クラシックを次の100年も走らせたい
text:Mike Duff(マイク・ダフ)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
多くの自動車メーカーは、純EVが自動車の未来の1つだと考えている。では、過去のクルマはどうなるのだろう。石炭自動車のように、走れなくなる日が来るのだろうか。
今回試乗したのは、ほぼ無音で走る電動のアストン マーティンDB6。未来に対する疑問の、回答の1つといえそうなクルマだ。
アストン マーティンのクラシックモデルのレストアなどを行う、アストン マーティン・ワークスの代表、ポール・スパイアーズはこう話す。「次の100年も走れるように、カバーしていく必要があります。これらのクルマを、博物館の展示品だけにしないために」
今のところ、内燃エンジンを搭載したクラシックモデルの走行を禁止する法律が制定される予定はない。英国でも、主要な市場でも。しかしスパイアーズは、社会的な圧力が存在すると考えている。
技術に理解のある富裕層は、すでに純EVへのシフトを進めている。将来的には、内燃エンジンのサウンドや排気ガスを体験せずに成長する、新しい世代も生まれてくるだろう。
純EV化されたアストン マーティンDB6を、スパイアーズは心臓移植を受けたクルマだと呼ぶ。クルマの基本構造は一切変更せずに、電動化を実現している。従来のエンジンで走行するように、戻すことも可能なのだ。
スパイアーズが続ける。「開発チームへは、このように説明しています。ボディに、余計な穴1つ空けないように、と」
直列6気筒のかわりにモーターとバッテリー
49年前にアストン マーティンの拠点、ニューポート・パグネルを旅立ったDB6ヴォランテ。直列6気筒エンジンがかつて載っていた場所には、電気モーターとバッテリー、コントロールユニットが収まっている。
完成版では仕様が変わるということで、技術的な詳しい情報はまだない。車重はほぼ同等で、オリジナルのエンジンに近い馬力を備えるという。
ジャガーも、Eタイプ・ゼロとして似た内容のクルマを生み出しているから、さほど目新しいわけではない。スパイアーズがいうには、ジャガーよりアストン マーティンの方が、EV化へ先に取り組んでいたそうだ。
基本的な構成は決まっているものの、試乗車が搭載するシステムの多くは、まだ未完成。DB6が本来搭載する、5速マニュアルのトランスミッションが残されているが、これも変更される見込み。
完成版では、シングルスピードのトランスミッションになるという。冷却システムも開発途中で、まだ激しい走行には対応できていない。販売される仕様では強制冷却され、タフな走行や、急速充電も可能になるという。
エンジンを電気モーターに置き換える、といっても簡単な仕事ではないはず。DB6の周りを歩いて観察してみたが、ガソリンではなく電気の力で走るということを、停まった状態で見分けることはできないだろう。
マフラーやメーター類も残されている
マフラーも残されている。可能な限り、オリジナル状態の見た目を保つために。左側の給油口を開くと、電動の心臓に移植されていることがわかる。充電用ソケットが付いているからだ。
レザー張りの内装も同じ。クロームメッキのリングが付いた、スミス製のメーターが今まで通り並んでいる。でも、まだ実際に機能するのはスピードメーターのみ。
スパイアーズによれば、残りのメーターも純EVで該当する内容を割り振り、機能させるという。試乗車には搭載されていないが、ヒーターも実装される予定だ。
運転は、これ以上簡単にはならないだろう。マニュアルのトランスミッションが残っているが、基本的に走行時は、クラッチペダルを踏んで変速する必要はない。
試乗車の場合、2速を選べばシングルスピードの純EVのように運転ができる。スタートダッシュは、予想より鋭いものではなかった。ピットレーンからアストン マーティンらしく元気に発進させるには、アクセルペダルを深く踏み込む必要がある。
電気モーターは、回り始めから巨大なトルクを発生させる。だが、このDB6の場合は、トラクションコントロールの必要性は感じなかった。
走り始めると、スルスルと滑らかに加速が続く。最初のコーナー手前で80km/hに届いた。パワートレインの健康状態を保つために、アストン マーティンから指定されていた制限速度だ。
オリジナルのDB6にできるだけ近づけたい
個人的には、アストン マーティン製の直列6気筒エンジンを搭載するDB6ほど速くは感じなかった。かつてのような音響が、一切聞こえないからかもしれない。たくましいストレート6が放ったサウンドは、穏やかな電気モーターの唸りに置き換わっている。
アクセルペダルを離すと、サーキットの路面に粘着テープでも付いているかのように減速する。ブレーキペダルを踏む必要がないほど、強力な回生ブレーキが働くためだ。
スパイアーズによれば、完成した仕様では、ここまで積極的な回生ブレーキの設定にはしないという。できるだけ、オリジナル・モデルのドライビングマナーに近づけたいとしている。
せっかくシフトレバーが残っているから、変速を試してみる。2速から3速へ変えてみたが、加速感は同じだった。電気モーターには意味のないことのようだ。
アストン マーティンの狙い通り、それ以外の動的性能から得られる体験は、オリジナルのDB6と変わらないと感じた。現代基準で考えれば、グリップ力は穏やかで、ボディロールは大きめ。しかしシャシーのマナーは良く、ショートトラックをかなり速めのスピードで周回できる。
アストン マーティンらしく、洗練もされている。年代物のヴォランテだが、内装トリムや構造からのきしみ音やガタツキもない。
システムはDB4とDB5、DBSにも利用可能
クラシックモデルを純EV化させるアイデアには賛否両論があるだろう。最終的には市場が判断することなのかもしれない。スパイアーズは、電動化をビジネスモデルとして確立するには、顧客からの前向きな反応が必要だとも認めている。
「いまは一生懸命に取り組んでいます。近い将来、このプログラムが導入できないとすれば、逆に驚いてしまいますよ」とスパイアーズは熱を込める。
この純EVのパワートレインは、かつてのDB4とDB5、DBSにも利用できる。アストン マーティン製のDOHC直列6気筒エンジンは長期間採用されていたため、多くのモデルをEV化させることが可能なのだ。
1958年から1972年にかけて、この6気筒エンジンを搭載したアストン マーティンは3000台ほどある。「この年代のモデルを選んだのは、高い価値が認められ、まだ残存台数も多いからです」と説明するスパイアーズ。
純EVへのコンバージョンに必要な費用は、税別で20万ポンド(2700万円)前後になる見込み。これには、オリジナル・エンジンの保管費用や、戻す費用も含まれる。
「仮に対象となる年代の10%を手掛けたとすると、300台程度です。開発コストを正当化させるには、充分以上の台数といえます。社会的な意識の変化や圧力を考えれば、現実的な数字目標だと考えています」
ロンドンの道で、音を出さずに走るDB6を見る日が来るのも、そう遠くはないのかもしれない。
※この記事のオリジナルは、2019年に書かれたものです。
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