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濱口 弘のクルマ哲学 Vol.51 アフザル・カーンの額装

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濱口 弘のクルマ哲学 Vol.51 アフザル・カーンの額装

文・濱口 弘/写真・シャシン株式会社

ルーヴル美術館のレンブラントの自画像を前に立った私は、この作品の主役は絵なのか、額縁なのかを考えていた。私はコンテンポラリー・アートが好みなので、古典的なルーヴル美術館へは、私と美術史とのアライメントを取りに行く調整のつもりだ。流して見て歩いたが、見過ごしそうなその絵の前で立ち止まったのは、大きな額縁の存在だった。バロック調の彫刻と金彩で飾られているが、額縁がこんなに主張するなんて、と私は否定的に後ろへ離れてみた。そこで初めて、この自画像は大きな額縁を含めて一枚の絵である、と気づいたのだ。そう感じると、急に、ルーヴル美術館自体が大きな額縁にも感じ、苦手な古典美術に初めて近づけた思いが湧いた。

編集前記 Vol.30 片岡義男チルドレン

古典的という分類をクルマに当てはめるとなると、ランドローバー・ディフェンダーはピッタリかもしれない。ランドローバー・ディフェンダーを知っている人の多くは、2019年からの新生ディフェンダーであろう。この連載(2021年10月号)でも書いているが、新型だが未だにインパネは物理スイッチで、ボディは角ばり、このジェンダーフリー時代の生まれと思えない、男臭さを美学としているクルマだ。しかし、先代ディフェンダーを高校生の夏から30年以上も追いかけている私は、この新型ディフェンダーでは削がれてしまった古典美学を追いかけ続け、先日、7台目となるディフェンダーが手元へ届いた。

Khan Defender Vangurad Edition、このディフェンダーはイギリス出身の自動車デザイナー、アフザル・カーンがデザインしたクルマになる。彼はイギリスの田舎で、農作業に使われるイメージだったディフェンダーに、ツイード生地を使い、レザー縫製の見せ方にこだわったことで、エスプリのある街乗りディフェンダーという新しいマーケットを生み出した。ベース車両は、1971年にデビューしたシリーズIIIから継続し、後に1990年~2016年まで製造された、ラダーフレームのディフェンダーを使用している。 このカーンの解釈で私は、ディフェンダーにさらに強くイギリスの風土を感じるようになった。この仕様車は、軍用車と英国ラグジュアリーの融合がコンセプトであり、その言葉の通り、力強さとラグジュアリーが結びついている。例えば、大戦を思わせる縦ベンチシートの座面に、馬場馬術のステップを踏むサラブレッドの、美しく編み込まれた立髪のようなレザーデザインを施し、カーンのコンセプトを強く感じさせている。また、カーンはいじりすぎないのも良い。動力のチューニングは基本的にしないポリシーで、例外的に制作した6輪車やロングホイールベースのディフェンダー以外、エンジンとミッションはオリジナルのままだ。それでいい、排気なんていじらなくていいんだ。目立つために乗りたい人は、ディフェンダーを選ばないから、それでいい。エンジンをイジる設備や力量が無いわけではない。私が初めて購入したディフェンダーから数えて15年間で、私とカーン氏には人間関係が構築されたのだが、彼やチームのプロダクトへの拘り、妥協しないエンジニアリングを多角度から見てきた。今回の車輌も、日本の法規制と東京での操作性を擦り合わせ、チーフエンジニアが何度もテストを繰り返し、納得いくまで車両をイギリスから出してくれなかったサイドストーリーがある。

コンセプト通り装甲車のようだが、クルマとしての機能面はどうだろう。車高はオリジナルが198cmだが、210cmまで上げられ、各車軸には、高速域と低速域と異なる走行条件を使い分ける、ツインダンパーシステムが追加されている。これにより2メートルを超える巨体が、驚くほどスムーズに旋回するようになり、都内のコインパーキングでの駐車も困らない。ラダーフレームのオフロード車両はロールが大きくなるものだが、209センチまで広げられた車幅と、20インチの巨大極太タイヤの踏ん張りで、ロールは極限まで消されている。操舵性も走行性も良く、機能面も申し分ない。ドアを開ければ一変、内装には硬さを和らげる意匠が散らばる。ルーフライナーからステアリングはオールレザーに、セミバケット形状の前座には肉厚なレザーを巻き込ませ、革縫製のパターンは派手ではないがさりげなく目を引く。カーンがディフェンダーへ手を入れた箇所は、ランドローバーが守りすぎている部分を、私にささやいていたのだ。

私はこのVangurad Editionを数歩下がって見つめ直し、思った。カーンは、絵画でいうところの額装のようなものだ、と。ディフェンダーというセンターの絵に、カーンの美学によって作られた額縁を施すと、お互いの存在感が増し、新たな価値を放つ。そのセンターの絵を長く愛する人に、額装は万華鏡のように影を消し、幾通りもの魅力を作り出してくれるのだ。

Hiroshi Hamaguchi

1976年生まれ。起業家として活動する傍ら32才でレースの世界へ。スーパーGTでの優勝を経て、欧州最高峰GTシリーズであるヨーロピアン・ル・マン・シリーズ2024年度シリーズチャンピオンを獲得。ル・マン24時間出場。フィアットからマクラーレンまで所有車両は幅広い。投資とM&Aコンサルティング業務を行う濱口アセットマネジメント株式会社の代表取締役でもある。

文:ahead ahead_official
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みんなのコメント

1件
  • tak********
    成金臭くて見た目命、機能性能は二の次、な人が大好きなクルマだね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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