アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)は、2025年シーズンのF1で際立ったサプライズのひとつとなった。パドックではメルセデスのアンドレア・キミ・アントネッリと並んで、この若きフランス人ドライバーを最も印象的なルーキーと呼ぶ声も多い。
私はエミリア・ロマーニャGPの週末、そんなハジャーに密着して彼の素顔を追った。
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他のルーキーたちがスポットライトを浴びるのを尻目に、彼はファンファーレもなくひっそりとやってきた。ハジャーはジュニアカテゴリーのチャンピオンを獲得することなくフルタイムのF1ドライバーとなったからだ。
「若いドライバーにとって最も重要なのは、印象づけることだ。タイトルを獲ることはできても、人々に感動を与えなければ、目標を達成することは難しいんだ」
そう語ったハジャー。20歳でF1入りを果たし、彼を信じる人々に新たなメッセージを送った。「自分は投資する価値がある」と示したことだ。
■すべてを変えたヘルムート・マルコとの出会い
2021年モナコGPのサポートレースとして開催されたフォーミュラ・リージョナルのレースでポールポジション獲得、そして勝利を飾ったハジャーはレース後、当時のマネージャーとともに週末用に借りた小さなアパートに戻った。
「僕たちが部屋に入ったとき、トレーナーから電話があったんだ。『ヘルムート・マルコが会いたいと言っている』ってね。僕は昼寝をしていたところだったから、彼に切るように言ったんだ。ジョークだと思ったからね。でも、彼はしつこく言い続けたので、僕はそれが本気だと気づいた。『OK、いつ?』って聞いたら、彼は『今だ!』って言ったんだ」
タクシーが見つからず、彼らはマルコがいるホテルまで走っていったのだという。
「僕たちは汗びっしょりになって到着した。ヘルムートはロビーに立っていた。僕たちが椅子に座ると、とてもシンプルだった。彼は僕を見て、『契約書を送るよ。それだけだ』。そのときは奇妙に感じたが、後になって理解した」
■ファエンツァからF1のグリッドへ
ハジャーは現在、イタリアのファエンツァに住んでいる。昨冬に加わったレーシングブルズのファクトリーの近くだ。
「(レッドブルの拠点がある)ミルトンキーンズより好きだけど、実際には家で過ごす時間はほとんどないね。(開幕戦)メルボルンに向けて家を出て、イモラの直前まで戻ってこれなかった。レースからレースへと転戦し、数日空いた日があれば、たいていミルトンキーンズのシミュレータで過ごすんだ」
ハジャーは他人の話を聞く時、きちんと集中しているが、自分の話をするときは視線はどこかへ逸れてしまう。ただ最後の一言でまた視線が戻って来る。
F1ドライバーとして初めてのヨーロッパでのレースウィークエンドとなったエミリア・ロマーニャGPに備える彼に、緊張の色はなかった。彼の住むファエンツァのアパートはイモラからわずか15km。リュックサックに丁寧に荷物を詰め込み、すべての荷物がきちんと揃っているか2度確認する。準備が整うと、彼は周囲を促し「行こうか?」と声をかけた。
■ハジャーのルーツ
■ハジャーのルーツ
彼の父親であるヤシーヌは量子物理学者であり、母親のランダは上場企業の人事部長。息子のキャリア管理もサポートしている。
「僕の家族はアルジェリア出身だ。19歳でフランスにわたり、努力の末にすべてを築き上げた」
ヤシーヌはその分野で尊敬を集めており、ハジャーのヘルメットの背面には、彼へのオマージュとして数式が記されている。
「僕が5歳の時、彼は僕をレンタルカートに乗せてくれた。2年後、彼は僕をパリ郊外のコースに通わせた。やがてインストラクターが父に言ったんだ。『君の息子は優秀だ。カートを買ってレースをさせるべきだ』って」
「何かをやりたいと思ったら、それにコミットするんだ。でも優秀でなければいけないことは分かっていた。そうじゃなければ、僕の夢となったものをサポートしてはくれないだろう」
当時、カート場にメカニック代わりの父ヤシーヌと通っていたハジャー。彼が結果を出すにつれ、家族ぐるみで取り組むことになったのだという。
「彼はメカニックをするのは嫌いだが、僕のためにメカニックになってくれた。週末はサーキットに通い、長距離ドライブもした」
「そして僕が結果を出し始めると、物事はより深刻になり、母が介入したんだ」
母ランダは、彼女の持つ強力なプロフェッショナル・ネットワークによって、息子がシングルシーターに移行するための予算を捻出する手助けをした。
■地に足をつけたハジャーの考え方
木曜日のメディアデーよりも、はるかに早くハジャーのレース週末はスタートしている。火曜日にはシミュレータでの作業、水曜日にはファエンツァでチームメイトのリアム・ローソンとチームミーティングを行なった。そして木曜日、パドックではランダが常に一歩後ろをついて回った。
インタビューの合間に彼は携帯電話をチェックする。ソーシャルメディアではなく、サッカーのクリップやMMAのハイライト、ジュニアカテゴリーの予選セッションなどを。彼はサッカーチームのパリ・サンジェルマンのファンであり、MotoGPライダーのファビオ・クアルタラロの親しい友人であり、多くのスポーツの熱心な追っかけでもある。F1ドライバーとなった今、彼の夢のいくつかは実現しつつあるが、彼はしっかりと地に足をつけている。
「これはまさに僕が夢見ていたことなんだ。ただひとつ違うのは、夢にはあまりエキサイティングでない部分、たとえば果てしない旅は含まれないということだ」
「若い頃父がよく言っていたのは、退屈な日々を楽しめ、ということだった。僕は『何を言っているんだ? 僕はレースをしたり、サッカーをしたり、友達と遊んだりしたいんだ』と思っていた。でも今はわかるよ。家で静かに過ごす日々が恋しいんだ。スケジュールは容赦ない。先週は体調を崩して、すっかり疲れ切ってしまった」
「でもクルマに乗っているとき、特に予選は最高だ。コンマ1秒が大事だし、信じられないような瞬間なんだ。僕はふたつの人生を歩みたいを願っている。好きな人たちと一緒にいる人生と、レースだけをする人生。でも、その両方を手に入れることはできないことは分かっているんだ」
■F1昇格の電話はなかった!?
