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キッチンカーを襲う「出店場所がない」問題──営業許可を取ってもなぜ出せないのか?

掲載 更新 6
キッチンカーを襲う「出店場所がない」問題──営業許可を取ってもなぜ出せないのか?

キッチンカー事業の初動阻む壁

 キッチンカーの出店は一見すると手軽に思える。しかし、実際に動き出すと想像以上に障壁が多い。とくに大きな課題は、「出せる場所がない」ことだ。

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 道路や公園などの公共空間では、原則として営業が認められていない。出店には営業許可が必要になるが、それを取得したからといって、すぐに営業できるとは限らない。許可を取ったのに場所が見つからず、結局出店できないケースも少なくない。

 制度上は可能でも、現場では通用しない。そうした実務上のギャップが、事業の立ち上げを難しくしている。営業許可さえ取れば何とかなると考えていた事業者ほど、最初の一歩でつまずきやすい。

 本稿では、このギャップの実情を、制度と運用の両面から整理していく。キッチンカービジネスの現実を、より具体的に見ていきたい。

公共空間の営業許可実態

 とりわけ大きな壁となるのが場所の問題である。

 キッチンカーの営業場所として思い浮かぶのは、

・駅前広場
・商店街の一角
・都市公園

などの公共空間だ。こうした場所で営業するには、複数の異なる機関からそれぞれ別の許可を取る必要がある。

 例えば道路での出店には、警察署が発行する道路使用許可が必須となる。公園の場合は、公園管理者から設置管理許可を得なければならない。これらの許可制度は一見してわかりにくい。加えて、それぞれの許可には根拠となる法律が異なる。

 食品営業許可は食品衛生法に基づき、保健所が設備や衛生状態をチェックする。道路使用許可は道路交通法に基づき、交通や歩行者への影響を警察が審査する。道路占用許可は道路法に基づき、道路の構造や維持管理の観点から別部署が判断を下す。

 国道なら国土交通省、都道府県道なら各都道府県、市町村道なら市区町村が担当する。公園利用の場合は都市公園法が根拠となり、別の審査が発生する。

 このように、営業場所によって取得すべき許可は大きく異なるのだ。

公共空間長期独占の実態

 制度の複雑さだけがハードルではない。自治体ごとに運用実態が大きく異なるのだ。ある市で許可がスムーズに下りても、隣の市では却下されることも珍しくない。法律の条文は全国共通でも、現場の判断は地域ごとに異なる。これは法解釈に

「遊び」

を持たせるためだ。遊びがなければ、地域特性に対応できない問題が生じる。さらに、ローカルルールとして条例も影響力を持つ。安全確保や通行妨害を理由に拒否されることもある。

 加えて、Park-PFI制度による公共空間の長期独占も壁となっている。Park-PFI制度とは、公共施設等運営事業法に基づく公園等の整備・運営に民間資金を活用する制度である。PFI(Private Finance Initiative)は、民間資金やノウハウを活用し、公共インフラや施設の整備・運営を行う仕組みを指す。

 選定された事業者には最長20年の事業権が与えられ、公園の優良立地が囲い込まれる。認定計画者以外は、公園内の公募対象エリアに設置管理許可を申請できない。よい場所があっても、残るのは商業価値の低いエリアだけとなる。こうした複雑な事情が、キッチンカー業界への参入障壁となっている可能性が高い。

根回し重視の申請成功メソッド

 安定的に出店を続ける事業者には共通の特徴がある。

 まず、時間帯の選び方が挙げられる。交通量が少ない早朝や夜間を選び、交通への影響を最小限に抑えている。これにより、警察や自治体の懸念を軽減しているのだ。

 次に、許可申請の前段階で条件をすり合わせる手法も多い。書類上の根拠だけでなく、現場の関係者と事前に話を通す根回しを重視した戦略である。

 また、出店場所に対する柔軟性も重要だ。人気エリアやイベントに固執せず、住宅地や平日の穴場を狙い、許可のハードルを下げている。さらに、現地に足を運び、管理機関と直接会って対話する

「現場主義」

を徹底している点も大きい。こうした地道な努力の積み重ねが成功のカギとなっている。

出店成否を握る現場力

 その一方で、追い風となる制度も登場している。前述のPark-PFI制度は、大きなビジネスチャンスでもある。この制度は2017年に都市公園法を根拠として施行された比較的新しい仕組みだ。

 これまでに約200件の認定実績があるが、未実施の公園も多く、新規参入の余地は十分に残されている。制度を正しく理解し、条件を満たした事業者にとっては、長期的な安定経営にもつながる可能性がある。

 また一部の自治体では、キッチンカー出店に関するルールが明文化されつつある。たとえば大阪市では、2021年の法改正を機に「大阪市露店による食品営業取扱要綱」が見直された。

 さらに2022年以降は、大阪府内で取得した営業許可が府内全域で有効となっている。設備基準や営業許可の種類が整理されたことで、営業地域の自由度も広がった。

 民間と行政の連携体制が整えば、そのエリアでの新規参入はよりスムーズになる。結局のところ、出店の可否は申請以前の段階でほぼ決まっているといってよい。

 営業許可はあくまで出発点にすぎない。

・場所選び
・時間帯
・制度理解
・現場対応

といった一連の準備が、出店の成否を左右する。実情に即した地道な準備の積み重ねこそが、成功への近道となる。

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みんなのコメント

6件
  • evo********
    最近は聞かないけど平成の頃は新大阪駅近辺のオフィス街(飲食店が皆無に近い程酷いエリア)に12時頃になるとバンで乗り付け、歩道にテーブルを置いて弁当を売る業者が多かったな。
    長居せず、20分程で売り切ってサッサと撤退する。
    一体売っていたのは誰だったのだろうか。
  • bag********
    物流の仕事をしてて、キッチンカーではないけど物流団地や港の倉庫街で値段は安い500円から600円位で弁当を売ってる軽バンの販売車両は有難い。ただ購入時間によっては冷めてるけど、近くに食堂等が無い時は利用する。コンビニで弁当を買って温めてもらうのも良いけど、あまり変わり映えしないし飽きちゃうからお昼どきの積地に弁当販売車両が居てくれると嬉しい。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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