現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 日産「稼働率100%」は達成できるのか? 自動車工場の「数字のトリック」──販売台数・サプライチェーンの変動が隠す“本当の生産能力”とは

ここから本文です

日産「稼働率100%」は達成できるのか? 自動車工場の「数字のトリック」──販売台数・サプライチェーンの変動が隠す“本当の生産能力”とは

掲載 9
日産「稼働率100%」は達成できるのか? 自動車工場の「数字のトリック」──販売台数・サプライチェーンの変動が隠す“本当の生産能力”とは

再建策が問う工場の効率

 日産自動車が発表した経営再建計画「Re:Nissan」に注目が集まっている。計画では、中国を除く工場の稼働率を、2024年度の70%から2027年度までに100%へ引き上げる方針だ。稼働率が低い工場では、今後、閉鎖や人員削減といった対応も想定される。

【画像】IQ高い人が選ぶ「自動車メーカー」が判明! 衝撃のランキング発表! 日本メーカーは何位?

 そもそも、自動車工場における。稼働率とは何を意味するのか。その指標が示す本質は、十分に理解されているだろうか。

 本稿では、稼働率の定義や計算方法、関連する指標を解説する。あわせて、数字の背後にある多面的な意味についても掘り下げていく。

基本定義と算出方法

 稼働率とは、工場の生産能力に対する実際の稼働割合を示す指標である。その計算式は次のとおりだ。

「稼働率(%)= 実際の生産台数 ÷ 生産能力台数 × 100」

例えば、年間20万台の生産能力を持つ工場で、実際に16万台を生産した場合、稼働率は80%となる。

「稼働率(80%)= 16万台 ÷ 20万台 × 100」

 ただし、ここで注意すべき点がある。生産能力という言葉には、統一された定量的な定義が存在しない。

 自動車業界の品質マネジメント規格「IATF16949」では、生産能力を「Run@Rate(ラン・アット・レート)」と定義している。これは、量産を想定した条件下で、一定時間内に連続稼働させた際の生産数量を指す。しかし、各社で

・1日の稼働時間
・月間の稼働日数
・勤務シフト体制

は異なる。加えて、生産台数は需給バランスによって変動する。したがって、稼働率や生産能力の数字を並べて比較しても、それだけで企業間の優劣を判断するのは適切ではない。

稼働率に表れる供給網の脆さ

 稼働率は、設備の稼働状況や経営効率を測るうえで重要な指標である。とりわけ、販売台数の減少は稼働率を押し下げる直接的な要因となる。

 例えば、世界的に進行する電気自動車(EV)市場の減速は、その典型である。販売が鈍化すれば市場在庫が増え、生産は抑制される。その結果、稼働率は需給ギャップを鋭敏に反映する。

 また、製品ラインナップが市場の需要と合致しているかどうかも重要な要因である。ハイブリッド車の需要が世界的に高まれば、それに応じて稼働率も上昇する。仮に需要が生産能力を上回れば、稼働率の低い工場も稼働させることで、全体の生産能力を引き上げることが可能になる。

 さらに、部品供給や生産工程の制約も稼働率に影響を与える。サプライチェーンにおける火災や材料不足などが発生すれば、納期が遅れ、生産は即座に調整を迫られる。その結果、稼働率は低下する。

 このように、稼働率はさまざまな制約要因に左右される指標であり、生産現場を取り巻く状況を如実に映し出す性格を持つ。

地方工場閉鎖の連鎖反応

 稼働率の向上は生産性改善に直結する。そのためメーカー各社は多様な合理化策を実施している。ただし、稼働率には物理的な限界が存在する。

 仮に稼働率が100%に達しても、ライン内には無駄が残ることが多い。その無駄がバッファーとなり、稼働率を見かけ上押し上げている場合もある。

 一方で、稼働率が一定水準を下回ると固定費の回収が難しくなる。採算割れによる赤字リスクが高まるためだ。生産回復が見込めなければ、生産縮小や操業停止を検討せざるを得ない。設備投資の負担が重い場合は、工場閉鎖の判断も避けられない。

 稼働率低下による工場閉鎖は、企業の損益にとどまらず、雇用問題を通じて地域経済にも影響を及ぼす。特に地方の工場は地域経済の核であり、人員再配置や労働力移動は地域に大きな衝撃を与える。

 稼働率を高める手段の一つに生産能力の見直しがある。過剰設備の整理は固定費削減につながる。しかし生産能力の縮小は生産台数減少を招き、成長戦略の障害となる。この関係は稼働率向上と成長性のトレードオフである。

