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日本政府が導入するアメリカの「国民車」とは? 「使う職員がかわいそう」 関税交渉の“ややこしい条件”がコレか

掲載 更新 123
日本政府が導入するアメリカの「国民車」とは? 「使う職員がかわいそう」 関税交渉の“ややこしい条件”がコレか

トランプ氏は東京にシボレーは「存在しない」と発言

 アメリカとの関税交渉の一環で、日本政府がアメリカ製のピックアップトラックの購入を検討していることが明らかになりました。しかし、自動車業界関係者は「日本で運転するのには極めて不向きなクルマだ」と一笑に付しました。「不適切すぎる」理由を探りました。

【日本(政府が)導入?】これが「アメリカで2番目に売れている車」です(写真)

 アメリカのドナルド・トランプ大統領(共和党)が対日貿易赤字を問題視し、日本からの輸入品に課すとした24%の「相互関税」を値切ってもらうために交渉に当たったのが赤沢亮平経済再生担当大臣でした。この結果、アメリカは2025年7月に日本からの輸入品への関税率を15%へ引き下げることで合意しましたが、引き替えに日本が5500億ドル(1ドル=150円で82兆5000億円)をアメリカに投資することなどが盛り込まれました。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は「『アメリカ第一』主義のトランプ氏があっさりと関税を引き下げたはずはなく、いろいろとややこしい条件が付けられたらしい」と聞いていましたが、その一端が浮き彫りになりました。アメリカの自動車大手、フォード・モーターのピックアップトラック「F-150」を日本政府が購入し、国土交通省の地方整備局の公用車として導入して工事や道路のパトロールに使うことなどを検討していると報じられたのです。

 赤沢氏は記者会見で「具体的なことがあるわけではない」としながらも、「F-150については、トランプ大統領のお気に入りなんですかね。報道でよくトランプ大統領がフォードのF-150というのを口にされているのを私は承知をしておりますので、きっとお気に入りなのかなというふうに思います」とF-150の購入を検討していることを示唆しました。赤沢氏はアメリカとの関税交渉で合意した内容を「誠実に実行していきたい」とも発言しており、今後動きが具体化する可能性が高そうです。

「奴らにいつも負けっぱなし」と息巻いたトランプ氏

 自動車の業界団体、日本自動車工業会によると、2024年に日本からアメリカへ輸出された自動車(乗用車とトラックの合計)は136万9063台でした。一方、日本が24年に輸入した米国製自動車は1万6074台(財務省貿易統計)と、輸出台数のわずか1%強に過ぎません。

 トランプ氏はこの“貿易不均衡”にかねてから不満をぶちまけており、2015年6月の演説では「日本は何百万台ものクルマを送りつけてくるが、アメリカは何をしているのか。あなたが東京で(アメリカの自動車大手ゼネラルモーターズ〈GM)のブランド〉『シボレー』を最後に見たのはいつだ。皆さん、それは存在しないのです。奴ら(日本)にいつも負けっぱなしだ」と声を荒げました。

なお、GMの正規ディーラーは日本にもあり、東京都内にある拙宅の近所のディーラーでもシボレー車を扱っているので「存在しない」というのは真っ赤なウソです。

 ただ、「(電気自動車〈EV)メーカーの)テスラなどの一部車種を除くと、アメ車は人気がない」(外国メーカー関係者)というのが実情です。このため日本政府はアメリカ製、しかも「トランプ氏のお気に入り」というF-150を自ら買い入れ、“貿易不均衡”の解消を急ぐことを模索しているという構図が浮かび上がります。

 関税交渉の切り札となったF-150ですが、自動車業界関係者は「F-150は日本で運転するのには極めて不向きのクルマだ」と断言し、「今の日本車を手放し、あんな使いにくいクルマを押しつけられる職員がかわいそうだ」と同情さえします。いったい、どういうことでしょうか。

アメリカで一番売れている車「でした」

 フォードのF-150は、1948年に発売された「Fシリーズ」を源流としています。モデルチェンジを繰り返して現在は2020年に発売された14代目で、アメリカでのモデル別新車販売台数で23年まで47年連続で新車販売台数首位だった「国民車」です。筆者が2020~24年に勤務先のワシントン支局に駐在中には「歴代のF-150に乗ってきた」というヘビーユーザーにも出会いました。

 ところが、調査会社ジャトダイナミクスによると、不動の人気を誇ったはずのF-150の2024年の新車販売台数は前年比5%減の46万915台と2位になり、首位から陥落しました。代わりに首位の座に就いたのがトヨタ自動車の主力SUV「RAV4」で、9%増の47万5193台となりました。

