アナログが生む荒さと懐かしさ
text:Takuo Yoshida(吉田拓生)
photo:Satoshi Kamimura(神村 聖)丸目4灯のランプとキドニーグリルを組み合わせた表情はBMWそのもの。
けれどE30型3シリーズは、絵に描いたように平凡なノッチバックスタイルの4ドアセダンである。
特にリアのトランク部分がハイデッキになっていない姿が「ネオクラシック」の風情を醸し出す。
4325mmという全長は現行のBMW 1シリーズに近いが、3代目となる現行1シリーズは5ドアハッチバックとなっている。
全長よりも時代を感じさせるのは全幅の方で、現行1シリーズは1800mmの大台に到達してしまったが、E30は1650mmに留まっている。
外観の見た目通り、E30の室内は広くない。横方向が特にタイトな空間に標準的なサイズ感のシートがはまっている。
今回の撮影車両はBMWスペシャリスト、オートスクエアーエノモトが新車同様に仕上げた1989年式のBMW 320i。キーを捻ってエンジンを始動させる。80年代のエンジンはE30を含めほとんどが電子制御になっており、始動にキャブレター車のようなコツはいらない。
だがブルンと車体を揺すらせた後、1気筒ずつ火が入っていく様子は、現代のエンジンにはないアナログらしさが感じられる。
水温系の針が動き出したことを確認し、T型のシフトレバーをDモードまで動かすと、再びブルンと車体が揺すられ駆動が繋がる。
マウント類の柔らかさや機構的な荒っぽさにもちょっとした懐かしさが漂う。
贅沢エンジン「ストレート6」 走りは軽快
ATの微かな滑りを感じさせつつ、320iで走り出してみる。
現代車との違いは「ガソリンが爆ぜている!」とわかるストレート6エンジンの生々しさと、車体の軽さにある。
アクセルの踏みはじめこそトルクの細さを感じるが、「シルキーシックス」と称えられるBMWのストレート6ユニットの緻密な回転フィールは4気筒とは別物。
現代のエンジンが「効率の高さ」を得る代わりに失ってしまったものが、このパワーユニットにはある。
E30の320iの最高出力は129ps。現行BMWにも320iというモデルがあるが、こちらは4気筒ターボで183psもある。
ところが車重1tあたりの馬力はE30の114psに対し現行モデルは121psなので、新旧320iの動力性能には最高出力ほどの違いがない。
E30型320iが備えるATギアボックスは4速なのでギア比は離れ気味だ。このため良く言えば1速ごとにエンジン回転の高まりを感じられるが、加速途中にスピードの落ち込みがある。
E30は5速MT(マニュアルシフト)のモデルも輸入されていたので、それなら高回転型エンジンの旨味を引き出せるはずだ。
E30型320iの車体重量は1125kg。この数値は5人乗りなら現代のホンダ・フィット、スポーツカーならロータス・エキシージSに近い。
といえば「若干ノーズヘビーだが、走りは軽快」、と言う表現にも納得がいくだろう。だがE30型320iの走りを軽快にしている最大の原因は、実際の車重以外の部分にある。
新旧の狭間にあるネオクラシックの味
筆者はBMWのモダニズムを開花させたモデルと言われるマルニ(BMW 2002)に乗っていた時期がある。
E30の祖先として1966年にデビューしたマルニは最後のクラシックBMWとされている。
一方、初代(E21)と2代目(E30)3シリーズはネオクラシックの色が濃い。
ではクラシックとネオクラシックの分岐点はどこにあるのか?
ドライブフィールにおける大きな違いはパワステやブレーキサーボといったアシスト系にあると思っている。マルニの車重は1tを切るが、E30と比べた操作感は重々しい。
アシストなしのステアリングとブレーキ(サーボ付きもある)が車体を実際より重く感じさせ、乗り手に「現代の路上で毎日使うのは大変」という印象を与える。
その点パワステや軽い踏力で効くブレーキ、エアコン、賢いオートマといったモダンな装備を一通り備えたE30の320iは、現代のアシグルマとしても十分に活躍できる能力を持っている。
と言ってもスイッチひとつで手放し運転ができてしまう現行のBMW 3シリーズと比べれば、E30はやはり前世紀の作品なのである。古くもないが、決して新しくもない部分に「ネオクラ」の魅力がある。
自動車の行く末がオートノマス(自律運転)にあるのだとすれば、実用に足り、ドライビングの楽しさを備えたE30型3シリーズの魅力は今後さらに高まるはずだ。
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