現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > クラッシュした角田裕毅とターン5の縁石の危うさ。1周保たないソフトすぎるタイヤとフェラーリの関係【中野信治のF1分析/第7戦】

ここから本文です

クラッシュした角田裕毅とターン5の縁石の危うさ。1周保たないソフトすぎるタイヤとフェラーリの関係【中野信治のF1分析/第7戦】

掲載 1
クラッシュした角田裕毅とターン5の縁石の危うさ。1周保たないソフトすぎるタイヤとフェラーリの関係【中野信治のF1分析/第7戦】

 イタリアのイモラ・サーキットを舞台に開催された2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGPは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)が今季2勝目/自身通算65勝目を飾りました。

 今回は、マクラーレンの優位性が影を潜めた要因、角田裕毅(レッドブル)のクラッシュと決勝での戦い、そして柔らかすぎるタイヤのデメリットについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

技術指令は効いたのか。特別な要素は「存在しない」と主張したマクラーレンはレッドブルに追いつけず【代表のコメント裏事情】

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 エミリア・ロマーニャGPの初日から依然としてマクラーレン勢が速く、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)がポールポジションを獲得した予選を終えた時点では『今週もマクラーレンのレースになるのかな』と思いきや、終わってみればフェルスタッペンが他を圧倒したレースでした。

 レッドブルはイモラでリヤサスペンションやエンジンカバーといった部分でアップデートを投入し、そのアップデートが効果を発揮したと思います。その上で、決勝のスタートでフェルスタッペンがピアストリをかわし、早い段階から首位に浮上したことでクリーンエアを手に入れ、タイヤのデグラデーション(性能劣化)をコントロールしやすい環境を手に入れたことが、大きかったでしょう。

 さまざまな要因が重なった上ではありますが、レッドブルのクルマのポテンシャルが上がってきていることは事実だと感じる一戦でした。ただ、高速コーナーへ向けてはシャープに曲がるクルマになりつつも、半径が小さいコーナーに関してはアンダーステアが強いように見え、引き続き苦労していますね。

 それでも、フェルスタッペンは特にセクター1で他を圧倒する走りを見せました。これは、ブレーキを少し残して速度を落とし切らず、リヤが軽くなった状態で入る難しい高速のS字コーナー(ターン2~4のタンブレロ、ターン5~6のビルヌーブ)がセクター1に多かったからでしょう。リヤがピーキーな状況でもコーナーに飛び込むことが得意なフェルスタッペンの技が、予選2番手、そして決勝での圧倒ぶりを支えたと思います。

 その一方で、これまでマクラーレンが見せていた圧倒的な優位性が影を潜めたように思います。レース後に知りましたが、FIA国際自動車連盟がエミリア・ロマーニャGPに向けて、タイヤとブレーキの冷却に関する技術指令を出していたとのことです。もしマクラーレンがレギュレーションの裏を突いており、今回の技術指令の影響を受けて裏を突けなくなったとすれば、マクラーレンとレッドブルとのギャップが縮まった要因も説明できるのではないでしょうか。

 レッドブルのアップデートの効果が出て、フェルスタッペンが見せた完璧な走りに加え、マクラーレンの翼から羽根が何本か抜かれた影響が現れたのがイモラのレースだったのかもしれません。


■イモラ・サーキットの難所。ターン5の高い縁石と角田裕毅の予選Q1でのクラッシュ

 一方、裕毅は予選Q1でターン5(ビルヌーブカーブのS字ひとつ目/右コーナー)の縁石に乗ってクルマの姿勢を崩して、勢いそのままバリアにクラッシュしてしまいました。そもそもターン5はかなり背が高く跳ねるタイプの縁石があるコーナーです。一発の速さを競う予選では、ブレーキをギリギリまで我慢してスピードも残しつつ、右側に荷重が乗った状態で左側のかなり高い縁石に乗ります。これはクルマの姿勢を崩す条件がすべて揃った、と言える状況です。

 ターン5の縁石に乗ることはレーシングラインとしては理想型ではありますが、縁石の高さや危うさを把握したドライバーたちは積極的に乗ってタイムを刻んでいこうとはしません。だからこそ、クラッシュを喫した裕毅は、自分自身に強い憤りを抱いたのでしょう。私には無茶なアタックには見えなかったですが、もう少し裕毅が冷静さを保てていれば防げたクラッシュだったと感じています。

 予選後に裕毅もコメントしていたとおり、Q3を新品2セットでアタックするために、Q1は新品1セットで終わらせたい状況でした。何かを獲りにいこうとすれば、当然リスクは負わなければいけません。そのリスクを含めた、レッドブル『RB21』というクルマを乗りこなす上でのラーニングカーブ(学習曲線)としての結果ですから、予選でのクラッシュは裕毅にとっても大きな教訓になったのではないかと感じます。

