アルピーヌからWEC世界耐久選手権のハイパーカークラスに参戦しているフレデリック・マコウィッキは先週末、ベルギーで開催された『第78回トタルエナジーズ・スパ24時間』に、シューマッハーCLRTのドライバーとして参戦し、ともにポルシェワークスドライバーであるマット・キャンベル、アヤハンカン・ギュベンとともに22号車ポルシェ911 GT3 Rエボをシェアした。
ヨーロッパを襲った熱波の影響でスパらしからぬ高温のレースウイークとなるなか、久々に古巣ポルシェのGT3カーをドライブしたマコウィッキに、911 GT3 Rの特徴や自身が幾度も挑んできた欧州3大24時間レースについて聞いた。
最後尾でも「勝てると信じていた」終盤の戦略と好ペースが光ったライオンスピードが初参戦でスパ24時間制覇
■ポルシェの強みと弱点
⎯⎯ル・マン24時間レースから2週間が経ちましたが、ル・マンの後に休息の時間を設けることができましたか?
フレデリック・マコウィッキ(FM)「例年のル・マンならレース後には本当に疲労困憊なんだけれど、今年はそこまで厳しい身体のコンディションではなかったのが幸いで、ル・マンの後は短い時間だったけれど、家族との時間を過ごしてリフレッシュできたよ。自宅近辺も猛暑で大変だったけどね」
「チームには万全のコンディションで臨むことを約束していたから、スパ24時間のためにしっかりと準備を整えてきた」
⎯⎯長らく所属していたポルシェを離れて数年経ちますが、久々にあなたがポルシェをドライブしてレースに参戦することに喜ぶファンも多いですね。
FM「正直に言うと、事前にテストができなかったため、車両に対するさまざまな操作方法や対応がすぐに思い出せるか少し不安だったんだ。でもチームが素晴らしいクルマに仕上げてくれたおかげで、テストなしでも乗り込んですぐに感覚を思い出して、快適にドライブすることができたよ」
「そして、いままでのキャリアの中でポルシェは一番長くドライブして、一番熟知している。改めてドライブして一番のお気に入りのGT3マシンだということをすぐに悟ったよ」
⎯⎯あなたはポルシェのことを隅々まで知り尽くしていますが、スパ・フランコルシャンでポルシェを運転する際の強みと弱みは何ですか?
FM「ポルシェはより大きな窓を備えたクルマにするために本当に一生懸命努力したと思う。例えば、ポルシェは涼しい気温時にはよりポテンシャルを発揮しやすいが、今回のスパ24時間のような非常に高い気温のレースには向いていないと思う」
「シャシーはかなり頑丈で、メルセデスと並んでもっとも安定したGT3マシンの一台だと思っている。ブレーキ性能も優れており、かなり遅いタイミングでブレーキングできるため、トラフィックが多い時にも有利だ」
「唯一ポルシェに関して物足りない点を挙げるとすれば、ポルシェはつねにフラット6(水平対向6気筒)エンジンを採用し続けていたため、トルクがやや不足していると感じるときがある。しかし、全体的に見れば、このパッケージは非常に強力で優れていることを証明している」(編注:ポルシェは2026年のスパ24時間で6年ぶりの総合優勝を果たした)
■車内温度は65℃にも
⎯⎯大熱波の影響で、スパもかなりの高気温の中で開催されています。路面温度は50℃を超えていますが、タイヤマネジメントはどうされていますか?
FM「スパではこれほど暑くなることはまれで、一般的にここでは気温が低いことが多い。このレースウィークは珍しく夜の気温も高いのだが、日中よりは随分と過ごしやすい。そういった意味でも昼夜の気温差が大きいので、タイヤの使い方を考慮する必要があるんだ。だからこそ、あらゆるコンディションに順応できるマシンの存在も不可欠となる」
「その点に関して言えばチームはタイヤを最適な温度帯に調整する方法を非常によく理解していると思う。これはとくにレースの序盤と終盤、つまり勝負の分かれ目となる時間帯において重要な要素となるに違いない、重要なポイントでもあるんだ」
「タイヤの摩耗を気にせず、30周弱のフルスティントを大きな問題なく走り切れるかどうかという点が非常に重要になり、これは大きな挑戦になるが、この点に関しては恐らくポルシェがもっともスムーズに走り切れるクルマではないかと考えている」
⎯⎯WEC世界耐久選手権のハイパーカーはスリックタイヤに複数のコンパウンドが用意されていますが、スパ24時間ではどんな気温/路面温度であろうが1種類のスリックタイヤしかありません。
FM「SROのシリーズではピレリのワンメイク制なのだが、そのフィーリングはかなり独特だと感じる。僕はキャリアの大半をミシュランで走ってきたので、ピレリに履き替えるたびにドライビングを少し覚え直す必要があるんだ」
「なぜなら、ピレリとミシュランの特性にまったく共通点がなく、これまでミシュランで運転していた感覚では許容されないんだ」
「しかし、ピレリのエンデュランス用のタイヤは非常に優れており、非常に頑丈で安定しているということは間違いない。多少加速に敏感なところがあるが、ワンメイクの耐久用タイヤとしては、ピレリは非常によく考えて作っていると言えるだろう」
⎯⎯この猛暑のなかで各チームやドライバーの中でエアコン論争がありますが、ポルシェにはエアコンは標準装備されているのでしょうか?
