SUVだけじゃない! 軽トラもリフトアップする時代
SUVの流行と共に注目度が高まっているリフトアップ系のカスタマイズ。ジムニー、デリカ、ランクル&プラドなどのクロカン四駆はもちろん、ハスラーやロッキー/ライズ、C-HRといったシティ派SUVでリフトアップを楽しむユーザーも増えてきた。そして軽トラの世界でも、ここ数年で「アゲ」の文化が確立された感がある。
キャリイかハイゼットか? 燃費からカスタムまで7番勝負で軽トラ王座を決める!
軽トラといえば「働くクルマ」だが、だからこそリフトアップとは相性がいい。段差や不整地などに弱くなるローダウンと違い、走行に支障が出るケースは少ないからだ。むしろ、車高アップのメリットが仕事の場で生きてくることもある。兵庫県の軽トラカスタムショップ・但東自動車の岩出代表はこう語る。
「当店に来られるお客様は、カスタムを楽しみたい方だけでなく、『仕事で使うためにリフトアップして欲しい』という方も沢山おられます。具体的には狩猟関係が多いですね。山深く入って行くにはノーマル車高では難しい。そこで3~5センチくらいリフトアップし、大きめのタイヤを履かせることで走破性能を高めるわけです」。
もちろんスタイリング重視でリフトアップするのも良し。アウトドア系のカスタムでは、車高&タイヤ外径のアップは定番のメニューだ。こうした「アゲトラ」にはデメリットもある(後述)のだが、その辺を飲み込めるならカスタマイズの可能性はグッと広がる。「趣味クルマとして軽トラのリフトアップ仕様を作りたい」「仕事で毎日のように乗る軽トラだからイジってみたい」と思える人は、検討してみてはいかがだろうか。
30ミリの「ちょいアゲ」なら比較的お手軽にやれる
現行の軽トラはスズキ・キャリイ、ダイハツ・ハイゼット、ホンダ・アクティの3種類。今回はカスタムベースとして人気の高いDA16TキャリイとS500Pハイゼットに絞って話を進める。なお、ミツビシ・ミニキャブトラック、マツダ・スクラムトラック、ニッサン・NT100クリッパーはキャリイのOEM、スバル・サンバートラック、トヨタ・ピクシストラックはハイゼットのOEMなので、それぞれ同一車として考えてもらいたい。
リフトアップの方法だが、どれくらい上げるかによってやり方が変わる。初心者にもオススメなのが、約30ミリアップの「ちょいアゲ」。比較的低コストで済み、構造・記載変更といった手続きも不要なのがメリット。
ちょいアゲのやり方は、
(1)フロントは少し長め&硬めのスプリングに交換(2)リアはホーシングとリーフスプリングの間にブロックを挟み込むというのが王道。
前後のショックアブソーバー、リアのリーフスプリング、ブレーキホースなどは純正をそのまま流用する。参考までに但東自動車で用意しているS500P系ハイゼット用の30ミリリフトアップキットの場合、価格は税別3万9000円。これに作業工賃を含めると約7万円のコストで取り付けられる。
またフロントについては、「ストラットにスペーサーを追加する」「ロングストローク仕様の車高調に交換する」というやり方もあり。後者はコストが少し高くつくが、乗り心地を追求したり、車高を微調整したい人にオススメだ。
2インチ(約5センチ)以上のアゲは上級者向け
30ミリでは物足りないという人は、2~4インチ(約5~10センチ)アップに挑むのもいいだろう。ただし、リフトアップするためのパーツが増え、取り付けにも専門的な技術が必要になる。よってコストは総じて高くなるし、構造変更も必須だ。
やり方は、(1)フロントはスペーサー追加orロング仕様の車高調に交換(2)リアはブロック+ショックにスペーサーを使用が主流。リアのショックはロングストローク仕様に交換するケースもある。
これだけ見るとちょいアゲとあまり変わりないように思えるが、2インチ以上のリフトアップになると、ドライブシャフトやプロペラシャフトに大きく角度が付き、不具合が発生する(“ペラ鳴き”と呼ばれる症状)。そこでエンジンやミッションなどの位置を調整する必要が出てくる。これを「メンバーダウン」といい、具体的には腹下の各部にスペーサーやブロックを挟み込んで対応する。
さらにプロペラシャフトの長さも不足するため、延長ブラケットで補ったり、リアのブロックの形状を工夫してデフの角度を調整するといった対策もいる。ステアリングシャフトも延長しないといけないし、フロントはキャンバー角も狂うので要補正と、なかなか大変。
参考コストは工賃込みで12万円~。リフトアップ量が大きいほどパーツ代も掛かるので高くつく。フロントは車高調に交換、リアのショックも交換となると、20万円は軽く超えてくるだろう。
メリットだけでなくデメリットも把握しておく
クルマのカスタムは大抵そうだが、大なり小なりのデメリットが伴う。特に仕事用として使っている場合は、その辺をきっちり調べておくべきだろう。そして「自分にはちょっと厳しいな」と思ったらやめておいた方がいい。リフトアップにあたり、考えられる主なメリットとデメリットは以下の通り。
【メリット】◆ボディがひと回り大きく見える◆遠くまで見通しが良くなる◆大径タイヤが履きやすくなる◆不整地での走破性能が向上する
【デメリット】◆駆動系へ負担が増し、消耗が早くなる◆重心が上がることで安定性が低下◆大径タイヤ装着で加速や最高速度が落ちる◆空気抵抗や重量の増加により燃費が悪化◆乗り降りや荷物の積み下ろしがやりにくくなる◆直前直左対策が必要になることも◆構造変更が必要になることも
ご覧の通り、メリットよりもデメリットの方が多い。特に気になるのがパワーや燃費、車検に関することだろう。これらはどれくらい車高を上げるのか、どんなタイヤを履くのかで変わるが、基本的に派手にイジるほどデメリットは大きくなる。そういう意味では、初心者はちょいアゲから入るのが無難。
アゲトラって乗り心地いいの? 悪いの?
