最終型にも、かつてない強さは失われていなかった。17年間もの長きにわたり、国産高性能スポーツカーの最高峰であり続けた日産GT-R。たゆまない速さの追求だけでなく、トップモデルにふさわしいしつらえも手に入れた最新モデルの試乗を通じて、これまでの軌跡を振り返りつつ走りを再確認した。(文:河村康彦/写真:佐藤正巳 /MotorMagazine2024年11月号より)
いよいよこれが17年間に及ぶ進化の集大成となるのだろうか
2007年末に発売されて以来、実に間もなく17年! デビュー当初には誰もが予想をし得なかったこうした長い期間をさまざまなリファインを繰り返しながら、今なおすべての日本車中のトップパフォーマーの座に君臨するのが日産GT-R(R35型)。その最新バージョンが2024年3月に発表された〝2025年モデル〟である。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
日本国内市場に照準を合わせた歴代スカイラインGT-Rの流れを受け継ぎながら、R35型では当初からグローバル市場での展開を意識して開発。かつては純粋な国内向けとして誕生しながら、現在では世界でその名を轟かせるカリスマ的な人気を得るまでに成長した稀有な存在GT-R。そんなフレーズでアウトラインを紹介しても過言には当たらないはずだ。
そんなR35型だが2025年8月で生産を終えることが明らかに。安全や環境に対する規制強化を筆頭としたクルマを取り巻く状況が刻々と変化を続け、しかし次々と迫りくるそうしたハードルを果敢にクリアしてきたGT-Rにも、いよいよ終焉の時が迫りつつある。
今回乗ったのはプレミアムエディションTスペック。アルカンターラや専用色を多用した内装や高精度のバランス採りが行われたパーツを用いて組み上げられたエンジンなど、さまざまな拘りが心をくすぐる1台である。
センセーショナルな登場以降、常に先端を走り続けたR35
冒頭に記したように、現行GT-Rが発売されたのは2007年の末。しかし、このモデルにはさらに時を遡る〝出典〟が存在したことを、もはや記憶に留めていない人も少なくないかも知れない。
まずは、2001年秋の東京モーターショーで予告なしに発表され話題をさらったGT-Rコンセプトがその第一弾。さらに、2005年の同じく東京モーターショーの舞台にはより生産型に近いGT-Rプロトが出展されて、再び人々を熱狂させた。
2007年秋の東京モーターショーですべてのスペックが判明。上限280psという出力の〝自主規制〟はすでに撤廃されて久しかったが、3.8LL V6ツインターボエンジンが発した最高出力は480psと、当時の日本車としてはまさに規格外。
ショーモデルのプロポーションからフロントフード下にエンジンが置かれると容易に推測できたが、トランスミッションは6速DCTのみでMTは用意せず、しかも重量配分やエアロダイナミクス向上の観点からそれをリアデフと一体化してリアアクスル側に置いたトランスアクスル方式を採用。
さらにトランスファーからフロントへと伸びたカーボン製の〝第二のプロペラシャフト〟でフロントデフへと繋ぎ前輪も駆動する4WDも注目を集めた。
スカイラインGT-R時代から一気に増えた車両重量やサイドウォール補強型のランフラットタイヤの採用は一部で批判の的になったものの、それらは強大なエンジンパワーを余すことなく路面に伝え、それまでの市販モデルではあり得なかったレベルの激しい縦Gに遭遇した場面にまで対応するなど、いずれも意図した結果というコメントが開発陣から聞かれたことも印象に残った事柄。
こうして、まさに何もかもがそれまでの日本車からは規格外だった現行GT-Rの歴史はスタート。そして、以来このモデルがこれほどの長寿になったのも、それまでの日本車の常識には囚われない発売前からの構想が大いに影響することになったことは確かだろう。
一見、変化がわからない24年と25年モデルの違いはどこか
ところで、試乗車の2025年モデルのルックスは、端的に言って、2024年モデルと見分けが付かないもの。実はGT-Rは、「今度こそファイナルモデルなのでは」と巷で噂をされた2024年モデル登場の段階で、かなり大幅な手が加えられていたからだ。
2024年モデルでは、最大のハードルと目された新しい騒音規制への対応を排気系の一新によってクリアすると同時に、誕生以来初となるリアスポイラーのデザイン変更やフロントマスクのイメージチェンジも実施するなど、見た目のリファインにも踏み込んだ。
それは、毎年のようにリファインを重ね進化を続けてきたR35型の歴史の中にあっても、最大級の飛び幅が適用されたビッグマイナーチェンジだったと言って良い。それゆえに、2025年モデルは一部グレードに特別内装色が設定されたことを除けば、2024年モデルとの見た目の違いは皆無。
