アンフィニMS-6とともに語り継がれる、マツダ5チャンネルの大いなる遺産。
国産5ドアハッチバックを語る上で、避けては通れない崇高な1台!
「どうせ不人気なら“頂点”を極めるべし!」忘れ去られた感満点の5ドアハッチバック、テルスターTX5【ManiaxCars】
初代と2代目はカペラの兄弟車、3代目はクロノスファミリーの一員として登場したテルスター。そもそもテルスター自体の存在感が薄いもんだから、不人気の5ドアハッチバックモデルTX5に至っては、「そんなのあったっけ?」と思われても仕方なく、即座にそのカタチを頭に思い浮かべられる人は極めて少ないはずだ。
あるいは「アンフィニMS-6のバッジ違いだけど…」と聞いたところで、大半のクルマ好きは肝心のMS-6が連想できないだろうから、それがヒントにすらなってないという手痛い事態に直面することになる。
3代目テルスターTX5は1991年10月に登場した。グレード構成はシンプルで、1.8LV6のK8-ZE型(140ps/15.0kgm)を載せる18Viと、2LV6のKF-ZE型(160ps/18.3kgm)を搭載する20Viの二本立て。いずれも駆動方式はFFで、ミッションは4速ATと5速MTが用意された。
取材車両はKF-ZEを搭載する20Viの4速AT車。エンジン回転数に応じて吸気管の長さを4段階に変化させる可変共鳴過給システム(VRIS)を搭載し、主に3000~6000rpmの領域でトルク特性を改善させている。
もちろん、新車当時は気にも留めたことがないクルマだ。おそらく対向車としてスレ違ったとか、無意識のうちに目にしてたことは確実にあったと思うのだけど、注視したことは一度もなかったから、実車を前にしてマジマジと見るのは今回が初めてになる。
まるでヤル気の感じられないフロントマスクがクロノスファミリーであることを訴えかけてくる外装は、バブルマツダ車に共通する曲面基調のヌメッとしたデザイン。ルーフからハイデッキなリヤエンドにかけての滑らかなラインが5ドアハッチバックであることを主張する。
リヤ周りの造形は複雑かつ手間がかかってるもので、LEDハイマウントストップランプ内蔵のスポイラーがハッチゲートと一体成型され、左右はそのままリヤフェンダーにつながるなど立体感を強調。さらに、全面ガーニッシュで覆われたリヤパネルや横一文字のアウトレットダクトを持つバンパーなど有機的なまとまりを見せる。
それは、ただ線を増やしただけで個性的なデザインだと言い張る、今時のクルマとは明らかに異なるアプローチだ。結果、販売面では惨敗したTX5だが、“魂は細部に宿る”という言葉通り、ディテールをつぶさに見るほど、クルマに込められた開発者たちの思いがビシビシ伝わってくる。
そんなスタイリングの好き嫌いはあるにしろ、開口部が大きいリヤハッチゲートを持つTX5は、4ドアセダンのテルスターよりはるかに積載能力が高く実用的。
ラゲッジルームは左右リヤサスペンションの張り出し部が大きめだけど、高さ方向に余裕があるため4ドアセダンのテルスターをしのぐ容量を誇る。使い勝手も同様で、後席の背もたれを倒せば積載性はさらにアップだ。絶対的な容量ではステーションワゴンに負けるけど、実際そこまで荷物を積み重ねることなんてないんだから、日常ユースで不満など出るはずもない。
ダッシュボードはメータークラスターから助手席側Aピラーまでのアッパー部と、その下のロワ部の2分割構造とされ、一体成型では難しいデザインを実現している。ステアリングのセンターパッドにはフォードの青いエンブレムが。メーターはスピードを中心として、左に8000rpmフルスケールのタコメーターが、右に水温計と燃料計が配置される。
20Viはフルオートエアコンが標準装備。センター吹き出し口のルーバーが左右に動くスイング機能も搭載する。オーディオはAM/FMチューナー付きカセットデッキ+6スピーカーが標準だけど、取材車両はメーカーオプションのCDデッキも装備。その下はプッシュオープン式でシガーライターと灰皿が現れる。
テルスターまで含めると6つのグレードで3種類が用意されてたシート。20Viはホールド性を高めたスポーティタイプで、運転席には前後スライドと座面の前後高さを別々に調整できる3ウェイパワーシートが採用される。
後席はヘッドレスト一体型ハイバックシートでセンターアームレストを備える他、60:40分割可倒式となる。
標準は14インチスチールホイール+フルキャップだが、取材車両は14インチアルミホイールを装着。これは、熱線プリント式ドアミラーやプレミアムコートインパネ、CDデッキ、電波式キーレスエントリーとのセットオプションが装着されたGパッケージとなる。タイヤは標準と同じ195/65R14サイズのエコスを履く。
運転席は思いの他ポジションが低く、足を前に投げ出すスポーティな姿勢を取らされる。もう何度も乗ったKF-ZE型エンジンは、過不足ない低中速トルクを稼ぎつつ中回転域から気持ち良くパワーを高め、7000rpmから始まるレッドゾーンまでシャープに吹け上がる。
30年近くも前に設計されたエンジンだから燃費や環境性能はそれなりだが、動力性能とフィーリングに関しては2.0LのNAとして今でも十分に通用するということを改めて実感した。そして「マツダK型シリーズは名機だ!!」と声を大にして言いたい。
乗り味は基本しっとり系だけど4輪の接地性が高く、コーナリング中は適度なロールを伴いながら路面をしっかりとつかみ続ける。とりわけ、抜群の安定感を見せてくれたのは高速巡航時だ。今回は東京を起点に往復300kmを走り、そのうち8割が高速道路っていう状況だったんだけど、速度域が上がるにつれてクルマがビタッと路面に張り付くような感覚。とくにリヤが安定していて、それは明らかに4ドアセダンのテルスターを上回っていた。
その理由として考えられるのは、リヤ周りだけで見た場合、たとえ剛性面では不利だとしても、リヤ軸重がテルスターよりも大きく、しかもフロントとの剛性バランスに優れているからじゃないか?ってこと。さらに突っ込めば、そんな5ドアハッチバックボディのTX5に合わせて、もしかしたら足回りのセッティングもテルスターから変えてるのでは? ということも考えられる。
マツダの開発者に聞いたわけでないし、詳細な資料を見たわけでもない。でも、乗れば分かるテルスターとの走りの違い。なにせ資金も潤沢なバブル期に開発されたクルマだ。TX5とテルスターで細かい部分の作りやセッティングが変えられてたとしても、不思議なことは何もない。
おそらく多くのクルマ好きの記憶から消え、例え存在が認識されていても色モノとして捉えられがちな1台。5チャンネル化でマツダが拡大路線を突き進むという不遇な時代に登場したことで命運が決まったと思うが、ハッキリ言っておきたい。テルスターTX5は、もっと高く評価されるべきクルマだったのだ、と。
■SPECIFICATIONS
車両型式:GEEPF
全長×全幅×全高:4670×1770×1390mm
ホイールベース:2610mm
トレッド:FR1500mm
車両重量:1250kg
エンジン型式:KF-ZE
エンジン形式:V6DOHC
ボア×ストローク:φ78.0×69.6mm
排気量:1995cc 圧縮比:10.0:1
最高出力:160ps/6500rpm
最大トルク:18.3kgm/5500rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式:FRストラット
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR195/65R14
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:SKT 東京都あきる野市横沢欠ノ上43-1 TEL:042-519-9826
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みんなのコメント
しかし2代目アテンザが最後でしたね。
どのモデルもセダンより美しいモノでした。
マツダが傾いた要因の一つ、成仏してね