編集者で、書店の選書担当としても活動する贄川雪さんが、GQ読者におすすめの本を紹介。今月は特集「自分磨きの夏旅へ」と連動する、味わい深い旅の本がテーマ。
6月に入り、少しずつ夏を予感させるような天候の日が増えてきた今日この頃。ここからの1、2カ月を乗り切った先に、どんな夏旅を計画しているだろうか。今月は、「自分磨きの夏旅」特集と連動して、旅にまつわる味わい深い本をセレクト。私たちの意識や感性、身体性を刺激し高めてくれる6冊を紹介する。
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地図を哲学的に旅する
現在でさえ、「地図」は旅あるいは日常的な移動において欠かせない道具の1つだ。時代とともにその形は変化しつつあるけれど、それでもなお、私たちのそばには絶えず地図が存在し続けている。
本書『地図とその分身たち』は、翻訳家の東辻賢治郎さん(地図製作者でもある)による、地図にまつわるエッセイをまとめた1冊である。地図とは何なのか。地図を通して、私たちはいったい何と出会っているのか。地図に対して強い関心を持つ筆者が、さまざまな時代、形式の地図や、映像や文学作品に登場する地図をモチーフにし、自身が地図を用いることで得た経験などにも立ち返りながら、地図とのあいだについて自在に思索する。
地図とは、見る者にそのときどきの「現在地」を想起させる、そんな不思議な力を秘めている。当たり前だが、地図とは誰がいつ見ても正確に、位置や方位、地形を認識できるものである必要がある。だからこそ、精緻かつ科学的ながら、実用性も追求して作られている。にもかかわらず、見るときや場所、状況によって、ある時は過去の記憶を思い出させたり、またある時は妄想を掻き立てたりする。地図の向こうに自分は何を見ているのか。行き先ではなく、そんな自分に対して意識を向けてみると、意外な一面に気づき直すことができるのかもしれない。
自然との新しい関係を築く方法
続いて「地図」を使用する移動とは対比的でもある「ナチュラル・ナビゲーション」にまつわる本を紹介したい。著者のハロルド・ギャティさん(1903~1957)は、GPSの存在しない時代に、チャールズ・リンドバーグをはじめとする冒険家たちから尊敬を集めた、ナチュラル・ナビゲーション(自然物を手掛かりとするナビゲーション技法)を究めた航空パイオニアである。
本書は、そんな彼が遺したナチュラル・ナビゲーションの入門書だ。「まっすぐに歩く」といった初歩的な方法から、太陽や月、雲や風、動物の生息状況や樹木の植生といった「自然のしるし」から、方位や時間、天候といった情報を読み取る方法まで。自然を頼りに自らの歩みを決めるための術が、惜しみなく紹介される。
こうした能力は決して才能ではなく、誰もが練習次第で体得できるという。「わたしたちはコンパスやクロノメーター、六分儀、ラジオ、レーダー、音波発信器などを使ったナビゲーションに親しむあまり、昔の人類はただ通常備わった感覚と伝え聞いた知恵だけを頼りに、未知の領域を遠くまで旅し、前人未踏の荒野を抜け、海図のない海を渡ったということが信じられない」だけなのだ。
五感と身体を通して世界とつながるための知恵である「ナチュラル・ナビゲーション」は、ちょっとした散策や、ふと立ち止まって景色を眺めるような些細な時間をも、気づきに溢れ、感性を豊かにするチャンスにしてくれるかもしれない。
誇りある仕事、人間の尊厳とは何か
『星の王子さま』の作者として広く知られるサン=テグジュペリさん(1900~1944)は、先述したハロルド・ギャティさんとほぼ同時代を生きた飛行家である。『夜間飛行』と『人間の土地』も、『星の王子さま』と同じく、若い頃から空を飛ぶことに情熱を燃やし、彼が誇りをもって従事した飛行士の仕事での経験から生み出された作品だ。
『夜間飛行』は、1931年に出版された短編小説である。航空郵便はその草創期、他の輸送機関との競争に打ち勝つためには、当時はまだ非常に危険だと言われていた夜間の飛行に挑戦する必要があった。そんな使命を背負いながら、この困難な職務に従事する職業飛行士たちの気高さと、勇気に満ちた行動を描くものだ。
『人間の土地』は、1939年に出版された、職業飛行士としての経験に基づく自伝的エッセイ集だ。僚友の遭難事故や、彼自身が長距離飛行の途中でサハラ砂漠に不時着し、救助が来るまでほぼ飲まず食わずで過ごした3日間など、飛行士の仕事の中で見聞きし経験した命懸けの出来事を通して、人間の尊厳とは、人間らしい生き方とは何かを見出していく。