 地政学リスク回避のため、複数拠点での生産体制を採る企業も多い。リスクは分散されるが、拠点ごとに一定水準の稼働率維持が課題となる。全体最適を念頭に置いた生産効率のバランス調整が求められる。

 また、新技術導入による生産性向上も継続課題だ。ロボット自動化や無人化は稼働率を大きく押し上げる。IT活用によるスマート工場化もライン効率化に有効な解決策である。

自然災害が招く稼働率急落リスク

 稼働率は、生産現場の稼働状況を示す指標である。しかし、その背後には単なる数字では捉えきれない構造的な課題が潜んでいる。

 稼働率が相対的に低下する傾向を見せた場合、市場環境の変化を示す兆候と捉えることができる。販売不振が直接的な要因となるケースもある。競争力の低下が需要の減退を招き、それが稼働率の下落につながる構図だ。

 グローバルなサプライチェーンでは、変動要因が常に存在する。地震や台風などの自然災害が発生すれば、操業は一時停止を余儀なくされ、部品供給も滞る。その影響で稼働率が急落するケースも少なくない。

 消費者の嗜好変化にも注意が必要だ。変化の振れ幅が大きければ、製品戦略に大きな修正が必要となり、結果として生産体制の維持が困難になる可能性がある。

 メーカーには、地元雇用への影響を踏まえ、一定水準以上の稼働率を維持し、さらなる改善を図る責任がある。特に自動車メーカーは、サプライヤーを含む関連企業への波及効果も視野に入れなければならない。工場の閉鎖や縮小が雇用喪失を招けば、地域経済の縮小という深刻なリスクを引き起こす。

 長期的には、産業構造そのものの再編が求められる局面もある。一部の自治体では、自動車産業への依存から脱却を目指し、構造転換や新規産業の誘致に取り組んでいる。こうした取り組みの成果が見えるまでには時間を要するが、その間の雇用対策や再教育プログラムの整備は喫緊の課題である。

脱炭素政策と構造転換

 工場閉鎖による生産体制の縮小に合理性はあるのか。リスク評価の観点では、固定費を回収できる最低限の生産量を維持し、雇用を守る選択肢も存在する。しかし実際には、稼働率が上がらず経営が立ち行かなくなった工場をどう維持するかは、非常に難しい意思決定をともなう問題だ。今後、自動車メーカーは稼働率に依存するだけでなく、総合的な視点から生産体制の再構築を進める必要がある。

 また、政府の役割も一層重要になる。補助金や減税といった直接的な支援だけでなく、脱炭素に向けた技術開発支援やインフラ整備など、企業の構造転換を後押しする政策が求められる。その一方で、企業は投資回収や競争力維持のための選択肢も整理しなければならない。稼働率は単なる指標ではない。その裏には

・需要動向
・製品戦略
・技術革新
・人員配置
・地域経済
・サプライチェーン

など多様な要因が複雑に絡み合っている。

 また、稼働率の動向は自動車産業の変容を示す重要なシグナルである。稼働率の低下を単なる業績悪化の兆候と捉えるだけでなく、自動車産業再編の予兆とみる視点が必要だ。一方で、稼働率の向上も単なる生産性向上にとどまらず、産業構造全体の適応と変革を示すものと考えられる。

 100年に一度の大変革期にある自動車産業は、今まさに分岐点にある。このなかで、稼働率が何を語り、何を覆い隠しているのかを多角的に見極めることが、変革期における意思決定に極めて重要だ。私たちは今後も稼働率の動向に注視し続けなければならない。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油7円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