 決勝はピットレーンスタートから、タイヤのデグラデーションをコントロールしつつ無理せず順位を上げ、1ストップでトップ10入りできたのは裕毅だけという、彼らしいレースを見せてくれました。終盤もタイヤのコンディションに差があるフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)の猛追を防ぐために、エナジーストア(ES/回生エネルギーを貯めるバッテリー)をしっかり充電し、アロンソが接近してきたらそれまで蓄えた回生エネルギーのパワーを使って防御し、入賞圏内の10位を守り切りました。

 この決勝での走りは評価されるべきだと思います。予選でのクラッシュは褒められたことでは決してありませんが、決勝はポイントを持ち帰ることができ、周りの期待値を保った、いいレースだったと思います。


■柔らかすぎる『C6』タイヤのデメリット。2年前とは真逆のフェラーリ

 今回のエミリア・ロマーニャGPではピレリが『C6』というもっとも柔らかいコンパウンドをソフトタイヤとして持ち込みました。ただ、予選ではあえてミディアムタイヤ(C5)を履くドライバーも現れ、Q1とQ2でミディアムを履いたアストンマーティン勢は揃ってQ3進出を果たしています。

 ソフトタイヤが柔らかすぎると、セクター1、セクター2でフルプッシュした場合にセクター3走行中にタイヤが限界(ベストラップを刻めない状況)を迎えてしまうデメリットがあります。そのため、1周最後/セクター3までパフォーマンスを発揮するためには、セクター1やセクター2のどこかでセーブしなければなりません。

 当然、クルマによってソフトが1周保つ場合もありますが、クルマによっては保たなかったようで、最大グリップはソフトタイヤに届かずも、全セクターで100パーセントのパフォーマンスで走り切れるミディアムタイヤを選んだ方がタイムとしては良くなる状況が生まれました。また、決勝でのストラテジーを考えると柔らかすぎるソフト/C6はまず使えませんから、ミディアムタイヤ1セットを決勝に向けて残しておくことを優先し、予選でミディアムを使わなかったチームもあったとは思います。

 ただ、フェラーリに関しては地元イタリアでティフォシが見守るなかでしたから、Q3に行かなければいけませんでした。フェラーリがQ2でソフトタイヤを選んだのは、フェラーリの計算ではミディアムよりもソフトの方が速いと考えたのでしょうね。ただ、結果的に決勝にミディアムタイヤの新品を残すことができたことが、地元でのダブル入賞に繋がりましたね。

 また、フェラーリは燃料を積んだ状態でのクルマのバランスがそこまで悪くないと感じます。2年前までは軽いと一発がとてつもなく速いのがフェラーリでしたが、今は逆で重いといいけど、軽くなるとバランスが悪くなりピーキーになる。そのピーキーさを抑えるためにダウンフォース強めでストレートスピードが遅いセットアップとなり、予選では一発が出ないフェラーリらしくないクルマになっていますね。

 決勝では安定感の無さをたっぷりと積んだ燃料が落ち着かせ、レース終盤に燃料分軽くなった際には、路面にラバーが乗ってかなり路面コンディションが改善されているので、ピーキーさを緩和してくれる。だからこそ、決勝でフェラーリはコンスタントにポイントを積んでいるように見えます。

 次戦はモナコGPで、昨年はシャルル・ルクレール(フェラーリ)が彼の地元でポール・トゥ・ウインを飾りました。予選で一発が出せないフェラーリにとっては次戦は厳しいレースとなりそうですが、2025年のモナコGPは、レースの見応えを改善することを主な目的として、あらゆるコンディションにおいて最低2回のピットストップを義務づけとなります。この2ストップ義務のもとでは奇をてらった戦略を採った意外なチームが首位に立つ、なんてこともありそうですので、戦略次第ではフェラーリも可能性がありますね。

 とはいえ、低速コーナーが多く、路面ミュー(摩擦係数)も低いモンテカルロではマクラーレンが速いでしょう。そこに、フェルスタッペンやフェラーリ勢、そして今季いいパフォーマンスを見せているウイリアムズ勢がいかに挑むのかが楽しみですね。普段よりも予測がつきにくいモナコGPでは、意外なチーム、そして意外なドライバーがトップチェッカーを受けるかもしれません。


【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。

・公式HP:https://www.c-shinji.com/
・公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

[オートスポーツweb 2025年05月22日]

