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埼京線十条駅前にそびえる「明るい廃墟」 なぜ開業1年で“テナント半数空室”なのか? 哲学なき再開発が招いた虚しさと喪失

掲載 更新 58
埼京線十条駅前にそびえる「明るい廃墟」 なぜ開業1年で“テナント半数空室”なのか? 哲学なき再開発が招いた虚しさと喪失

39階高層マンション億ション市場参入

 東京都北区十条には、「東京三大銀座」のひとつとして知られる十条銀座がある。砂町や戸越と並び、賑わいを見せるアーケード街だ。昭和30年代の風情が色濃く残るレトロな街並みは、今もなお多くの人々を惹きつけている。

【画像】「えぇぇぇぇ!」これが「明るい廃墟」です! 画像で見る(5枚)

 惣菜屋には作りたての揚げ物が並び、和菓子屋では手作りのあんこが自慢だ。これらの店舗は多くのメディアにも取り上げられている。商店街の衰退が叫ばれて久しいなか、買い物客が絶えない希少な存在である。

 かつて十条には、西口側に十条西口商店街があった。こちらも下町情緒あふれる商店街として親しまれていたが、駅前の再開発にともない2020年から順次建物が解体され、姿を消した。

 その跡地には2024年、39階建ての高層マンション「ザ・タワー十条」が完成した。間取りは2LDKから4LDK、住戸面積は58平方メートルから92平方メートル。販売価格は8050万円から1億5890万円のいわゆる「億ション」として、不動産業界で大きな話題となった。

 この高層マンションの下層階と隣接する別棟には、マンション住民以外も利用可能な施設が整備されている。1階と2階にある商業施設「J&Mall(ジェイトモール)」には、高級スーパーの「クィーンズ伊勢丹」や飲食店「サーティワン」「松屋」、コンビニ2店舗(セブンイレブンとファミリーマート)、美容室などが入居している。

 3階から4階は、書籍閲覧コーナーや3Dプリンターの製作スペース、音楽やダンススタジオとして使える多目的ルームを備えた文化施設「ジェクトエル」だ。さらに、北区の税務署も入居している。これにより、十条地区の行政サービスの拠点としての役割も果たしているといえる。

反対運動を乗り越えた市街地再開発

 ジェイトモールを含むこの一帯は、十条駅西口地区の第一種市街地再開発事業の一環として整備されたものである。

 もともと十条駅西口周辺は、十条西口商店街や木造住宅が密集し、十条銀座と同様にレトロな雰囲気が色濃く残る街だった。

 しかし駅前にもかかわらず、道路幅は狭く車両や歩行者の通行に危険をともなっていた。消防車などの緊急車両の進入も困難で、防災面で課題を抱えていた。このため、道路拡幅や駐車場整備を進め、駅前広場の交通アクセスの円滑化と歩行者の安全確保を目的に再開発が進行した。

 2007(平成19)年に再開発準備組合が設立されたが、住民の反対運動に直面しつつも土地収用が進められた。

 設立から10年後の2017年、東京都知事の許可を得て十条駅西口地区市街地再開発組合が設立され、既存建物の解体が始まった。その後、2021年に再開発ビルの着工が行われ、2024年に竣工を迎えた。

27区画に15店舗の実態

 しかし期待されたジェイトモールは、都心の商業施設とは思えないほど閑散としている。

 筆者(宮田直太郎、フリーライター)が2025年5月に訪れた際、1階の案内図には27区画のテナントがあるはずだったが、実際に入居していたのは15店舗ほどにとどまっていた。駅の反対側の道路沿いは全く店舗が入っておらず、開業から1年も経たないのに早くも寂れた印象を与えている。

 2階はさらに状況が悪い。12区画のうち、入居しているのは核店舗の高級スーパー「クィーンズ伊勢丹」を含めて5テナントだけで、そのうちひとつは準備中の状態だ。区画によっては真新しい床と壁だけが広がり、中身が何もない空間もある。

 本当に2024年に竣工した施設かと疑いたくなる光景である。実際、筆者の訪問時には「何もないな」と話す声も聞かれ、住民の間では早くも

「明るい廃墟」

と揶揄される雰囲気が感じられた。

案内図不備で迷う来訪者

 原因としては周辺より高い賃料が大きく影響している可能性が高い。例えば、1階の医療系店舗の募集坪単価は2万5000円から3万円程度だ。一方、周辺の十条銀座では坪単価1万4000円程度の物件も存在する。建物の新しさを考慮しても、明らかに周辺より割高である。このため、かつて十条西口商店街にあった店舗も、固定費を恐れて入居を躊躇するだろう。

 また、この建物は導線が非常にわかりにくい。2025年5月24日に筆者が訪れた際は、建物の案内図にクイーンズ伊勢丹しか記載がなく、他テナントの位置が全くわからなかった。スマホの地図アプリでもどの位置にあるか把握できない。さらに、モールの公式ホームページも存在しない。目的の店舗を見つけるには、来訪者が自力で探すしかない状況である。

 素人目ながら気になるのは、1階テナントの入りにくさだ。一般的に商業施設の1階は、化粧品店や食料品店、カフェなど気軽に立ち寄れる店が多い。しかしジェイトモールの1階に入居するのは、

・コンビニ(ファミリーマート、セブンイレブン)
・飲食店(サーティワン、松屋、バーガーキング、インド料理店「ベンティカ」)
・不動産会社
・買取専門店
・クリニック
・クリーニング店

などだ。コンビニを除けば、ふらっと立ち寄りにくい店が多い。ここにカフェや食品スーパーがあれば、マンション住民以外の利用も増えた可能性が高い。

 また、食料品売場が2階にある点も一般的なスーパーとは異なる構造だ。イオンやイトーヨーカ堂などの総合スーパーを利用する人には、わかりづらい配置といえる。実際、「クィーンズ伊勢丹」は2階の存在を強調する看板を掲げていた。このことから、スーパーが2階にある構造への違和感が浮き彫りになっている。

 建物の構造にも疑問が残る。建物は外部に開放された部分があり、雨の日には入口まで雨水が入り込む可能性がある。アーケード街の十条銀座に比べて快適性は劣るだろう。外部に開いている部分は、エアコンが効かない場所があることも意味する。そのため夏は暑く、冬は寒い環境になりやすい。複数店舗を回遊して楽しむには適していない施設だといわざるを得ない。

北区防災再開発の矛盾点

 十条のジェイトモールは開業間もないが、テナントの空きが目立ち、悲惨と呼んでも差し支えない。

 再開発自体は防災対策として不可欠な課題である。北区の駅前は古い木造建築が多く、火災リスクが高い。道幅も狭く、消防車の進入が難しいケースも少なくない。首都圏直下地震の危険性を考慮すれば、再開発は急務だ。

 しかし、防災目的の再開発とはいえ、開業1年未満でテナント半数近くが空きの現状を見ると、その意義に疑問を抱く声があっても不思議ではない。

 現在、東京では隣接する赤羽、立石、大山など古い商店街や歓楽街の再開発が進んでいる。古い街並みが消えることは寂しいが、地震対策を考えればやむを得ない部分もある。

 ただ、新たに建設される施設がジェイトモールのようにテナント集積や来客回遊が難しい構造ならば、厳しい意見を述べるべきだろう。

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みんなのコメント

58件
  • mar********
    十条にタワマン必要だった?マツコの意見に賛成ですね。
  • アノマロカリス
    ネイティブ十条民はクィーンズ伊勢丹には行かないだろう
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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