久しぶりのフルモデルチェンジとなる日産の新型「エルグランド」は、驚くほど完成度の高いミニバンだった! 『GQ JAPAN』ライフスタイルエディターのイナガキがリポートする。
新型日産エルグランドの特徴
1.後席の評価2.再びミニバンの頂点へ3.ドライバーズ・ミニバン1.後席の評価
(前のページから続く)高級ミニバンの主役たる後席での乗り心地はいかに。
走行モードを「COMFORT」モードに切り替え、2列目および3列目シートでの過ごしやすさをチェック。まずスライドドアを開けて2列目シートに身を委ねると、素晴らしいプライベート空間が広がっている。シート座面や背もたれのクッション性は高く、身体を優しく、しかししっかりと包み込む。
装備面も充実しており、電動式のオットマンと電動リクライニング機能が備わっているため、ボタンひとつで無段階に最適なリラックス姿勢を作り出せる。ただし、前後方向のスライド機構に関しては手動式だ。また、シートヒーターに加えて、夏場に重宝するシートクーラー(ベンチレーション)も完備されており、季節を問わず快適な温度環境が保たれる。
2列目シートにおける動的質感、すなわちクルマが走り出した後の快適性は、まさに特筆に値するレベルだ。運転席でも感じたインテリジェントダイナミックサスペンションの恩恵は、後席でさらに顕著に表れる。
路面のうねりや継ぎ目を乗り越える際、低減衰で滑らかに衝撃を吸収し、車体の上下動を見事にフラットに保ち続けるのだ。そして、この快適性をさらに一段上の次元へと引き上げているのが高い静粛性である。
新型エルグランドは、高遮音ボディに加えて「新世代アクティブノイズコントロール(ANC)」を搭載。これは車内に設置されたマイクでエンジン音やロードノイズを検知し、スピーカーから逆位相の音を出してリアルタイムに騒音を打ち消す技術だ。日産は1990年代の「ブルーバード」(9代目)の時代から本技術を培ってきたが、新型エルグランドに搭載されたシステムは飛躍的な進化を遂げており、特に20km/hから30km/h程度の低速域における効果は絶大。こもり音や耳障りな低周波ノイズが低減され、驚くほどの静けさが車内を包み込む。頭上には前席と後席で独立したツインガラスルーフ(ダブルサンルーフ)が備わっており、開放感に溢れた移動空間を演出。USBのType-C充電ポートや使い勝手の良い小物入れなども手の届きやすい位置に配置されており、VIPの送迎から長距離の家族旅行まで、いかなる用途においても高い満足感を提供する仕上がりとなっている。
続いて、ミニバンの実用性を大きく左右する3列目シートに座る。かつてのミニバンの3列目シートといえば、緊急用の補助席のような薄っぺらい作りが多かったが、新型エルグランドの3列目はまったく異なる。シートの厚みやバックレストの高さが十分に確保されており、大人が座っても窮屈さを感じない立派な作りだ。アームレストも備わっており、リラックスした姿勢を保てる。
また、サスペンションの優秀さは最後尾である3列目においても失われておらず、後輪の真上に位置するにもかかわらず、突き上げ感や不快な振動が吸収されている。アクティブノイズコントロールの効果も3列目までしっかりと及んでおり、最後尾であっても前席の乗員と声を張らずに会話ができる静粛性が保たれている点には感心させられた。
しかしながら、3列目シートに関して、手放しで賞賛できない懸念事項が存在するのも事実。それは乗降性に関わるインターフェースの問題だ。具体的に言えば3列目に乗り込むためには、まずは2列目シートを前方に手動でスライドさせ、その後電動でバックレストを倒す必要がある。この操作をワンアクションで行うためのレバーやスイッチが存在せず、やや煩雑だ。開発陣によれば、これは2列目シートの座り心地や骨格の剛性を追求した結果、可動機構を省かざるを得なかったという。確かに2列目の快適性は高いポテンシャルを秘めているかもしれないが、日常的に3列目を使用するファミリー層にとって、アクセスの悪さはストレスとなり得るはずだ。
2.再びミニバンの頂点へ
試乗後、新型エルグランドの車両実験および開発ドライバーなどを含む開発陣にインタビューを行う機会を得た。話題の中心となったのは、新型エルグランドがどのようにして市場の覇権奪還を目指し、どのような哲学のもとに開発されたのかという点である。
まず外観のデザインとパッケージングについて開発陣は、全高を抑えてスポーティさを強調した先代の3代目から方針を大きく転換し、初代や2代目の頃のような堂々たる威厳と室内空間の広さを取り戻すことを強く意識したと語った。全高および全幅は2代目よりもさらに拡大されており、乗員が車内に乗り込んだ瞬間にくつろぎと優越感を得られる“大きさ感”が演出されている。