FM「幸運にもポルシェにはエアコンが標準装備されているよ。しかし、エアコンを装着していないマシンもあるし、また、ポテンシャルの低下(出力ダウン)を懸念してエアコンのスイッチをオンにしないドライバーもいる」
「IGTCインターコンチネンタルGTチャレンジやGTワールドチャレンジ・ヨーロッパなど、SROモータースポーツ・グループのレースでは、ル・マンやWECといったACOフランス西部自動車クラブのレース規定のようにコクピットの最高温度が定められているわけではないので、その点は助かるよ」
「僕の親友であり、アルピーヌのチームメイトのジュール・グーノンともさっきその話になって、彼がエアコンなしでメルセデスAMG GT3をドライブしていた際に熱中症になった時には、運転中のコクピットの温度は50℃を超えることもあるし、セーフティカー(SC)やフルコースイエロー(FCY)などでレースの流れが停滞すると車内温度が65℃まで上がってしまい、かなり大変だと言っていた」
「一方、ポルシェはエアコンをフル稼働させると、寒すぎるくらいだ。正直に言ってその点では非常にラッキーだよ。フル稼働させれば車内は25~30℃くらいになると思う。とても快適さ! 吸気口が大きいから風量もかなり強く、空気は本当に冷たいので熱中症の心配がなくて安心だ。だからクールベストも着ない。理想を言えばヘルメットブロワーがあればさらに完璧だけど、そこまで贅沢は言わないよ」
■忍耐がカギとなるスパと、リスクが隣り合わせのニュル
⎯⎯ところで、あなたはハイパーカーだけではなく、GTドライバーとしてもトップランクに入るドライバーで、スパ、ル・マン、ニュルブルクリンクでの24時間レースに何度も出場されています。あなたにとってのそれぞれの魅力と難しさについてお聞かせください。
FM「本当にこの3つの24時間レースはまったく異なったレースなんだ。スパは同じカテゴリのクルマが、毎年70台前後が同時にスタートするのだけど、そんなレースはスパ以外にないだろう? また、例えすべての車両がGT3カーであっても、アマチュアドライバーの中には非常に遅いドライバーもいたりする。そして、彼らの運転の特徴はブレーキングのタイミングが非常に遅い。そんな彼らを追い越すのは時として難しいんだ」
「だからこそ運転しやすいパッケージが必要なのだが、運転しやすいパッケージには追い抜くための充分なトップスピードが不可欠だ。だが、スパはその点で非常に厳しい」
「スパの場合、レースをやや楽にしてくれるのはSCが先行して集団をまとめてくれることが多いということ。そのため、レース序盤は忍耐強くチャンスが訪れるのを待たなければならない。過度にストレスを感じないように忍耐強く、すべて万全のコンディションに保ちながら、後の重要なプッシュをする時に備えておくことが大切なんだ。夜が明けたからといって安堵していられない。さらに深刻な状況が待ち受ける可能性があるので、結果を出すためにはしっかりと仕事をこなし続けなければならない」
「ニュルブルクリンクは難しい。ある意味、この3つの24時間レースの中ではもっとも難しいコースだと言えるのではないだろうか。スパも非常に激しいが、ニュルブルクリンクでは路面状況やコーナーごとに起こりうるさまざまな状況が予測できない。トラフィックや低速走行のマシンも考慮する必要がある。本当に非常に厳しいコースだ」
「ただひとつ言えるのは、ニュルブルクリンクでは良いマシンに乗っていて、コード60などの低速ゾーンのシステムをうまく利用できれば、明らかに有利になれると思う。ただひとつ問題なのは、たとえ95%の力で走っていても何かが起こる可能性があるので、クラッシュするリスクが非常に高いことだ。だからこそニュルでは非常に高いリスクを負いながらレースをすることになるのだが、それを攻略できればニュルの王者になれる可能性を秘めている」
「僕は何度も挑戦したが、結局勝てなかった。マシンに問題が発生したり、何かが起こったり、クラッシュしてしまったから……。だからこそ、ニュルは特別なんだ」
「プロフェッショナルというだけの面ではなく、恐らくオーラという点、レースという点でもル・マンは世界最大のレースだと思う。スパやニュルもビッグレースではあるが、ある意味、ベルギーとドイツの国内規模のレースだと言えるのではないだろうか」
「一方、ル・マンには世界中からレース観戦に訪れる人々がいる。ル・マンは、スピードを発揮するために本当に努力が必要になるコースだ。そして一般的に直線での速さを追求するとあらゆる面で妥協を強いられ、運転が非常に難しくなる。ル・マンでは純粋に速さが重要で、たとえスローゾーンがあったりSCが出動することがあったとしてもレース中にはせいぜい1~2回程度で、速さがなければ集団に追いつくための要素はほとんどない。だからこそ、純粋なペースが必要になる」
「今のル・マンでは24時間を通じて質の高い時間を過ごし、レースを戦っていると言える。ヨーロッパのこの3つの24時間レースはどれも異なったキャラクターを持ち、準備の仕方もそれぞれ違う。だからこそ挑戦のし甲斐もあると思っているよ」
⎯⎯あなたにとってこの3つのレースでどれが一番お気に入りですか?
FM「フランス人としては当然、ル・マン以外には考えられないよ。ずっと夢見てきたレースだから!」
「1993年、まだ若手だった頃にル・マン24時間レースをはじめて観に行ったのだけど、『いつか自分もここを走れる機会が訪れればどんなに素晴らしいことだろう』と思った。その日からずっと夢見てきたし、目標にしてきたんだ」
「過去にはニュルブルクリンクで優勝するチャンスが訪れたけれど結局叶わなかった。スパでは2位に入賞することができたから素晴らしかったと思うけれど、この3つの24時間レースをすべて制することは本当に難しいし、ほぼ不可能ではないかと思っているよ」
[オートスポーツweb 2026年07月04日]
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みんなのコメント
それはさておき、プロ・アマ(ジェントルマンドライバー)混在とはいえ、同カテゴリーの車だけなら、まだこなしやすいよね。