■ロック界のスーパースターはフェラーリを買って一人前!?
ロック界のスーパースターたちに「フェラリスタ(フェラーリ愛好家)」が多いことは、もはや周知の事実ともいえるようだ。
600万円でフェラーリ泥沼生活! 「412」は本当にリーズナブルなV12モデルなのか!?
VAGUEでもたびたび取り上げる「ジャミロクワイ」のジェイ・ケイ氏や、長らく「250GTO」を愛用し、近年では自らスペシャル・ショップも経営する「ピンク・フロイド」のニック・メイスン卿。また、エリック・クラプトン卿もワンオフ・プログラム車「SP12EC」をオーダーするほどに熱心なフェラリスタとして知られている。
今回は英国シルバーストーン・オークション社が、英国フェラーリ・オーナーズ・クラブとのコラボレーションのもと開催したワンメイクオークション「The Sale of Ferraris in Association with Ferrari Owners’ Club of Great Britain」に出品された1台を紹介しよう。
かのエルトン・ジョン卿がかつて所有していたという、1972年型フェラーリ「365GTB/4デイトナ」である。
●FRフェラーリの定型を規定した名作中の名作
1968年のパリ・サロンで世界初公開されたフェラーリ365GTB/4デイトナは、V12エンジン+FR駆動レイアウトという、1947年の創立以来綿々と受け継がれてきた古典的ベルリネッタとしては、まさに究極的な1台。その評価はもはや絶対的なもので、今やデイトナは世界中のエンスージャストが憧れてやまないコレクターズアイテムとなっている。
鋼管スペースフレームのシャシに、ダブルウィッシュボーンによる4輪独立懸架。そしてV12エンジンをフロントに置き、変速機/クラッチはディファレンシャルと一体化してリアに置くトランスアクスルのレイアウトなどは、先代モデルの「275GTB」を踏襲していたが、驚くべきことにこの基本レイアウトは、フレームがアルミ製となった以外は「812スーパーファスト」など現行のFRフェラーリでも健在である。
パワーユニットは、純レーシングカー「365P2」などで既に実績のあった、1気筒あたり約365cc/4.4リッターの新ブロックに、新たにバンクあたりDOHCのヘッドを組み合わせた新設計のエンジンを採用。このV型12気筒4カムユニットは352psものパワーを発揮し、1200kgを自称する(現実は遥かに重い)デイトナに、280km/hという最高速をマークさせるに至った。
そしてデイトナのもう一方の魅力、一点の破綻さえも感じさせないエレガントなラインとダイナミックな美しさを見せるボディには、1950年代からカロッツェリア・ピニンファリーナが数多くの習作とともにテスト&エラーを続けていた空力研究の成果がディテール各部に見られる。また、インテリアも負けずに魅力的で、特にシート表皮は「デイトナ・スタイル」と呼ばれ、フェラーリ最新モデルでも特注ながらオーダーが可能である。
ちなみに、現在ではフェラーリ自らも名乗っている有名なペットネーム「デイトナ」は、このクルマのプロトタイプが発表された1967年の北米デイトナ24時間レースにおいて、フェラーリのスポーツ・プロトタイプ「330P4」と「412P」が、上位1-2-3位を独占した歴史的な名場面「デイトナ・フィニッシュ」から、自然発生的に呼ばれるようになったものとされている。
■エルトン・ジョンの元愛車に下されたジャッジとは
シルバーストーン・オークション「The Sale of Ferraris in Association with Ferrari Owners’ Club of Great Britain」に出品された元エルトン・ジョンの365GTB/4デイトナは、右ハンドルで製作されたわずか158台の英国仕様の1台とされている。
●ヒストリーは申し分のないのだが
かつてはフェラーリのセミワークスチームを所有し、ル・マンなどのスポーツカーレースでも活躍した伝説的なフェラーリ・ディーラー「マラネッロ・コンセッショネアーズ」を介して、1972年8月3日に新車として最初のデリバリーがなされた。