RAV4はアメリカのSUVで8年連続首位となった人気車で、ともに燃費性能が優れたハイブリッド車(HV)モデルが29.3%増、プラグインハイブリッド車(PHEV)モデルも19.3%増と大きく伸びたのが躍進を支えました。

 他方でF-150にとって不利になったのが、1998年に売り出した99年型モデルからより大型のF-250、F-350が独立したことです。それまではFシリーズとして販売台数が集計されていましたが、99年型からは別のモデルとしてカウントされるようになりました。

 ただ、「アメリカ人は他国にナンバーワンを奪われるのをことさら嫌う」(アメリカに30年以上住む日本人)という傾向があり、トランプ氏の「アメリカ第一」主義もそれを鮮明に映し出しています。自動車業界には、1970年代の石油危機を受けて燃費性能が優れた日本車がアメリカの自動車市場を席巻し、逆上したアメリカ国民が腹いせにトヨタの乗用車「カローラ」をハンマーでたたき壊すイベントが開催されるなどの「苦い記憶」があります。

 トヨタは「ハンマーヘッド」と呼ばれる独特の形状の前照灯を採用した新型RAV4は、HVモデルとPHEVモデルに特化します。販売台数が多いガソリンエンジンだけを搭載したモデルを廃止するため、アメリカの自動車業界関係者は「RAV4の現行モデルの駆け込み需要がある2025年はトップを維持するかもしれないが、26年はF-150が首位を奪還するのではないか」との見方を示します。

F-150が「日本に全く合わない」3つの理由

 F-150が「日本に全く合わない」と断定する自動車業界関係者は、理由の1つとして車体の大きさを上げます。最も小さなモデルでも全長が約5.3m、バックミラーを除いた全幅も2m強あります。日本の一般的な駐車場は長さ5m、幅2.5mのため「停められる駐車場が限られ、ドライバーは駐車場探しに苦労することになりそうだ」と指摘します。

 2つ目は、アメリカでも「ガス・ガズラー(ガソリン食い)」と揶揄されているガソリンエンジン車の燃費性能の悪さです。日本の公用車で使われる場合には国庫からガソリン代が支出されることになり、その元手となるのは私たちの税金です。

 一方、フォードはEVモデルの「F-150ライトニング」ならば充電1回当たり300マイル(約483km)走れると自称します。しかしながら、車両価格はさらに値が張ります。

 なお、アメリカで販売されているF-150は左ハンドルですが、日本と同じく左側通行のオーストラリアでは右ハンドル車を販売しています。このため、公用車として導入する場合には右ハンドル車を輸入することが想定されます。

 3つ目の理由は極めつけで、フォードが2016年に日本から撤退していることです。地方整備局はアメ車がほとんど走っていない場所にもあり、安全性を確保するために不可欠な点検や、「アメ車には故障がつきもの」とされる中で修理を受けられるのかは疑問符が付きます。

 勤務先のニューヨーク支局駐在中にフォードの日本からの撤退を報じた筆者は、フォードが撤退理由として「日本は世界の先進国で最も閉鎖的な自動車市場であり、輸入ブランド全体のシェアは年間新車市場の6%未満に過ぎない」とコメントしたことに言葉を失いました。日本は輸入する乗用車に関税を課していないのに対し、当時でも2.5%の関税をかけていたアメリカのメーカーが「世界の先進国で最も閉鎖的な自動車市場」と指弾するのはあまりにもナンセンスだからです。

 フォード車が日本からの撤退に追い込まれたのは、消費者に購入したいと思わせる魅力に欠けていたからに他なりません。日本市場から淘汰されたメーカーの「日本に全く合わない」製品が公費で投入され、ガソリンを“爆食い”し、さらに政府職員も使うことを望んでいないクルマだったとしたら……。もしもそんな現実が待ち受けているのならば、ため息をつきたくなる納税者は筆者だけではないのかもしれません。

文:乗りものニュース 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
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みんなのコメント

123件
  • smi********
    安倍元首相がオバマに言ったようにアメリカも日本に車を本気で売りたいなら右ハンドル、排気量、車の大きさとか売れるように努力しろよ ベンツやBMWやフォルクスワーゲンはそれをわかってるから売れる
  • Nekorobu
    荷物を積んでいって、現場手前で降ろして(車幅で入れない)手作業で運び込む公務員
    軽トラで行けば現場真横なのに

    公務員お気の毒です
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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