世界最高峰の4輪レースであるF1でレギュラードライバーの座を掴んだ人物は、下位カテゴリーからライバルを圧倒してきた名手ばかり。そこで、F1に到達するまでに彼らがどれほど活躍し、いかにして周囲のライバルとの違いを見せつけてきたのかを改めて確認するべく、2026年F1に参戦する22名がF1ドライバーになる前、ステップアップカテゴリーで残してきた結果やエピソードを『F1ドライバーの履歴書』と題した不定期連載でお届けする。
第8回目に登場するのは、2016年シーズン後半にF1デビューを飾った現在29歳のエステバン・オコンだ。
【F1ドライバーの履歴書】フェルスタッペン修行時代。四輪初体験から1年でF1レギュラーに
1996年9月17日、フランス北西部の街エヴルーに生まれたオコン。自動車修理工場を営む整備士の父が与えたカートに親しんだ彼は、2014年フランス国内選手権でレーシングカートキャリアをスタートさせ、2015年にはミニカートのフランス北部選手権でチャンピオンに輝いた。また、同年のフランス南部選手権ミニカート部門では、モナコ出身のシャルル・ルクレール(1997年10月生まれ)がタイトルを掴んでいた。
なお、オコンと同じく1996年生まれのピエール・ガスリーとは地元が近く、ガスリーがレーシングカートに夢中になるきっかけとなったのは、エステバンの父オーレント・オコンが誘ったことだった。2007年にミニム、2008年にカデットで、フランス選手権のタイトルを獲得。特に2008年にカデット制覇は、最大のライバルであり家族ぐるみの友人アントワーヌ・ユベール、そしてガスリーというライバルとの接戦を経ての勝利だった。以降3年間はKF3にステップアップし、CIK-FIA世界選手権やCIK-FIAヨーロッパ選手権に参戦した。
なお、オコンの家は決して裕福ではなかった。両親は自宅兼自動車修理工場を手放してオコンのカート活動費を捻出したことに代表されるように、懸命にオコンのキャリア継続に努めた。同時にオコン自身もカートレース結果でその献身ぶりに応えたのだった。その結果、2010年にオコンはジニー・キャピタルが率いるロータスF1チームの若手ドライバー育成プログラムに加入を果たした。翌2011年にはフランス選手権のKF3でクラスタイトルを獲得。WSKユーロシリーズでは選手権2位の成績を残し、2012年からはシングルシーターに移行する。
四輪レースデビューイヤーとなった2012年、16歳を迎えるオコンはユーロカップ・フォーミュラ・ルノー2.0、フォーミュラ・ルノー2.0アルプス選手権(全7戦中ポーグランプリを除く6戦に参戦)という2つのシリーズを戦った。ユーロカップで1回、アルプス選手権で2回表彰台に上がるも、この年は勝利を飾ることができなかった。
アルプス選手権では、コイラネン・モータースポーツのチームメイトで同カテゴリー3年目のダニール・クビアトが14レース中7勝を飾ってチャンピオンに輝き、ユーロカップでは4勝を飾ったストフェル・バンドーンがクビアトとの接戦を制してタイトルを掴んでいた。オコンはユーロカップで選手権14位、アルプス選手権で選手権7位という成績で四輪1年目を終えた。
2013年はユーロカップに継続参戦しつつ、フォーミュラ・ルノー2.0NEC(北欧選手権)にスポット参戦。また、同年はARTジュニアチーム(現R-ace GP)へ移籍した。NEC第1戦ホッケンハイムのレース3で四輪初優勝を飾ると、主戦場となるユーロカップの終盤に2勝を飾り、159点獲得の選手権3位に輝いた。
ただ、2013年ユーロカップのタイトルを掴んだのは195点獲得のガスリーだった。余談だが、カート参戦時代にガスリー家とオコン家の間に、FFSAフランスモータースポーツ連盟の奨学金をめぐるイザコザが発生し、両家の関係には深い亀裂が入ったのだった。
また、2013年11月に開催された第60回F3マカオグランプリにプレマ・パワーチームからエントリーし、これがF3デビューとなった。予選は15番手となるも予選レースで10番手に浮上。決勝はエンジンストールで大きく出遅れるも、10位まで挽回してフィニッシュを迎えた。なお、9位はのちのF1ドライバーニコラス・ラティフィ(カーリン)。そして11位は関口雄飛(ミュッケ・モータースポーツ)、12位は中山雄一(トムス)だった。
