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モーターサイクルへの偏執が成した米国二輪博物館『WHEELS THROUGH TIME』 しばしばクレイジーと揶揄される館長に本邦初インタビュー

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モーターサイクルへの偏執が成した米国二輪博物館『WHEELS THROUGH TIME』 しばしばクレイジーと揶揄される館長に本邦初インタビュー

■度を超した偏執ゆえ、しばしば“Crazy”と揶揄される名物館長とは?

 米国屈指のハイキングトレイルBlue Ridge Parkway(ブルーリッジ・パークウェイ)を擁するノースカロライナ州の町マギーヴァレーにある『Wheels Through Time(ホイールズ・スルー・タイム)』(以下WTT)は“旧車のサンクチュアリ”と評される二輪博物館です。モーターサイクルへの常軌を逸した情熱から常々“Crazy”と揶揄される館長、偏執狂Dale Walksler(デール・ウォークスラー)氏へ、本邦初となるインタビューを敢行しました。

アメリカを代表するハーレー用パフォーマンス・パーツメーカー 「S&Sサイクル」の歴史を振り返る

───2日間にわたる取材にご協力頂き、ありがとうございました。終始、夢の中にいるような気分でしたが、おかげさまで無事撮影の目処もつきました(編集部)。

Dele(以下D):いい取材になれば何よりだ。

───Wheels Through Timeという名前は、この場所に見合った素晴らしいネーミングだと思いますが、その由来を教えて下さい。

D:ありがとう。古いモーターサイクルにはそれぞれに歴史が詰まっている。そしてその歴史は、ふたつの車輪を通して時代を超えてゆく。以前、私よりずっと年上の老人がここで青春時代の愛機と同じモデルに対面し「当時の思い出が蘇った!」と喜んでくれた。ここではそんな素晴らしい出来事が数え切れないほどある。

───素敵なハナシですね。ところで館長は何歳ですか。

D:1952年生まれで68歳になる。

───開館したのはいつですか。

D:この世界に入ったのは1969年、シカゴでバイクショップを経営しながらクラシックバイクの発掘とレストアを始めた。1977年にイリノイ州のMt.Vernonに移店、収集を続けながら2001年までショップを営んだが、プライベート・コレクションがある程度溜まった2002年に、この地でWTTを開館した。

───WTTのコンセプトを教えて下さい。

D:有名無名を問わず、歴史上のアメリカン・モーターサイクルの中から、レアでストーリーがあるものをコレクトしている。全てに魂が宿っていて、それに耳を澄ませながら復元させるのが私の生き甲斐だ。

───年間の来館者はおおよそどれくらいですか。

D:ここ数年のアベレージは10万人前後になる。

───それは凄い! 世界中の旧車狂が訪れるメッカですね。

D:重要なのは数ではなく、顧客のクオリティだと思う。うちの来場者に節穴の目を持つ人間はいない。以前、日本から訪れた床屋を営むバイク狂と意気投合して交友を持った。残念ながらこの世を去ったが、彼の遺灰は今も館内の片隅にあるよ。

───正に旧車の聖域ですね。現在の展示数は?

D:常時約350台、ストックはそれ以上だ。

───ボードトラックやヒルクライムを再現した豪快なディスプレイも見所ですが、館内のレイアウトは誰が考案しているのですか。

D:この建物はワタシのアイデアを建築家が具現化したもの。内装もしかりで、コンクリを流す前にレイアウトを考案した。ヒルクライムにボードトラック、クラシックダート、アーリーバイク、ワンオフ、ミリタリーなど、9つのカテゴリーを核とし、館内のどこに立っても常時5つが見えるように配置している。

───なるほど!!

D:タイムラインはあえて設定していない。全ての来場者に楽しんで欲しいから、少々混乱させるのも狙いさ(笑)。

───館内で感じた、異空間に迷い込んだような奇妙な感覚はそのせいでしたか!! ところで、館長の日常はどんなルーティンなんですか。

D:開館時は許す限り館内に出て来場者とコミュニケーションを取っている。日替わりでエンジンに火を入れてデモランするのも日課だ。閉館後は1時間ほどショップで作業して、そのあと晩飯を食いに帰宅。食後はショップへ戻り2時間ほど作業して、再度家に戻り彼女のトリッシュに「愛しているよ」と伝え、またショップで2時間くらい作業。平日はそんな感じだ。

───350台の車両のほとんどが実働のコンディションと聞いて驚愕したのですが、さらに驚くべきは車両のリペアとメンテナンスまで館長が直々にされていることです。プライベートな時間どころか、寝る暇もないのでは?

D:半世紀近く同じことをやっているし、そもそもワタシにはプライベートなんて必要ない。閉館日の火/水曜日は早起きしてメールをチェックし、その後はショップに直行するが、許されるならば、外食もせず敷地から一歩も出ず誰とも口を利かずに、ひとりショップに籠っていたい。ワタシにはそれが一番の至福なんだよ。最近は書斎で過ごすことも多いけど、手に取るのはモーターサイクルの古い文献だし。

───博物館を運営して良かったと思うことを教えてください。

D:世界中のバイク好きと出会えること。様々な車両を寄贈していただけるのもありがたい。人生の一部をドネーションしてもらっているので、後世に残す責務も発生するが。たとえばこのキャビネット、何が入っていたかは知る由もないけれど、ワタシは前の所有者の人生のスライスが入っていると思っている。そのスライスの集積がこのミュージアムで、その全てを管理するのがワタシの使命なんだ。

───探し当てた車両もあれば、集まってくるものもある。どちらにしても、これだけのものをキープするのは重責です。ところで館長はTVをはじめ様々なメディアでもご活躍してますね。

D:最近では“What’s in the Barn?”というヒストリーCHの番組だね。“American Pickers”にも数回出たよ。アメリカのモーターサイクルマガジンのほとんども取材に来ているよ、AMAとAMCA以外は。

───真っ先に来そうな二者ですが?

D:くだらないジェラシーさ。我が国の二輪界の母体であるべき両者なのに、とても情けない。彼らが発刊している雑誌を見ればわかるよ。とても弱い。

───そんな事情があったとは……。話題を変えて、H-D(ハーレー・ダビッドソン)カンパニーとの関係はいかがですか。

D:色々と協力しているよ。ビル(※Bill Davidson:御大ウイリー・G・ダビッドソンの息子でH-Dミュージアム担当副社長)は親友なんだ。

───良き理解者ですね。WTTの中で1番印象深い車両はどれですか。

D:All of it!

───やはり(笑)。

D:博物館っていうのは奇妙な空間で、それぞれ異なる目的やテーマがある。ワタシには後援者もスポンサーもいないから、運営は基本的に入館料でまかなっている。たまにバイクをビルドして売り、建物の修復や運営費に充てているよ。

───素朴な疑問ですが、なぜここには特別なモーターサイクルが集まってくるのでしょう?

D:神のご加護かな……それ以外の答えはない。

───この巨大な博物館を築いた原動力は?

D:“Anger !”ひとつ言えるとすれば、キミがこれまで出会った人間の中で、ワタシは最も怒っていて、同時に最も幸せな人間だということ。

───その怒りはどこからくるのですか。

D:常時、全方向から。その“怒り”をパワーに変換することが重要だ。

───なるほど。では最後の質問です。今後の展望をお聞かせください。

D:さらなる怒りだよ。

(END)

■【画像】ROLLER MAGAZINEのInstagram

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