遡ること2017年7月24日に、ダイムラー社は参戦しているドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)から2018年末を持って撤退し、2019年/20年のシーズン6からFIAフォーミュラEに参戦すると発表した。
これに続くように、同年7月28日、ポルシェは11月のバーレーン6時間レースを最後に世界耐久選手権(WEC)から撤退し、2018年/2019年のシーズン5のからフォーミュラEにワークス参戦することを発表。 同じく18年間という長きに渡って世界耐久選手権シリーズに出場してきたアウディは2016年末で同シリーズから撤退し、同年秋からフォーミュラEに本格参戦すると発表している。
アウディ、メルセデス・ベンツ、ポルシェが雪崩を打ってフォーミュラEレースに移行するのだ。当然ながらDTMの主催者(ITR)、FIA WECとACO(ル・マン24時間レース主催者のフランス西部自動車クラブ)は、大いに困惑している。
■フォーミュラEとは?
では、フォーミュラEとはどのようなレースなのか? その実像に迫ってみよう。フォーミュラEは、2012年8月27日、国際自動車連盟 (FIA) がシリーズ設立を発表した。フォーミュラEホールディング (FEH) がシリーズを運営する組織となり、同社CEOにはスペインの実業家アレハンドロ・アガグ氏が就任した。
都市部の大気汚染対策となる電気自動車の普及促進を狙い、レースは既存のサーキットではなく、世界各地の大都市や有名リゾート地の市街地コースで行なわれるのが特長だ。エンジン音も排ガスもないレースのため、その特徴を最大限アピールしているわけだ。
シリーズは秋に開幕し、年をまたいで年間12戦程度が行なわれるため、シーズンを「2017/18年シーズン」というように表記する。運営の効率化やチーム運営費用の削減などの目的もあり、レースの本部と各チームのファクトリーは全てイギリスのドニントンパークに集約されている。
フォーミュラEの初年度となった2014年/2015年のシーズン1は「スパーク・ルノー・SRT 01E 」と呼ばれる専用マシンを用いたワンメイクレースとして実施された。この最初のシーズンは2014年9月に北京で開幕し、2015年6月のロンドンまで世界10都市で11大会が開催された。
翌年のシーズン2、2015年/2016年のシャシーはワンメイクのままだが、パワートレーン(モーター、インバーター、クーリングシステム、ギヤボックス)についてはチーム独自に製造・改良することが認められた。搭載バッテリーはワンメイク指定で充電量に限度があるため、ドライバー1名あたり2台のマシンを使用し、レース中にピットで乗り換えるというレース方法が採用されている。
なおシーズン5となる2018年/ 2019年シーズンからは、乗り換えなしでドライバーは1台のマシンで完走することが求められるようになる。将来的には停車中にワイヤレス充電するシステムや、コース上の給電レーンを走行してワイヤレス充電する「ダイナミック・チャージング」の導入を目指している。このワイヤレス充電、ダイナミック・チャージングはクアルコム社と契約し、同社が充電システムを開発している。
レースのオフィシャルカーはフォーミュラE公式パートナーのBMWが提供。セーフティーカーとして2台のi8、オフィシャルカーにi3を2台の計4台が使用されている。このセーフティーカー(正式名称はクアルコム・セーフティーカー)は、常時、クアルコムの非接触充電が使用されている。
■チーム変遷の歴史
シーズン3(2016年/2017年シーズン)の参加チームは、10チーム/2台体制だった。「ABTシェフラー・アウディスポーツ」 、「アンドレッティ・フォーミュラE」、「DSヴァージン・レーシング」、「ファラデー・フュチャードラゴン・レーシング」、「パナソニック・ジャガー・レーシング」、「マヒンドラ・レーシング」、「ネクストEVニオ」、「ルノーeDAMS」、「テチータ」、「ヴェンチュリ・フォーミュラRレーシング」の10チームだ。
もちろん、レースが始まったシーズン1から各チームにも紆余曲折がある。DSヴァージン・レーシングは、イギリスのヴァージン・グループとPSAグループのDS(シトロエン)がジョイントしてシーズン2から参戦している。
アメリカのペンスキーが設立したドラゴン・レーシングはシーズン3(2016年/2017年シーズン)からアメリカの新興電気自動車メーカー、ファラデーフューチャーと提携してファラデーフューチャー・ドラゴンレーシングに。そしてパナソニック・ジャガー・レーシングは、シーズン1にヤルノ・トゥルーリ率いるトゥルーリチームがシーズン2で撤退し、今季シーズン3からパナソニック・ジャガー・チームとなった。