■繰り返しは嫌い!
レース週末の金曜日は比較的メディア露出が少ない。しかし、土曜日はパドッククラブへの訪問から始まる。ハジャーは、いつものようにメディア・マネジャーのアンドレア・サヴェリに付き添われ、ヘッドホンをつけてパドックを横切りながらホスピタリティを後にした。
「フレンチラップを聴くことが多いけど、気分次第かな」
ハジャーは一見、落ち着きがないように見えるが、彼と一緒に過ごせば、その動きがセルフコントロールシステムの一部であり、ドライビングであれ技術的なブリーフィングであれ、集中し、スイッチを入れるための彼の方法だということがすぐに分かる。
「技術的な面がどれだけ重要か分かっているんだ」
予選に向けてガレージに向かう時、彼はそう語った。
「最初は簡単じゃなかったけど、今は仕事のそうした側面を楽しんでいるよ。自分にはまだまだ伸びしろがある」
「頭を使うようにしている。父は量子物理学者で、生涯勉強を続けてきた。彼の能力の一部を受け継いでいることを願っている。サーキットにいるとき、僕はただマシンをプッシュしているのではなく、エンジニアたちが頼りにしている重要なセンサーなんだ」
ハジャーが苦手としていることがひとつある。それは”反復”だ。
「僕はそれが嫌いなんだ! 同じことを200回もやらされたら、頭が真っ白になる。新しいチャレンジが好きなんだ」
しかし彼はF1の1年目で、長期的なキャリアのための強固な基礎を築きつつある。
エミリア・ロマーニャGPの予選後、彼は9番手という結果にフラストレーションを隠さなかった。
「5番手になれたのに……」
■F1昇格の電話はなかった
ほんの数ヵ月前まで、ハジャーにF1シートはなかった。しかし今はすべてが急速に動いている。
「(F1参戦を)信じていたかって? 常にね! そうでなければレースを続けていなかった。僕はいつも信じていた。最悪の瞬間でさえもね」
そもそも、ハジャーは2025年のF1参戦を公式に告げられたことはなかったという。
「F1ドライバーになるという連絡はなかった。ヘルムートはいいニュースを伝えるのが好きじゃないんだ」
「『おはようアイザック。来年はF1だね』なんて誰も言わなかった。そんなことはなかったんだ。でも、明確にその感覚はあったよ」
「昨シーズンが終わって、ミルトンキーンズでシミュレータセッションをやっていた時に、『明日はファエンツァに行くんだ』とだけ言われたよ。なぜかと聞いたら、『心配するな、また明日』と言われた。今となっては笑い話だけど、当時はドキドキしっぱなしだった」
イモラでのレースは思い通りにいかず、セーフティカーのタイミングが悪かったために6番手から9位に落ちたが、ハジャーのパドックでの株は上がり続けている。
「ジュニアカテゴリーについて僕が言ったことは、今でも変わらない。常に勝てるクルマがあるとは限らないけど、印象的なモノ、良いパフォーマンスを見せるチャンスは常にあると思う。僕はいつもそれを頼りにしてきた」
「時がきたら、重要なことはただひとつ。勝つことだ。それもたくさんね」
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みんなのコメント
F1参戦5年目でもパッとしない角田と互角だった程度だし。
本当に速いドライバーは最初からとんでもなく速い。
19歳でチームメイトを圧倒し時にはミナルディでベネトンを食ったアロンソ、そしてそのアロンソより速かったハミルトン、スポット参戦で絶好調チェザリスを退け、その後チャンピオンピケを圧倒したシューマッハみたいにね。