飛行家という仕事は、これだけの危険を孕んでいるにもかかわらず、なぜ、彼らを惹きつけてやまないのか。自身の使命、世界とのつながり、生の感触、生きる意味とは何か。普段考えることがなくなりつつあるそんな問いかけに、いま私たちはどう答えるだろう。
島旅のすすめ
最後は、2つの「旅の手帖」を紹介したいと思う。
まず紹介するのは、詩人・比較文学者の管啓次郎さんによる、島旅の記録だ。タイトルの通り、旅先はハワイと蘭嶼(らんしょ。台湾南東沖に位置する孤島)という2つの島である。眩しく色鮮やかなハワイと、個性的ながら素朴でなつかしい蘭嶼。二つの島はどこか対比的でありながら、ともに島嶼の宿命とでも言えるであろう、移民や漁猟、航海、交易によって文化が入り混じることで醸成された、複雑な美しさを備えている。
管さんが書く旅の文章は、楽しい・わくわくするという以上に、心が洗われ、同時に背筋が伸びるような心地がする。それは、管さんの旅にはいつも、土地の本来の主である山川草木鳥獣虫魚への慈しみと、それらに寄り添う先住の人々が語り継いだ神話、培った文化に対する畏敬に溢れているからだ。だからこそ歴史を厳しく批評し、いまここにある人びとの営みにも愛おしさを感じ優しい眼差しを向けることができる。こんなふうに旅ができたら、といつも思う。
「『世界』とはまた巧妙な目隠しでもある。何より怠惰にもとづく無知を蔓延させる力が、いつでもぼくらを罠に陥れようとしている。旅はそのつどその場だけではけっして果たせない。関連する書かれた文字を読み、学ばなければ、何もわからないのだ。土地の来歴がわからない、隠された層がわからない。過去が見えない。だから旅には必ず「勉強」が必要で、それがなければきみの旅は狐に先導され狸に後押しされて、ぐるぐる決まった回路をまわる徒労に終わるだろう」
豊かな知性こそが、旅の時間と記憶を濃密なものにする。島から島へ。それぞれの土地を正しく感受する旅を重ねることは、世界のつながりを実感するための数少ない方法なのかもしれない。
だから今を大切に
続いて最後に紹介するのは、昨年101歳で亡くなった染色家・柚木沙弥郎さんの初めての海外旅行の記録である。
ヨーロッパの中世美術に憧れ、ひとり旅に出かけたのは1967年、44歳のこと。約2カ月間の日々を、カメラと日記、スケッチブックに記録した。移動、会った人物、食べたもの、買い物といった出来事と、訪れた場所それぞれで目にした建築や街並み、美術作品、現地の人たちの振る舞いが、淡々と、しかし独特の着目と表現をもって綴られていく。
旅行が簡単でも便利でもなかった約60年前の旅の記録ながら、古さはまったく感じない。また、初めての海外一人旅の記録だが、美しい作品への興奮や感動はあれど、妙な初々しさや慌ただしさも感じさせない。まるで日常の延長のようというか、筆者は普段からこんなふうに世界を捉えていたのではないか、と思えてくる。
実際に、イタリア・フィレンツェで焼き物の水注ぎを買えばよかったと後悔した際に、柚木さんはこう続けている。「しかしこれは欲かもしれない。未だ先がある。今度の旅行では出来る範囲を充分楽しむこと。それ以上は又今度に譲る。生涯のやり方をこれと同じでやったらいい。同時よりもその時々が大切であろう。又今度! それが出来なくても何ともない。だから今を大切に」と。旅と日常を地続きにする、お守りのような言葉だ。
贄川 雪(にえかわ ゆき)
編集者。書籍や雑誌、webの編集、取材執筆。plateau booksの選書と企画担当、ときどき店番。
plateau books(プラトーブックス)
建築事務所「東京建築PLUS」が週末のみ営む本屋。70年代から精肉店として使われていた空間を自らリノベーションし、2019年3月にオープン。ドリップコーヒーを味わいながら、本を読むことができる。
所在地:東京都文京区白山5-1-15 ラークヒルズ文京白山2階(都営三田線白山駅 A1出口より徒歩5分)
営業日:土・日・祝祭日 12:00-18:00
WEB:https://plateau-books.com/
SNS:@plateau_books
編集・神谷 晃(GQ)
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