ネクストEVニオは中国モータースポーツ界の第一人者リュウ・ユとスティーブン・ルーが率いるチームで、シーズン1の途中から中国のEVテクノロジー会社のネクストEVが参加し、ネクストEV社のパワートレーンを搭載。シーズン3からイギリスのチームになり、チーム名はネクストEVニオとなっている。
ルノーeDAMSは、元F1チャンピオンのアラン・プロストと、フランスの老舗レーシングチームであるDAMSとの共同プロジェクトとしてスタートしたが、シーズン3からルノーが参画した。ただし、ルノーはもともとのワンメイク仕様のマシン、「スパーク・ルノーSRT 01E」の開発にも加わっており、EV技術の先駆者となっている。
テチータは、シーズン1、シーズン2と参戦した日本のチーム・アグリをシーズン3から中国のスポーツマーケティング&マネージメント会社のSECAが買収して、新チーム名のテチータとしている。
ヴェンチュリーは、俳優のレオナルド・ディカプリオと、モナコ拠点のフランスの老舗自動車メーカー、ヴェンチュリーとの共同プロジェクト。シーズン3からドイツの大手自動車部品サプライヤーのZFと提携している。
このように、シーズン1はプライベートチームが多かったが、シーズン2からモーターやインバーターが自由化されたため、アウディ、ルノー、ジャガー、シトロエン/DS、マヒンドラ(インドの自動車メーカー)、BMWがフォーミュラEに加わっており、さらに有力サプライヤーのシェフラーやZFもバックアップを行なっている。BMWはシーズン3からアンドレッティ・フォーミュラEチームと提携している。
これに、メルセデス・ベンツ(シーズン6から)、ポルシェ(シーズン5から)が加わるため、少なくともバッテリーを含めてマシンの完全自由化となり、レース途中でのマシンの乗り換えも不要になる。したがって2018年/2019年のシーズン5からは完全に自動車メーカー同士のレースになると予想されている。
■歴史を紐解けば
シーズン1に使用されたワンメイクマシン、スパーク・ルノーSRT 01Eの概要は、スパークレーシングテクノロジー社、ルノーを中心とするコンソーシアムにより開発されたフォーミュラE選手権用のマシンだった。
動力性能的にはF3相当とされている。
・最高出力:200kw(馬力換算270bhp相当)
・レースモード出力:133kw(馬力換算180bhp相当)
・追い抜き用エキストラパワー:67kw
・0-100km/h加速性能:約3秒
・最高速度:225km/h(FIA既定によるリミット設定)
車両のスペックは、全長5000mm、全幅1800mm、全高1250mm、トレッド幅:1300mm、最低地上高75mm、重量:880kg(ドライバー含む)となっている。
シャシーはダラーラ製のハニカム構造カーボン/アルミコンポジット。バッテリーマネジメント用の電子制御、ロガーシステムはマクラーレンエレクトロニクス製ECU/データログシステムだ。
タイヤ、ホイールはワンメイクで、ミシュラン製オールウェザー18インチ・タイヤ、OZレーシング製マグネシウムホイールで、ホイール幅はフロント260mm/リヤ305mm、タイヤ径はフロント650mm/リヤ690mm。ブレーキはアルコン製F1仕様のカーボンブレーキを使用。インバーターはマクラーレンエレクトロニクス製、モーターにシーケンシャルギヤボックスが組み合わされている。バッテリーはウィリアムズ・アドバンスドエンジニアリング製というものだった。
そしてシーズン2(2015/16年)からはモーター、インバーター、バッテリーマネジメント制御、トランスミッションが自由化され、自動車メーカーやメガサプライヤーが加わっているチームは、かなり技術的なアドバンテージを持っているということになった。
シーズン3の2016年/2017年はルノーeDAMSとABTシェフラー・アウディスポーツチームの戦いになり、最終的にABTシェフラー・アウディスポーツチームのドライバー、ルーカス・デグラッシ選手がチャンピオンに、チームチャンピオンはルノーeDAMSが3シーズン連続で獲得している。
そして、マシンの完全自由化となるシーズン5、つまり今年の年末、2018年/2019年シーズンからのフォーミュラEレースは、まったく予想できないほどのレベルになると思われ、大注目のレースに成長しているのだ。2018年12月15日サウジアラビアの首都リヤドでシーズン5が開幕する。
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