現在位置: carview! > ニュース > スポーツ > 今季限りでGT500活動休止のミシュラン。その背景とスーパーGTに突きつけられた大きな課題

ここから本文です

今季限りでGT500活動休止のミシュラン。その背景とスーパーGTに突きつけられた大きな課題

掲載 10
今季限りでGT500活動休止のミシュラン。その背景とスーパーGTに突きつけられた大きな課題

 スーパーGT第2戦の富士戦が終わった直後、2023年限りでのスーパーGT500クラスの活動休止を発表したミシュラン。あまりに突然の発表、そしてニスモの2台がランキングトップ2に並んで好調に見えていただけに、その発表はスーパーGTファンだけでなく、国内モータースポーツ界に大きな衝撃となった。発表リリースで詳細は明らかにされていなかった休止の背景を、ミシュランの小田島広明モータースポーツダイレクターに聞いた。

 5月10日にミシュランが発表したリリースでは『ミシュラングループがレースサポート体制を再考する中で決定された』とあり、スーパーGT500クラスへの明確な休止理由の明記がなかったが、スーパーGT第3戦鈴鹿の現場で取材に応えた小田島ダイレクターが細かくその理由を説明した。

スーパーGTに衝撃。ミシュランが2023年限りでのGT500クラスへのタイヤ供給活動休止を発表

「まずはそもそもミシュランのモータースポーツの活動の意義・意味についてですが、ミシュランとして開発したい技術や試してみたいことをモータースポーツという極限の場で実験をして、その技術を別のカテゴリー、そして最終的にはみなさんに買って頂く市販タイヤの技術として転用する形になります。その究極の実験の場がミシュランにとってのモータースポーツです。一般的にモータースポーツというと、ブランドのPRが目的になりますが、ミシュランとして一番大事なのは最先端の技術がどのようになるかを試す場としてモータースポーツを使っています」と、小田島ダイレクター。

 その中で、ミシュランはJTCC(全日本ツーリングカー選手権)、そしてスーパーGTの前身であるJGTC(全日本GT選手権)に参戦し、GT500クラスでは2003年に離れたものの、2009年にHASEMI TOMICA EBBRO GT-Rで復活し、その後ニッサン陣営とタッグを組んで2011年、2012年、2014年、2015年とドライバーズタイトルを獲得し、現在まで参戦を続けてきた。

「GT500は他のタイヤメーカーと同じ土俵で同じ技術対比をした時に、自分たちの立ち位置を測ることができます。自分たちのどういうところが優れているのか、どういう部分が負けているのか。GT500のタイヤ開発は基本的にいくら開発してもいいというレギュレーションに近いですので、走ったタイヤに対して我々のマニュファクチャリングのリカバリーのスピードとか対応力とか、技術的な部分で『いつかはできる』ではなくて、『どうしたらどのくらいのレスポンスで達成できるのか』というものを測っていくのに、GT500はすごく役立っているカテゴリーです」

「しかも、そこに用いる技術が本当に高いレベルのものが必要です。今のGT500のクルマのベースは(DTMと共同の)クラス1規程が元になっていますが、ダウンフォース量も非常に大きくて、GTカーとしては世界一速いと言われていますし、重量換算すると、我々の計算の中では普通のフォーミュラカーよりも速い。私もいつも申し上げていますが、ミシュラン・グループのモータースポーツの中で一番、プライオリティが高いカテゴリーがスーパーGTです。そのフィールドで他社と対比したらどうかという実験の場としては、非常に重要な場ですし、それは今日でもこれからも我々は変わらないと思っています」

 ではなぜ、その重要な場からミシュランは離れる決断をすることになったのか。

「なぜ休止の決定をしたのかというと、我々ミシュランがモータースポーツを実験の場として使うといったところで、他のタイヤメーカーも同じだと思いますが、これから目指していかなければいけない中に、サステナビリティへのアプローチというのが重要になってきます」

「我々ミシュランとしてのロードマップの中に、2030年までに40パーセントの再生可能材料、サステナブル・マテリアル(持続可能な原材料/再生可能原材料)を使ったタイヤをあらゆるプロダクトに入れる。2050年にはそれを100パーセントにする。というロードマップがあります。それに基づいて開発をしていきますし、その開発の実験の場としてモータースポーツも使っていきます。その自分たちが目指すところで見た時に、スーパーGTはその実験の場としては、ミシュラン・グループの方針とは離れてしまう。スーパーGTで得られた知見が他に転用しにくいということになってしまいます。そう考えた時に、他の方向に進まざるを得ないという決定になりました」

