氏によって、ロングラン新車保証(一般車両保証+バッテリーおよび高電圧部品などの保証)、月々19300円からの据置型ローン「ラッコ楽っとプラン」、常に車両がアップデートされる軽自動車史上初となる「SDV(Software Defined Vehicle)」の3本柱からなる「ラッコ楽」と呼ぶサービスも発表。現時点ですでに77拠点存在する販売ネットワークの日本全国へのさらなる拡充と併せて、本気で軽自動車市場を狙う。
発表会では、ラッコのブランドアンバサダーを務める女優の広瀬アリスさんが登壇。自動車のCM出演は今回が初となる広瀬さんは、じつはプライベートでも頻繁に運転するドライブ好きだという。撮影でラッコに乗った際の感想を尋ねられると、「あのフワッとした加速は乗った人にしかわからない感覚! めちゃめちゃ感動しました」と興奮気味。その後は「ラッコ楽ポイント」と称して、ハンズフリースライドドアの実演などユーザー目線でラッコのアピールポイントを紹介した。
日本の軽自動車市場に「国産メーカー以外のクルマ」が本格的に食い込めるかどうか。ラッコはその問いに対する、これまででもっとも真剣な挑戦状といえるだろう。
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