この記事をまとめると
■アイシンが立命館大学と「人とモビリティの未来を拓く」というテーマで共同研究をスタート
「ヒール」「サンダル」はもちろん「スニーカー」でもダメ!? 安全を阻害する「運転に適さない靴」ってどういうもの?
■その第一弾イベントとして「地理学の先生から学び、『地域の安全安心マップ』を作る」を開催
■地図データ開発技術と経営学・地理学からから身のまわりの危険を察知し回避していく重要性を伝えようというもの
アイシンと立命館大学のタッグで子どもを危険から守る
トランスミッションをはじめとして、クルマに欠かせない多彩な技術を提供しているグローバルサプライヤーである「アイシン」。そんなアイシンがこのたび、立命館大学とタッグを組み、「人とモビリティの未来を拓く」というテーマを掲げて社会課題の解決を含めた革新的な共同研究をスタートしました。
その共同研究の一環として、「子どもの性被害への対策」に着目した産学官での取り組みとなる第一弾のイベント、「地理学の先生から学び、『地域の安全安心マップ』を作る」が、2023年8月8日に京都市伏見区にある「京都トヨタ GRガレージ京都伏見」を拠点として開催されました。
これは、長年培ってきた地図データ開発などのアイシンの技術と、立命館大学の経営学・地理学からの学術知見をかけあわせて身のまわりの危険を察知し、回避していく重要性を伝えようというもの。安全安心な毎日には、大人が子どもを見守ることに加えて、子ども自身でも不測の事態に備えることが大切です。
では、どのように危険を察知するのか? それを学ぶことができるのがこのイベント。先生たちに加えて、京都府警察、伏見警察署それぞれのおまわりさんからのお話を聞いたあとは、実際に親子で街を探索し、危険な場所や安全な場所を調査。写真に撮って会場に戻り、それを使って「地域の安全安心マップ」の制作を行うというプログラムになっています。
快晴となった当日は小学生の子どもたちと保護者10組30名ほどの参加者が集合し、ワイワイと賑やかな雰囲気でスタートしました。
まずは、立命館大学 歴史都市防災研究所 副所長であり文学部地理学専攻の花岡和聖先生と、熊本大学大学院 人文社会科学研究部の米島万有子先生から、「子どもの性被害を防ぐための地理学的な対策の重要性」というテーマでお話を聞きます。といっても小学生にはちょっと難しいテーマなので、少しわかりやすく「まちの様子から安全安心を読みとく術」というお話をしてくれました。
「日常活動理論」によれば、ふたつのことが重なる場所や時間で、犯罪が起こりやすいと考えられているそう。今回のテーマでいえば、「小学生がいる時間や場所」と「人にみられにくい場所や時間」がそれに相当します。大阪府警が集計した、大阪府内の声かけ事案の時間別発生割合では、午前7~8時の通学時間帯と、午後3~5時の下校時間帯が多いというデータが出ています。その時間帯に、小学生がいるのは学校の近く、公園や児童館、塾などやその近くということが考えられます。
ではそのなかで、人に見られにくい場所はどこかというと、まずまわりに家や人目のない道や遊び場、高い壁や草木で囲まれた場所、暗がりや人目のない場所に駐車されたクルマのなかなど、街のなかの隠れやすい場所。そして、ゴミが散乱していたり、草がボウボウのままだったり、落書きがあるような、住民が無関心な場所も、犯罪が起きやすい場所と考えられます。
また、街のなかで安全安心を知らせるしるしや場所を見つけるポイントも教わりました。たとえば、きれいに掃除され、お店や家など人目がある道、全体を見渡せるような公園、「こども110番の家」のしるしや、「見回り中」など防犯活動をしているしるし。大切なことは、街の様子は天気と同じで、場所や時間によってコロコロ変わるため、安全な場所と危険そうな場所を常に観察し、危険そうな場所や時間には近づかないようにすることです。
子どもたちは、いくつかの街の写真のなかで、あやしい人がどこに隠れているかを当てるクイズに大盛り上がり。高い塀が続く道の切れ目、公園の植え込みの後ろ、薄暗く人通りのない道など、自分たちのまわりに当たり前にある光景でも、こんなに危険が潜んでいるということに驚いている様子が印象的でした。
自分たちの街の安全安心を考え周知していくというアクション
続いて、京都府警察本部生活安全部の宮越史明警部補からは、防犯についてのお話がありました。「あやしい人ってどんな人?」と子どもたちに問いかけると、「サングラスをしている」「全身黒い服を着ている」といった“見た目”での答えが多かったのですが、じつはあやしい人というのは見た目では判断しにくいので、行動で見分けましょうというのがポイント。「あとをついてくる」「両腕を広げた範囲(およそ1.2m)より近くに寄ってくる」「ジロジロ見てくる」といった行動には要注意。