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

角田裕毅、アップグレードで予選11番手「速さが増したと感じるが、慣れる時間が必要」10位降格には強い不満示す
角田裕毅、アップグレードで予選11番手「速さが増したと感じるが、慣れる時間が必要」10位降格には強い不満示す
AUTOSPORT web
「マシンは確実に改善された」アップグレードの効果を実感も、我慢のレースで性能を引き出しきれず【角田裕毅F1第10戦分析】
「マシンは確実に改善された」アップグレードの効果を実感も、我慢のレースで性能を引き出しきれず【角田裕毅F1第10戦分析】
AUTOSPORT web
「レースをしている。テストじゃない」タイヤのケアを求められるも攻め続けたアロンソ【F1第10戦無線レビュー(1)】
「レースをしている。テストじゃない」タイヤのケアを求められるも攻め続けたアロンソ【F1第10戦無線レビュー(1)】
AUTOSPORT web
トラブルの修復で走行時間を大幅ロス。予選11番手は「よくリカバリーした」とホンダ折原GMが評価【角田裕毅F1第10戦展望】
トラブルの修復で走行時間を大幅ロス。予選11番手は「よくリカバリーした」とホンダ折原GMが評価【角田裕毅F1第10戦展望】
AUTOSPORT web
「リスクを取ったことが奏功」「これまでこういうブレーキトラブルの経験はなかった」/F1第10戦決勝コメント(1)
「リスクを取ったことが奏功」「これまでこういうブレーキトラブルの経験はなかった」/F1第10戦決勝コメント(1)
AUTOSPORT web
可夢偉の“エルボー”からペナルティ。7号車が象徴した苦闘のル・マンと、“最年長”トヨタが直面する転換点
可夢偉の“エルボー”からペナルティ。7号車が象徴した苦闘のル・マンと、“最年長”トヨタが直面する転換点
AUTOSPORT web
原因はブレーキの熱? 「過去一番良かったル・マン」で無念のホイール脱落に見舞われたトヨタ平川亮
原因はブレーキの熱? 「過去一番良かったル・マン」で無念のホイール脱落に見舞われたトヨタ平川亮
AUTOSPORT web
【F1分析】角田裕毅「今回はこれがベスト」 同一戦略だったオコンやサインツJr.にも敵わなかった今回のペース……やはり初日からの組み立てが鍵
【F1分析】角田裕毅「今回はこれがベスト」 同一戦略だったオコンやサインツJr.にも敵わなかった今回のペース……やはり初日からの組み立てが鍵
motorsport.com 日本版
困難に負けないフェルスタッペン/生粋のファイター、アロンソ【独自選出:F1第10戦ベスト5ドライバー】
困難に負けないフェルスタッペン/生粋のファイター、アロンソ【独自選出:F1第10戦ベスト5ドライバー】
AUTOSPORT web
「ル・マンのランドクルーザーをどう作るか」と可夢偉。“縁石走り”がトヨタに勝機をもたらす?【決勝直前プレビュー】
「ル・マンのランドクルーザーをどう作るか」と可夢偉。“縁石走り”がトヨタに勝機をもたらす?【決勝直前プレビュー】
AUTOSPORT web
メルセデスのラッセルが今季初優勝。18歳アントネッリが歓喜の初表彰台【決勝レポート/F1第10戦カナダGP】
メルセデスのラッセルが今季初優勝。18歳アントネッリが歓喜の初表彰台【決勝レポート/F1第10戦カナダGP】
AUTOSPORT web
FIA-F4、FRJで活躍する鈴木斗輝哉と梅垣清が5月のGTEテストで初のGT300ドライブ。みせたスピードと自信
FIA-F4、FRJで活躍する鈴木斗輝哉と梅垣清が5月のGTEテストで初のGT300ドライブ。みせたスピードと自信
AUTOSPORT web
新人アントネッリが3番手を守り抜き初表彰台「ずっと欲しかった。みんなありがとう」【F1第10戦無線レビュー(2)】
新人アントネッリが3番手を守り抜き初表彰台「ずっと欲しかった。みんなありがとう」【F1第10戦無線レビュー(2)】
AUTOSPORT web
レッドブルのホーナー代表、12位まで追い上げた角田裕毅のカナダGPを評価「いい仕事をした。彼は今、自分のスタイルに合ったモノを追求している」
レッドブルのホーナー代表、12位まで追い上げた角田裕毅のカナダGPを評価「いい仕事をした。彼は今、自分のスタイルに合ったモノを追求している」
motorsport.com 日本版
正解はミディアムタイヤ。ラッセルが今季初PP獲得。角田裕毅は11番手【予選レポート/F1第10戦】
正解はミディアムタイヤ。ラッセルが今季初PP獲得。角田裕毅は11番手【予選レポート/F1第10戦】
AUTOSPORT web
角田裕毅、18番グリッドから12位「ペースはまずまずだった。マシンの改良を得て、これからさらに上を目指す」
角田裕毅、18番グリッドから12位「ペースはまずまずだった。マシンの改良を得て、これからさらに上を目指す」
AUTOSPORT web
前戦のことは忘れてリセット。旧型車テストでは「RB19と21を比較できてよかった」【角田裕毅F1第10戦展望】
前戦のことは忘れてリセット。旧型車テストでは「RB19と21を比較できてよかった」【角田裕毅F1第10戦展望】
AUTOSPORT web
角田裕毅には表彰台に上がる才能がある……レッドブルF1相談役マルコが改善点を指摘「スピードをポイントに変えていかなくては」
角田裕毅には表彰台に上がる才能がある……レッドブルF1相談役マルコが改善点を指摘「スピードをポイントに変えていかなくては」
motorsport.com 日本版

みんなのコメント

1件
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村