乗り心地がどんなものか説明するのは正直難しい。リフトアップ量、上げ方、キットの内容や品質、履かせるタイヤ&ホイール、セッティング方法、荷台の積載量など、さまざまな要因で大きく変わってくるからだ。たくさん上げたから乗り心地が良くなる/悪くなるともいえない。
参考までに筆者の感覚でいわせていただくと、ちょいアゲでタイヤもホイールも換えないのであれば、乗り心地は純正とさほど変わらない印象。またフロントは車高調、リアはブロック+ロングショックで2インチアップしたデモカーに乗せてもらったことがあるが、空荷でもあまり硬さを感じず、突き上げも少なく、純正より快適だった記憶がある。
しかし重心が高くなる分、カーブでは多少フラつきやすくなったり、タイヤもMT系のゴツゴツしたモノであればロードノイズや突き上げ感も出てくる。その辺りをどう解消していくか、または妥協していくのかは、取り付けショップとオーナー次第だろう。特に2インチ以上のリフトアップの場合、商品のクオリティとショップのノウハウは非常に重要になる。
「たとえ同じ商品でも、取り付け方によって乗り心地が良くも悪くもなる。最悪の場合はサスペンションの破損や事故に繋がるケースすらあります。リフトアップキットは通販でも買えたりしますが、取り付けは信頼できるショップで行っていただきたいです」と但東自動車の岩出さん。
アゲトラにまつわるこんな注意点もアリ
【構造変更について】 40ミリを超えるリフトアップの場合、基本的に構造変更が必要になる。正確には「指定外部品」を使ってリフトアップする場合なのだが、ブロックやスペーサーは指定外部品。軽トラの構造上、リアを上げるにはブロックを使うのがほぼ必須なため、リフトアップ量が41ミリ以上であれば要構造変更となる。「増しリーフ」という純正に追加するタイプのリーフスプリングを使って上げる手もあるが、それも40ミリを超えると構造変更が必要(リーフスプリングも指定外部品)だし、そもそもそこまで車高を上げられるモノではない。
【キャリイは大きなタイヤを履きにくい】 純正よりも大きなタイヤや、ゴツゴツしたオフロードタイヤを履くとスタイリングが決まり、最低地上高を稼げるから走破性能も上がる。そもそもリフトアップは、大径タイヤを履くためにやるという面が大きい。が、DA16Tキャリイに関してはフロントのタイヤハウスが狭いため、車高を上げてもそれほど大きなタイヤは履けず、チョイアゲではワンサイズアップすら難しい。
参考までに具体的な「履ける限界サイズ(※物理的に装着できるかどうかで、保安基準等は考慮せず)」の目安を紹介すると以下の通り。正直キャリイは不利だ。
【DA16Tキャリイの場合】・30ミリアップ…145R12(外径542ミリ)※純正サイズ・2インチアップ…145R13(外径568ミリ)※要インナー加工・4インチアップ…165/80R14(外径619ミリ)※要インナー加工
【S500Pハイゼットの場合】・30ミリアップ…165/60R15(外径579ミリ)・2インチアップ…165R14(外径626ミリ)・4インチアップ…195R14(外径675ミリ)※要オバフェン装着
【車検時に気を付けるべきこと】◆直前直左対策ができているか近ごろのリフトアップ車で最も厳しくチェックされる部分。車高にもよるが、前方視界はドラレコ等のモニター付きカメラで、直左視界は補助的なアンダーミラーで確保するなど、対策が必要になるケースが多い。
◆光軸が正しく調整されているかリフトアップ車に限らず、光軸チェックもかなり厳しい。基本、リフトアップすると光軸も狂うため、車検に関わらずキット装着後は必ず調整しておきたい。
◆タイヤの種類やはみ出しなどかつて軽トラといえばLTタイヤ(貨物用タイヤ)でないと問答無用で車検NGだったが、今は規制が緩和され、耐荷重をクリアできれば乗用タイヤでも車検は通る。しかし、なぜかクリアしても落とされることもあるので注意されたし。
またフェンダーからタイヤがはみ出すのも当然アウト。2017年6月に保安基準の一部変更により「10ミリ未満なら突出していないものとみなす」というものがあったが、貨物車扱いの軽トラには適用されない。だが10ミリ未満のオバフェンを付け、それに収まっていれば通ることもある。これも検査官次第だったりするので判断は難しいが……。
【取材協力】但東自動車
◆兵庫県豊岡市但東町出合51◆tel.0796-54-0206◆https://www.tantojidosha.jp◆営業時間:9時~18時◆定休日:第2/4土曜・日・祝祭日
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みんなのコメント
誰もがリフトアップして、大径タイヤを履きたがったが、あまりにデメリットの方が多かった。
車高は上がるが、固くてストロークしない脚。
必死にリフトしてタイヤハウス内の空間を稼ぎ、オーバーフェンダーを張り付けても、思う程大きなタイヤは履けなかった。
腹下は少しばかりクリアランスが拡がっても、アームやデフの地上高は、タイヤを大きくした寸法の半分しか持ち上がらない。
公認をとっても、それは公道を走行させても罪に問われない車両になっただけで、耐久性も使い勝手も考慮されていない。
実際、運転席から目視できず、公認車に轢かれて亡くなったお子さんも居た。
アレコレもっともらしい理屈はつけられるけど、結局はファッション。雰囲気づくりでしかない。
それでもやりたい方は、自由にしたらよいけどね。