第2世代V4エンジン+アルミフレーム+フルカウルの最進勢力
ホンダ「VFR750F」は、1986年に登場したスポーツバイクです。ツアラー的なモデルに見えるのは、ベテランライダー向けに「落ち着いて乗れる」そんな雰囲気に仕上げているからです。しかしその中身は、最新技術が満載なのです。
【画像】ホンダ「VFR750F」(1986年型)の詳細を画像で見る(12枚)
近未来のバイクと呼ばれた、世界初の水冷V型4気筒16バルブエンジン(1気筒あたり4バルブ)を搭載するホンダ「VF750セイバー」が登場したのが1982年でした。
「VFR750F」はその4年後に発売されましたが、4年間でV4エンジンのスポーツツアラーは「近未来のイメージ」から「アートな必然美」へと宣伝文句が変わります。各社が繰り出してくる高性能車と差別化のため、「VFR750F」は品格を備えたマシンとして位置づけられました。
当時、国内は排気量250ccや400ccクラスのレーサーレプリカ車のブームが始まっていました。レースからのダイレクトなフィードバックのイメージは、こうした普通二輪車(当時は中型二輪車)の方が強く反映されており、実際、同時に発売された「VFR400R」はレプリカスタイルでした。
大型二輪車には免許の限定解除というハードルがあり、750ccクラス(いわゆるナナハン)はベテランライダーの到達点というイメージもあり、大型二輪車のハイメカニズムは高級車の象徴だったとも言えます。
「VFR750F」のエンジンは第2世代の水冷V型4気筒DOHCです。もともとV型は並列4気筒よりもスリムなエンジンですが、第1世代の「VF750セイバー」よりもさらにコンパクトに設計されています。
V型エンジンはクランク軸が短く、スリムになる上、メインベアリングが4個と少なく、フリクションロスを軽減します。短いことで高い剛性が得られ、馬力、トルクともにより高回転高出力を可能にします。
この高回転高出力の実現のために、「VFR750F」が新たに採用したのがカムギアトレーンです。通常はチェーンで繋いで回すカムシャフトを、時計のようにギア(歯車)で繋いで回転を伝えるもので、クランクシャフトとカムシャフトの間に2枚のギアを配列しています。より正確な吸排気バルブの開閉とフリクションロスに効果があり、レースでもその優秀性は実証されているメカニズムです。
新設計のピローボール式のロッカーアームも、高回転でのバルブ追従性とフリクションロス軽減に寄与しています。
105ps/10500rpm(輸出仕様の最高出力。国内版は77ps/9500rpm)を実現したエンジンを支えるフレームは、軽量・高剛性なアルミ製です。角断面のメインパイプは28×60mmで、当時は「極太」と表現されていました。
ステアリングヘッドとエンジンブラケットはアルミキャスト製で、重量は14kgと軽量ながら、ねじり強度は「VF750F」(1982年)に比べて約50%向上しています。高剛性と低重心、マスの集中化など、近代的思想で設計されています。
日本国内では大人向けの落ち着いた雰囲気のバイクでしたが、米国のAMAスーパーバイクレースでは、トリコロールカラーの「VFR750Fインターセプター」が活躍しました。当時はまだレーサースタイルとスポーツバイクスタイルが混走しており、アップハンドルの米国仕様の「VFR750F」は1986年のチャンピオンを獲得し、その高性能ぶりを見せつけました。
エアロフォルムという表現が相応しいフルカウリングと、低振動で高性能なV4エンジンを組み合わせた「VFR750F」のカタログには「1000km単位の旅を計画して欲しい」と記されています。
サーキットでもツーリングでも、高性能と快適性を高次元で両立させたバイクでしたが、レースの方はその後「VFR750R(RC30型)」が登場し、「VFR750F」はスポーツツアラーとして進化していきます。
「VFR」シリーズはその後、何度もフルモデルチェンジを繰り返して2022年まで生産が続きました。排気量1200ccの「VFR1200F」や、クロスオーバーモデルもバリエーションに加わわりましたが、直系の最終型となる「VFR800F」は、排気量(781cc)や操縦性に優れた車体サイズなど、初代「VFR750F」とほぼ同サイズでした。
2022年に生産は終了していますが、形だけ、あるいは味だけではない高性能の必然を「大人の高級機械」という立ち位置で、最終型まで貫いたバイクでした。
ホンダ「VFR750F」(1986年型)の当時の販売価格は84万9000円です。
■ホンダ「VFR750F」(1986年型)主要諸元エンジン種類:水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ総排気量:748cc最高出力:77PS/9500rpm最大トルク:6.5kg-m/7500rpm全長×全幅×全高:2120×730×1170mmシート高:785mm始動方式:セルフ車両重量:221kg燃料タンク容量:20Lフレーム形式:ダイヤモンドタイヤサイズ(F):100/90-16 59Hタイヤサイズ(R):130/80-18 66H
【取材協力】ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)※2023年12月以前に撮影
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