■コンペティションから、サステナブル・マテリアルを軸に自らのロードマップを作成

 かつてはコンペティションがないカテゴリーには参戦しないと言われていたミシュランだが、他社との競争よりも、環境を考えた自分たちが目指す方向に舵を向けることになったようだ。今後は、サステナビリティ・マテリアルを導入したタイヤでのモータースポーツに注力することになるという。

「MotoEは40パーセント、ル・マン24時間の水素自動車、ミッションH24に関しては53パーセントの再生可能マテリアルが導入されたタイヤを使用します。ポルシェの新型EV(電気自動車)ポルシェ718ケイマンGT4eパフォーマンスに関しても53パーセントのサステナビリティ・マテリアルが使用されたタイヤでの活動になります」と小田島ダイレクター。

 スーパーGTでは今季よりGT500の持ち込みタイヤのセット数は削減され、レースは5セット、そして来年は4セットで戦うことになる。この削減方向については小田島ダイレクターは理解を示しつつも、「エンデュランス/耐久性の部分では現在のハイパーカーを含めたマルチスティントのタイヤに開発は依存している」とも話す。

 スーパーGTのレース距離は現在は250~450km。タイヤのセット数から1セットあたりの走行距離は100~150kmで実質スプリントレースと言える。一方、WEC、ル・マン24時間では「2~4スティント、距離にしたら500~900km、それよりももっと行きたい。耐久性を試すステージとしてはそういう場がすでに我々にあります。もうひとつ大事なポイントとしては再生可能材料を導入したタイヤでその耐久性を実現していきたいですが、今のスーパーGTには入れられません」と小田島ダイレクター。

 ではスーパーGTでも再生可能材料を入れたタイヤの使用にすればいいのでは、とも思うが、それはコンペティションという前提がある限り、簡単ではなさそうだ。

「GT500に参戦しているタイヤメーカーで(再生可能材料についての)議論はありました。ただ、タイヤ競争の中で、レギュレーションでいかにプルーフ(たしかな証拠)を持って原材料を証明できるかというのは難しい」と小田島ダイレクター。

 たとえ今、GT500のタイヤにサステナブル・マテリアルを入れても、現在のタイヤパフォーマンスにはまだ至らないだけでなく、どんな素材がサステナブルと認められるかの基準が難しいだけでなく、サステナブルの原材料の判断はメーカーによっても異なる状況でもある。

「使っている素材がサステナブルかどうか。『これはいい』『これはダメ』など、素材をすべて明記しなければならない。いつかそういう時代が来るとは思います」と小田島ダイレクターは今後について話すが、少なくとも今のGT500への導入は現実的に難しいことは間違いない。

「個人的には今、スーパーGTでここまでのパートナーシップを構築できていることは、私個人、そしてウチチームとしても大事な財産です。その関係を活動として止めなくてはならない。そして今、非常にいい流れでいるタイミングで止めなければいけないというのは、非常に厳しい決断でした」と、個人的にも苦渋の決断だったことを強調する小田島ダイレクター。

「ただ、我々ミシュランの社員として、目指すものがある。実現していきたいアンビション(野望)がある。それは我々ミシュランのメンバーとして、理解はしています。目先の部分ではこのようないい関係が壊れてしまうのは残念ですけど、いい時もいつかは終わる。我々としては進みたい目標、夢がある。その夢に向かって物語が新しく始まるところですので、それに向かって進んでいくというのは、新しいモチベーションでもあります」と、複雑な心境を語った。

 これまでスーパーGT500クラスは自動車メーカー、そしてタイヤコンペティションが大きな魅力となって隆盛を支えてきてきた。一方、近年のGT500クラスには新規の自動車メーカー、新規のタイヤメーカーの参入が簡単ではなく、高いハードルがあるのも事実ではある。リソースの点から、ミシュランのGT300については「たとえ1台だったとしても、続けます」と小田島ダイレクターは明言したが、ミシュランのGT500クラス活動休止は、これからのGT500、そしてスーパーGTのあり方について一石を投じる、大きな転換点になる。

【キャンペーン】第2・4 金土日はお得に給油!車検月登録でガソリン・軽油5円/L引き!(要マイカー登録)