ただしPremium edition T-spec 、Track editionengineeredby NISMO T-specの2モデルには、GT-R NISMO Special editionに採用していた高精度重量バランスのピストンリング、コンロッド、クランクシャフトなどを用いてレスポンスの精度を向上。さらに、赤文字で匠の名が刻まれたアルミ製ネームプレート、ゴールドのモデルナンバープレートを装備する。
洗練度は明らかにアップ。荒天下では安心感が際立つ
率直なところ、エンジン部分の進化は公道上をちょっと飛ばす程度の乗り方では「明確に実感出来なかった」と言うしかないというのが実情。ただし、いまだ記憶に残るデビュー初期の全般に粗削りな印象からすると、改めて感じるその進化の度合いにはさすがと思わせる部分はやはり少なくない。
まず、加速感にしてもフットワークのテイストにしても、熟成著しいことを感じさせられたのがそのスムーズさ。とくに変速時に「故障をしているのでは?」と感じさせられるほどに顕著だったDCTが発するメカノイズが一切気にならなくなったのは見事。最新のモデルでは文字どおり電光石火でシームレスな変速が一切の金属的なノイズを伴うことなく行われる。
同様に、「大いに熟成が進んだ」と実感させられたのはその乗り味だ。当然のようにサーキット走行を視野に入れ、パンク時の利便性のみならずスピード性能の向上を目的としてのランフラットタイヤ装着もあって、思い切り硬派な走りのテイストにも「これは仕方がないな」と半ば諦めの気持ちを抱くことになったのが誕生初期のモデルのフットワークテイスト。
ところが、2025年モデルでのそれは時に〝しなやか〟という表現を使いたくなるほどに滑らかさが増している。昨今は稀になった油圧式パワーステアリングがもたらす、とくに低速域でまったりと重いフィーリングや現在でも明確にステアリングホイールに伝わるワンダリング現象などに〝寄る年波〟を感じさせられる場面もあるが、それでもこのあたりは記憶に残る初期モデルの印象とは雲泥の差を教えられる部分なのである。
一方で、もちろん発売当初から今へと受け継がれたR35型ならではの〝遺産〟と呼びたくなる美点も数多く存在。最新のモデルでは最高出力570ps/最大トルク637Nmを発するエンジンの、現在でもその強烈さには満足するしかない際立つパワー感。そして、それを無駄なく路面へと伝える圧倒的なトラクション能力も、連綿と続くR35型ならではの見どころであることは間違いない。
さまざまな走りのシーンでさしたる恐怖感もなくリラックス
実は、時に土砂降りに見舞われるといった生憎の悪天候下で行った今回のテストドライブでも、さまざまな走りのシーンでさしたる恐怖感もなくリラックスした走りを提供してくれる点に、改めてR35型が秘めた〝比類なき強さ〟の一端を垣間見せられた気がする。
当の日産ではそんなR35型に次ぐGT-Rについては何の公式コメントも出していない。しかし、ようやく出来上がりつつあった『GT-R』というモデルのストーリー性をさらに高めるためには、そのヒストリーをこれで終わらせるわけにいかないのは当然の事柄。
R35型の終焉を間近にして次期〝R36型〟誕生への思いは、いよいよ馳せるばかりなのである。
【日産GT-Rプレミアムエディション Tスペック主要諸元】
●Engine
型式:VR38DETT
種類:V6DOHCツインターボ
総排気量:3799cc
ボア×ストローク:95.5×88.4mm
圧縮比:9.0
最高出力:419kW(570ps)/6800rpm
最大トルク:637Nm(65.0kgm)/3300-5800rpm
燃料・タンク容量:プレミアム・74L
WLTCモード燃費:7.8km/L
CO2排出量:298g/km
●Dimension&Weight
全長×全幅×全高:4710×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
トレッド前/後:1600/1600mm
車両重量:1760kg
最小回転半径:5.7m
乗車定員:4人
●Chassis
駆動方式:4WD
トランスミッション:6速DCT
変速比 1/2/3/4:4.056/2.301/1.595/1.248 5/6/R:1.001/0.796/3.383
最終減速比:3.700
ステアリング形式:ラック&ピニオン
サスペンション形式 前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク
ブレーキ前/後:Vディスク/ディスク
タイヤサイズ前/後:255/40RF20/285/35RF20
●Price
車両価格:20,350,000円
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