また、日産がグローバルに展開する「アリア」や「リーフ」といったピュアEVがクリーンなデザインを採用しているのに対し、新型エルグランドはあえてアクの強さや独自性を強調している。これは、本モデルが基本的に国内専売のフラッグシップ車であり、日本のVIPや富裕層が求める所有する喜びや自信をストレートに表現した結果であるという。
インテリアの設計思想においても、独自の哲学が貫かれている。運転席周りには大型のセンターコンソールが鎮座し、ミニバンでありながらドライバーオリエンテッドなコックピットが形成されている。一方で、ライバル車であるアルファードやヴェルファイアが2列目シートに豪華な固定式アームレストを採用し、見栄えの良さをアピールしているのに対し、新型エルグランドはあえて可動式のアームレストを採用した。開発陣によれば、これはロングドライブ時に乗員があぐらをかいたり、姿勢を崩したりと、どのような体勢でもリラックスできる実用性と快適性を最優先したためという。
3列目シートへのアクセスについて開発陣は、LLクラスのミニバンにおいてはセレナのようなミドルクラスと比べてウォークスルーの需要が低いと分析しており、限られたコストと重量を2列目シートそのものの座り心地向上や、内装の質感向上に全振りしたと明言した。
アクセスこそ割り切ったものの、3列目シート自体の作り込みには異常なほどの執念が感じられる。背もたれは肩口までしっかりとサポートする十分な高さが確保されており、サスペンションのセッティングも相まって、フル乗車時でも3列目の乗員が快適に過ごせるよう徹底的にチューニングされている。社内からも、「3列目にここまでコストをかけるのか」と驚きの声が上がったほど、移動空間としての本質的な価値が追求されているのだ。
走りを支えるパワートレインとシャシー制御については、日産の最新技術が惜しみなく投入されている。搭載される第3世代e-POWERは、エクストレイルと同等のモーター出力を持ち、システムトータルでも十分な馬力を発揮する。しかし、かつての3.5リッターV6エンジンのような暴力的な加速感を追求するのではなく、コンフォートモードでの穏やかさや、長距離移動における疲労感の少なさに重きを置いたセッティングが施されている。
そして、新型の最大の武器となるのが、四輪駆動制御e-4ORCEと電子制御サスペンションの統合制御だ。この電子制御サスペンションのベースシステムは、スポーツセダンである「スカイライン400R」で培われた技術をミニバン用に最適化したものであるという。加減速時に車体のピッチングを抑え、コーナーではロールを徹底的に抑制し、常にフラットな姿勢を保つよう緻密なプログラムが組まれている。また、車体が大型化したにもかかわらず、ステアリングラックの設計を見直してタイヤの切れ角を大きく取り、狭い道での取り回しや小回り性能を向上させている点も、日本の道路事情を熟知した国内専売車ならではの強みと言えるだろう。
最後、グレード展開について尋ねると、従来のエルグランドのように細かく多数のグレードを用意するのではなく、集約される予定という。これは選択と集中の結果である。
開発担当者たちの言葉の端々からは、一時的にライバルに遅れを取ったエルグランド・ブランドを、日産が持てるすべての技術と独自の解釈によって再びミニバンの頂点へと返り咲かせようとする、強烈な使命感が感じられた。
3.ドライバーズ・ミニバン
市場の絶対王者であるアルファードやヴェルファイアが、内外装の華やかな装飾や停車時の見栄え、すなわち“静的質感”において圧倒的な支持を集めているのに対し、日産は真正面から“動的質感”で勝負に出た。
プラットフォームの基本骨格を徹底的に鍛え上げ、e-4ORCEやインテリジェントダイナミックサスペンションといった最新の電子制御デバイスを惜しげもなく投入することで、ミニバンは走りが悪いといった固定観念を根底から覆そうとしている。
ライバル車がどこか“運転手任せのクルマ”といった印象を拭えないのに対し、新型エルグランドは、ステアリングを握る喜び、意のままに車を操る楽しさをドライバーに提供しながら、同時に同乗者にも快適性を約束するドライバーズ・ミニバンとして仕上がっているのだ。
結論として、新型エルグランドは“走る・曲がる・止まる”のクルマの根源的な価値において、現在の国産ミニバンの最高峰に位置するポテンシャルを確実に備えている。日産のエンジニアたちが妥協を許さず、走り込みを行い、車体の挙動ひとつひとつに神経を注いだ情熱が、ステアリングを通して伝わってくる。
正式発表後に日本の道路をどのように駆け抜け、どのような評価を獲得するのか? アルファード&ヴェルファイア一強時代に一石を投じるゲームチェンジャーとなり得るのか、今後の展開から目が離せない。
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みんなのコメント
相当ガラス拘って凝ってる、これコスト割高かも。
テスト車は当然上位のグレード相当に乗らせるだろうけど、今後出て来る廉価グレードにリアスポ無しが有るなら必見。