こんな記事も読まれています

「スゴい事故」発生も…「夏タイヤ履いてるなんて信じられんッ!」 批判の声多数! 夏タイヤで雪道走ると違反? 正しい交換時期の目安とは
「スゴい事故」発生も…「夏タイヤ履いてるなんて信じられんッ!」 批判の声多数! 夏タイヤで雪道走ると違反? 正しい交換時期の目安とは
くるまのニュース
ついにその瞬間がやってきた!!!!! シビックベースの70年代風GTカー[ミツオカM55]が限定100台800万円で販売!!!!! 即売必至か?
ついにその瞬間がやってきた!!!!! シビックベースの70年代風GTカー[ミツオカM55]が限定100台800万円で販売!!!!! 即売必至か?
ベストカーWeb
「富士山登山鉄道」断念、でも代わりは“トラム”なの!?  後継には「電動連節バス」しかない3つの理由
「富士山登山鉄道」断念、でも代わりは“トラム”なの!? 後継には「電動連節バス」しかない3つの理由
Merkmal
入場無料! [レクサスRZ]に[新型アウトランダーPHEV]も!! 千年の都が舞台[京都モビリティ会議]が12月7日(土)にやってくる
入場無料! [レクサスRZ]に[新型アウトランダーPHEV]も!! 千年の都が舞台[京都モビリティ会議]が12月7日(土)にやってくる
ベストカーWeb
FIA F2参戦のロダン、最終戦でFIA F3王者フォルナローリを起用。フォーミュラE参戦のマローニの代役
FIA F2参戦のロダン、最終戦でFIA F3王者フォルナローリを起用。フォーミュラE参戦のマローニの代役
AUTOSPORT web
快適ボックスシートから広々フルフラットへの変更も簡単! トヨタ ハイエースがベースのキャンパー
快適ボックスシートから広々フルフラットへの変更も簡単! トヨタ ハイエースがベースのキャンパー
月刊自家用車WEB
もう[トヨタ]が開発してるだと!!!!!!!!!!! 次期型[GR86/BRZ]は1.6Lターボ+ハイブリッドでほぼ確定か!?  
もう[トヨタ]が開発してるだと!!!!!!!!!!! 次期型[GR86/BRZ]は1.6Lターボ+ハイブリッドでほぼ確定か!?  
ベストカーWeb
トヨタWRC、大荒れのデイ2を好位置で乗り切る。ラトバラ代表は「明日もトリッキーになる」と警戒/ラリージャパン
トヨタWRC、大荒れのデイ2を好位置で乗り切る。ラトバラ代表は「明日もトリッキーになる」と警戒/ラリージャパン
AUTOSPORT web
ARTグランプリ、ホンダのフランス法人とパートナーシップを締結。CR-VとZR-Vが提供される
ARTグランプリ、ホンダのフランス法人とパートナーシップを締結。CR-VとZR-Vが提供される
AUTOSPORT web
優れた燃費が自慢[アコード]!! [レクサスES]と比較した明確な違い
優れた燃費が自慢[アコード]!! [レクサスES]と比較した明確な違い
ベストカーWeb
レッドブル&HRC密着:フロントタイヤへの熱入れを苦手にするRB20。弱点が露呈し初日は2台とも下位に沈む
レッドブル&HRC密着:フロントタイヤへの熱入れを苦手にするRB20。弱点が露呈し初日は2台とも下位に沈む
AUTOSPORT web
タイトルに王手のフェルスタッペンが苦戦、ミディアムで17番手「タイヤが機能せず氷の上を走っているよう」/F1第22戦
タイトルに王手のフェルスタッペンが苦戦、ミディアムで17番手「タイヤが機能せず氷の上を走っているよう」/F1第22戦
AUTOSPORT web
見かけ倒しでもいいじゃん! ルックスと性能が釣り合わないスポーツモデル5選
見かけ倒しでもいいじゃん! ルックスと性能が釣り合わないスポーツモデル5選
ベストカーWeb
2025年WEC暫定エントリーリストが発表。ハイパーカーは2社が撤退もLMGT3と同数の18台が参戦
2025年WEC暫定エントリーリストが発表。ハイパーカーは2社が撤退もLMGT3と同数の18台が参戦
AUTOSPORT web
【角田裕毅F1第22戦展望】昨年の反省をもとにセットアップを2種類用意。FP2で「だいたいの方向性は見つかった」
【角田裕毅F1第22戦展望】昨年の反省をもとにセットアップを2種類用意。FP2で「だいたいの方向性は見つかった」
AUTOSPORT web
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
不要or必要? やっちゃったらおじさん認定!? 「古い」「ダサい」といわれがちな [時代遅れ]な運転法
ベストカーWeb
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
勝田貴元、パンクで後退も挽回「まだ諦められない。ファンの声援が力になる」/ラリージャパン デイ2
AUTOSPORT web
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
いよいよ正式発表!? デザイン一新の[新型フォレスター]登場か! トヨタHV搭載でスバル弱点の燃費は向上なるか
ベストカーWeb

みんなのコメント

10件
  • かつての全日本500ccクラスの衰退を予感させる。
  • 日産がミシュランを採用したのはカルロス・ゴーンの意向があってのこと。これを機にブリジストンにスイッチする日産にとっては渡りに船だろう。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村