■ザ・スミスの解散が若者に衝撃を与えた
1982年結成、4枚のアルバムを発表し1987年に解散。イギリス・マンチェスター出身のバンド、ザ・スミスは約35年を経た今でも世界中で愛される伝説的存在です。映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』は、そんなザ・スミスの楽曲がふんだんに使用された青春ドラマ。非スミス者にとっては「?」な売り文句ですが、長年のファンにとっては楽曲の使用許可が下りたというだけでちょっとした事件でしょう。
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ザ・スミスのヴォーカリストだったモリッシーは、歯に衣着せぬ発言で知られる偏屈者。バンド時代に多くの楽曲を手掛け、在籍時から他アーティストとも精力的に創作活動を続けている名ギタリスト、ジョニー・マーの脱退(その後の解散)も、彼との確執が原因と言われています。もちろん20代前半にして成功してしまったことも理由のひとつと思われますが、近年取り沙汰された(政治・宗教・人種的な)問題発言の数々は、モリッシーの迷走ぶりを端的に物語っていると言えるでしょう。
つまり、そんな面倒くさい人物が楽曲使用をOKしたのですから、監督のスティーブン・キジャックは、それだけで大手柄と言えるかもしれません。しかも、ザ・スミスが解散した1987年の一夜を描く本作は、当時まことしやかに囁かれていた「ファンによるラジオ局の乗っ取り事件」が題材。何かと派手でマッチョなハードロックが主流だった80年代後半、オルタナ前夜のアメリカで、イギリスから聴こえてきたモリッシーの内省的な歌詞とマーの繊細なギターに救われていた若者たちが突然の解散に嘆き悲しみ、「ザ・スミスの曲を流せ」とDJに銃を突きつけたというのです。
ことの真偽はともかく、本作のタイトルにもなった“世界の万引き犯たちよ、団結して乗っ取ろう♪”と歌われる「Shoplifters of the World Unite」をはじめ、ここ日本でもバンド名に引用された「There Is A Light That Never Goes Out」や「This Charming Man」などなど、思わず口ずさみたくなる名曲たちが、荒唐無稽とも言える青春物語を彩ります。キジャック監督は『ストーンズ・イン・エグザイル 「メイン・ストリートのならず者」の真実』(2010年)や、『スコット・ウォーカー 30世紀の男』(2019年)などの音楽ドキュメンタリーで評価の高い監督ですが、本作に通底しているのは彼の熱烈なスミス愛です。
ちなみに、銃を突きつけられる不運なヘヴィメタルDJを演じているのは、『マジック・マイク』シリーズ(2012、2015年)でマッチョなボディを披露していたジョー・マンガニエロ。今回はやや意外なキャスティングですが、アーノルド・シュワルツェネッガーと共演した麻薬カルテル絡みの傭兵クライム・サスペンス『サボタージュ』(2014年)では、チョッパー仕様のハーレーダビッドソン・ファットボーイに乗るイカツい姿を見ることができます。
ファンならばセリフに散りばめられた歌詞の引用探しも楽しめますし、未聴でもザ・スミスが世界の若者に与えた影響の大きさを知ることができる『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』は、2021年12月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほか全国ロードショーです。
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