また、最近はあからさまな防犯活動だけでなく、「ながら見守り」を住民の皆さんにお願いしているとのこと。散歩しながら、ジョギングしながら、通勤で駅へ向かいながら、防犯の視点を持って子どもたちを見守ってほしいというお話が印象的でした。
さらに、京都府伏見警察署交通課交通総務係の真柴 瞳巡査部長は、最初に1枚の絵が「何に見える?」というクイズを出題。白と赤の2色が使われたその絵は、子どもたちには砂時計やトロフィー、ベルなどに見えると答えていましたが、それらはすべて赤い部分の形に着目しているもの。じつは、白い部分だけを見てみると、ふたりの顔が向かい合っているように見えるではないですか。
このように、「見るポイントによって、ちがうものに見える」という視点を持ちながら街のなかを見てみると、危険な場所がよくわかるようになってくるということに、子どもたちも興味津々。歩くときには、駐車場の出入り口、曲がり角、路肩に停車しているクルマを避けて歩くときなど、注意するポイントがたくさんあることに気づいた様子でした。
また、「暗いなかでは何色がよく見えるか?」というクイズも出題。黒い服や青い服は見えにくく、白や黄色がよく見えること。そして反射材(リフレクター)をつけることの大切さも教わりました。
さて、こうしたお話で学んだことを踏まえて、今度は実際に街に出て探索をしながら、どんなものがあるのかを調査します。見つけたポイントはどんどんカメラで撮影をして、このあとのマップ作りに使うのです。
猛暑日だったので、当初1時間の予定を30分に短縮しての探索でしたが、それでも5つのチェックポイントを目指して歩き、高い塀が続く細い道や、背の高い植え込みで囲まれて見通しの悪い公園、草ボウボウで手入れされていない場所など、たくさんの危なそうな場所を見つけた子どもたち。「こども110番の家」の看板や、電柱に設置された防犯カメラ、防犯活動の横断幕など、安全な場所を知らせるしるしも見つけていました。
普段、なにげなく歩いている近所の道でも、きっとたくさんのしるしを見つけられるようになったことでしょう。子どもたちのなかには、「ここは工場の入り口だから、トラックがたくさん出入りするよね」といった、危険予測ができるようになっていた子どももいて、やはり視点の持ち方、自分で判断して行動することの大切さを実感しました。
探索を終えて再び会場に戻り、楽しいランチタイムのあとは、いよいよ「地域の安全安心マップ作り」の時間です。主催者が用意した、会場周辺の地図が薄く印刷されている大きな用紙に、色鉛筆やマジック、折り紙やシールなどを使って、自分たちが撮影してきた写真を貼りながら、気づいたポイントをまとめていく作業です。
ここでは、自分が感じたことを、この地図を見る人にどうやったらわかりやすく伝えられるか、という工夫が必要になるので、より実体験を噛み砕いて文章やイラスト、タイトルなどに表現するチカラが問われます。でもその過程を経ることで、今回の学びが単なる頭のなかの知識としてだけでなく、しっかりと子どもたちの身についていくのではないかと感じました。
約90分のマップづくりの時間が終わると、ひとりずつみんなの前に出て、自分の地図の工夫したところ、頑張ったところを発表。花岡先生、米島先生からの講評もいただき、子どもたちの誇らしそうな顔、充実した時間を過ごした満足げな表情が見られました。
じつは立命館大学では、今回のマップづくりに関しては長いノウハウを持っています。安全へのはじめの一歩として、地図作りから地域を知ってもらうことを目的として、年に一度、小学生を対象とした「みんなでつくる 地域の安全安心マップコンテスト」を開催しており、2023年で17回目を迎えるのです。
そして、アイシンは長年の地図データ開発技術を活かして、この安全安心マップをスマホなどのアプリで使えるようにしようと目下開発中。これが実用化されると、地域の住民はもちろん、他所から初めて訪れた人たちにも、みんなで見つけた要注意ポイントがわかりやすくなります。これによって、犯罪や交通事故などの防止に大きな役割を果たしてくれるのではと、期待されています。
こうした、大人と子どもが一緒になって自分ごととして安全安心を考えるところからはじまり、専門家の知見と技術をもって多くの人に役立ててもらえる仕組みにしようという、この取り組み。子どもたちの性被害への対策としても、いままでにない革新的な取り組みであることは間違いありません。こうしたイベントをきっかけとして、自分たちの地域でもあらためて街の安全安心を考え、周知していくというアクションが広がることを願います。
アイシンと立命館大学の共同研究では、今後もこうした取り組みを継続・強化していくとのことなので、これからも注目していきましょう。
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