18歳を迎える2014年、オコンはFIA F3ヨーロピアン選手権に臨んだ。前年のチャンピオンチームであるプレマ・パワーチームのマシンは戦闘力があり、シーズン序盤からトム・ブロンクビスト(ジャゴニャ・アヤム・ウィズ・カーリン)やアントニオ・フオコ(プレマ・パワーチーム)、ルーカス・アウアー(ミュッケ・モータースポーツ)を上回るスピードと安定感を見せつけ、第4戦ハンガロリンクの12レース終了時点まで話題の中心は選手権首位のオコンだった。
ただ、16歳のマックス・フェルスタッペン(VAR)が第5戦スパ・フランコルシャン、第6戦ノリスリンクの6レースで6連勝を飾り、ロータス育成のオコンを差し置いてF1昇格の噂が駆け巡るようになった。ただ、オコンは第7戦モスクワで3連勝を飾り、自らの存在を改めて知らしめている。オコンは最終的に優勝9回、全33レース中表彰台獲得21回という安定ぶりで、2014年FIA F3ヨーロピアン選手権のチャンピオンに輝いた。
しかし、選手権3位に終わったフェルスタッペンはシーズン途中にレッドブル育成加入&トロロッソから2015年のF1に参戦することを発表。大量リードで選手権を掴んだオコンを差し置いて、パドックの話題の中心は最後までフェルスタッペンだった。
オコンは10月にロータスの2012年型マシン『E20』のステアリングを握り、2日間で約150周を走行。彼にとって初めてのF1ドライブだった。翌週にはFIA F3ヨーロピアン選手権チャンピオンの特典としてフェラーリの2010年型マシン『F10』をフィオラノで走らせ、11月にはアブダビGPのフリー走行1回目(FP1)で公式セッションデビューを飾った。
■ロータスF1からメルセデス傘下に。F1シートの空きを待ち続ける2シーズン
翌年GP2参戦の噂もあったオコンだったが、この計画は実現しなかった。この時、ロータスF1は財政面で危機に瀕しており、オコンはここでジェラルド・ロペスが率いるジニー・キャピタル/ロータスF1の育成プログラムに別れを告げた。
2015年はARTグランプリからGP3に参戦することを選び、5月の開幕戦直前にトト・ウォルフ率いるメルセデスと契約。肩書きはDTMドイツツーリングカー選手権におけるテストドライバーだった。とはいえ、オコンの主戦場はGP3に変わりはない。GP3での優勝は1回のみとなるも、11回の連続表彰台を含む計13回の表彰台登壇という抜群の安定ぶりを見せつけ、オコンはGP3チャンピオンに輝いた。
また、5月のF1バルセロナ合同テスト、6月のF1レッドブルリンク合同テストにおいて、メルセデス・パワーユニット(PU)を搭載するフォースインディアVJM08のステアリングを握った。そして“本業”として、DTMの現場ではメルセデス勢のARTグランプリに帯同したのだった。
FIA F3ヨーロピアン選手権王者に加え、GP3王者という経歴も得て2016年を迎えたオコンだったが、メルセデスPU搭載チームのシートに空きはなかった。
そのため、メルセデスベンツAMG DTMチームARTからDTMに参戦しつつ、ルノーF1でリザーブドライバーを務め、スペインGP、イギリスGP、ハンガリーGP、ドイツGPの4戦で金曜FP1に出走することに。また、シルバーストンのインシーズンテストではメルセデスの『W07』をドライブ。懸命に与えられた仕事をこなし、F1シートに空きが生じる瞬間を待ち続けた。
そうして迎えた2016年8月。メルセデスPUを搭載するマノーは、レギュラードライバーのリオ・ハリアントが「契約上の義務を果たすことが不可能である」と明らかにし、ハリアントに代わりオコンをシーズン後半9戦で起用すると発表した。これでオコンは同じメルセデス傘下のパスカル・ウェーレインのチームメイトとして、2016年第13戦ベルギーGPにてF1初レースを迎えたのだった。オコンは当時19歳11カ月だった。
F3、GP3でタイトル獲得し、自らの実力を示しながらも、F1のシートが空く瞬間を待ち続ける時間を過ごしたオコン。その後、2019年の1シーズンのみメルセデスのリザーブドライバーを務めたものの、2026年現在も彼はレギュラードライバーとしてF1のステアリングを握り続けている。実力とF1チームの支援を有しても、F1のシートを掴むことは容易ではないことを示すような初期キャリアだった。
[オートスポーツweb 2026年04月14日]
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