日産が「村山工場」を捨てた根本理由――ゴーン氏だけの影響じゃない! グローバル化の波に消えた企業城下町、追浜・湘南閉鎖から考える
日産が「村山工場」を捨てた根本理由――ゴーン氏だけの影響じゃない! グローバル化の波に消えた企業城下町、追浜・湘南閉鎖から考える
Merkmal
独裁者VSサラリーマン社長――自動車会社に「民主主義」は必要か? トヨタと日産の「決定速度」が分けた明暗、海外Z世代52%が「強リーダー」を望む時代とは
独裁者VSサラリーマン社長――自動車会社に「民主主義」は必要か? トヨタと日産の「決定速度」が分けた明暗、海外Z世代52%が「強リーダー」を望む時代とは
Merkmal
トラックはなぜ“無料で待たされる”のか? 「物流タダ働き」の限界が浮き彫りにした時間搾取、荷主の「待たせ得」を考える
トラックはなぜ“無料で待たされる”のか? 「物流タダ働き」の限界が浮き彫りにした時間搾取、荷主の「待たせ得」を考える
Merkmal
日本企業はなぜ米国依存を脱却できないのか? 「トランプ関税」で揺れる自動車輸出5.8兆円、海外拒否する国民性の代償
日本企業はなぜ米国依存を脱却できないのか? 「トランプ関税」で揺れる自動車輸出5.8兆円、海外拒否する国民性の代償
Merkmal
「買ってはいけない新車」4つの特徴──元ディーラーがこっそり教える“在庫優先”の罠、なぜ多くの消費者は見誤るのか?
「買ってはいけない新車」4つの特徴──元ディーラーがこっそり教える“在庫優先”の罠、なぜ多くの消費者は見誤るのか?
Merkmal
なぜEVは「日本で嫌われる」のか? 充電インフラ・航続距離だけじゃない「アンチ」の根深さ! 語られない不安の正体とは
なぜEVは「日本で嫌われる」のか? 充電インフラ・航続距離だけじゃない「アンチ」の根深さ! 語られない不安の正体とは
Merkmal
新型リーフは「BYD」に勝てるのか? 累計70万台の重みと600km超の性能――それでも揺らぐ“再建の突破口”の本質
新型リーフは「BYD」に勝てるのか? 累計70万台の重みと600km超の性能――それでも揺らぐ“再建の突破口”の本質
Merkmal
マツダの挑戦! 柔軟性と効率を両立する「ものづくり革新」 防府工場から見えたものとは
マツダの挑戦! 柔軟性と効率を両立する「ものづくり革新」 防府工場から見えたものとは
くるまのニュース
ランクルもびっくり!? 最近「軽トラック」もパクられまくる根本理由
ランクルもびっくり!? 最近「軽トラック」もパクられまくる根本理由
Merkmal
石破総理! コメ不足対策もいいけど、高すぎる「自動車税」を何とかしてくれ!
石破総理! コメ不足対策もいいけど、高すぎる「自動車税」を何とかしてくれ!
Merkmal
自動車の「脱出用ハンマー」が標準装備されない根本理由――水没時で命を救えるのに、なぜ?
自動車の「脱出用ハンマー」が標準装備されない根本理由――水没時で命を救えるのに、なぜ?
Merkmal
率直に問う 電動キックボードは「原付扱い」に戻すべき?――違反2.5万件が暴く都市の秩序崩壊危機
率直に問う 電動キックボードは「原付扱い」に戻すべき?――違反2.5万件が暴く都市の秩序崩壊危機
Merkmal
タクシー業界に「ベトナム旋風」は巻き起こるか? 「外国人は地理が弱い」「接客マナーが合わない」は時代遅れ? 10年で運転手4割減の現実を考える
タクシー業界に「ベトナム旋風」は巻き起こるか? 「外国人は地理が弱い」「接客マナーが合わない」は時代遅れ? 10年で運転手4割減の現実を考える
Merkmal
「自動車のタイヤ」って、洗う意味あるの? JAF出動45万件が示す「見えない劣化」の恐怖とは
「自動車のタイヤ」って、洗う意味あるの? JAF出動45万件が示す「見えない劣化」の恐怖とは
Merkmal
【累計販売台数70万台】大量生産型EVのパイオニアがプライドをかけて挑む!日産リーフが満を持して7年ぶりのフルチェン
【累計販売台数70万台】大量生産型EVのパイオニアがプライドをかけて挑む!日産リーフが満を持して7年ぶりのフルチェン
AUTOCAR JAPAN
ベテラン運転手は「個人タクシー」に転向すべき? 年収750万円も現実? 自由とリスクの分岐点、ライドシェア時代で考える
ベテラン運転手は「個人タクシー」に転向すべき? 年収750万円も現実? 自由とリスクの分岐点、ライドシェア時代で考える
Merkmal
自転車用「電動改造キット」急増? 設置わずか60秒で時速32km──天使か悪魔か? 事故リスクの現実を考える
自転車用「電動改造キット」急増? 設置わずか60秒で時速32km──天使か悪魔か? 事故リスクの現実を考える
Merkmal
JR陸羽西線は「実質廃線」なのか? 営業係数「3297円」の衝撃、バス代行「2025年度まで延長」という現実を考える
JR陸羽西線は「実質廃線」なのか? 営業係数「3297円」の衝撃、バス代行「2025年度まで延長」という現実を考える
Merkmal

みんなのコメント

9件
  • hia********
    なるほどだけど、、
    この記事の見出しで、、
    この記事読もうと感じた人は、
    この記事の内容、
    表現方法は別にしても、
    読まなくても、理解されているのでは、、、
    御最も!と、いうだけで、
    長文の割に読んで、
    良かったとか新しい視点が見つかった。感は全くなかった。
  • yox********
    うちは設備を動いてる間は「稼働率100%」ですけどね。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村