新車として製作された時から、現在と同じ「ロッソ・キアーロ(明るい赤)」のボディカラーにネロ(黒)のレザーインテリア、グレーのカーペットの組み合わせだったことは、近年になって取得した「フェラーリ・クラシケ」の公式ファイル「レッドブック」によって確認が可能である。また、エンジンとギアボックスがマッチングナンバーであることも、レッドブック内のヒストリーに記されている。
そして、このデイトナにとってもっとも重要なヒストリー、エルトン・ジョン卿が所有していた件については、1973年から1975年までの間、この個体を所有していたことを証明する公式記録に加え、当時サリー州ウェントワースに在住していたというエルトン・ジョン卿の旧住所までデータベースに記されており、その文書のコピーを含むふたつの詳細なヒストリーファイルも車両に添付される。
このふたつのファイルには、このデイトナが新車としてオーダーされた際の発注書から、最新のメンテナンス請求書までの履歴もすべて残されているという。
さらに、1977年までさかのぼる英国の車検証のコピー。歴代のオーナーと、マラネッロ・コンセッショネアーズ社の間でおこなわれた通信の記録。これまでの登録ドキュメントや、1972年から現在に至る定期的なメンテナンスの請求書。そして長年にわたる各パートのレストア記録なども、詳細に記されているとのことである。
現時点において、このデイトナのコンディションは非常に良好で、フェラーリ・クラシケのレッドブックは、エンジンやシャシ、ギアボックスの製造ナンバーがメーカーによるオリジナルのビルドデータと一致していること、シャシはボディとともに正統なオリジナリティを保っていることも保証している。
オークショネア側の自己申告ながら、ボディパネル間のギャップ(チリ)は非常に良い状態に見えるとともに、「ロッソ・キアーロ」の塗装も深い光沢を保持しているとのこと。レオナルド・フィオラヴァンティ時代のピニンファリーナによるデザインと、スカリエッティによるコーチワークが見事に再現されているという。
一方インテリアは、2017年に新車時のカラーとマテリアルを維持してレストアされたが、4年の時を経た現在ではレザーの風合いも少し落ち着いたかに見える。
今回のオークション出品に際して、前述したフェラーリ・クラシケのレッドブックにヒストリーファイルのほか、貴重なオリジナルのフェラーリ365GTB/4ブックセットなども添付して販売されるとのことであった。
シルバーストーン・オークション社では、歴史的価値にも優れたこのデイトナを手に入れることについて「真の伝説の所有権を取るチャンス」とアピールするとともに、44万-50万英ポンド、日本円換算で約6744万-約7664万円というエスティメート(推定落札価格)を設定した。
このエスティメートは、昨今の365GTB/4デイトナの国際マーケットにおける落札事例を考慮すると、プレクシグラスでカバーされたヘッドライトの初期型と比べて安価になりがちなリトラクタブル式ヘッドライトの後期型としては、なかなかの強気ともいえる。
もちろん、コンディションの良さや「フェラーリ・クラシケ」取得済であることがアドバンテージとなっているのは間違いないものの、やはりそれ以上に大きいのは「元エルトン・ジョンの愛車」というヒストリーであることは間違いあるまい。
ところがシルバーストーン・オークション社の意気込みとは裏腹に、競売ではリザーヴ(最低落札価格)に届かず、残念ながら「No Sale(流札)」に終わってしまった。
たとえ最上のヒストリーを誇る名車であっても、オークションは「水物」であることを如実に示す結果となったようである。
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みんなのコメント
ロックのイメージは無いけどね。
掛けるのが大変。またフェラーリはフロントエンジンの方が伝統的に直進安定性がいい。
またリトラクタブルの後期型よりもプレキシガラスの前期型の方がオーナーの話では明るいという。
この頃のフェラーリはディノなどもハンドルが少し上向き。素晴らしい造作の車。