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パティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴの競演、『コレスポンデンス』展──ステファン・クラスニアンスキーが作品に込めた思いを解説

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パティ・スミスとサウンドウォーク・コレクティヴの競演、『コレスポンデンス』展──ステファン・クラスニアンスキーが作品に込めた思いを解説

『MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス』が、東京都現代美術館で開催中だ。音と詩と映像が融合した作品にはどんな思いが込められているのか? サウンドウォーク・コレクティヴのステファン・クラスニアンスキー自身に訊いた。

最新プロジェクト〈コレスポンデンス〉を紹介する国内初の展覧会

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ベルリンを拠点に活動するサウンドウォーク・コレクティヴは、フィールドワークで録音した音源をベースとしながら、地理的特性や歴史、文化などを重視したサイトスペシフィックなプロジェクトを中心に活動する現代音響芸術集団。また、映画監督のジャン = リュック・ゴダール等、革新的な表現者たちとのコラボレーションに注力してきた彼らが10年以上にわたり共同制作を継続してきたのが、世界的な文化アイコンであり、アーティスト、詩人のパティ・スミスだ。

東京都現代美術館で開催中の『MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス』は、両者による現在進行形の最新プロジェクト〈コレスポンデンス〉を紹介する国内初の展覧会であり、会場に合わせて構成されたオーディオビジュアル・インスタレーションとして展示されている。

フィールドレコーディングによって採取した“音の記憶”を基点とする創作手法は、15年ほど前にサウンドウォーク・コレクティヴを結成した時から貫かれてきたようだ。

創設者でありアーティストのステファン・クラスニアンスキーに、作品制作やパティ・スミスとの協業などについて聞いた。まず、サウンドウォーク・コレクティヴとしての初プロジェクト〈Ulysses Syndrome〉について、彼は次のように語ってくれた。

「およそ3カ月間、地中海を航海しながら、さまざまな周波数や通信を録音しました。海上には漁師や貨物船、沿岸警備隊や移民局の交信が飛び交っているんです。そのため、私たちも思いがけない通信を拾うことがありましたし、異なる周波数が重なり、混ざりあった音を収集することもありました。それらは、地中海を囲むヨーロッパ、北アフリカ、中東といった国々が持つ、多様な文化が折り重なった、複雑で豊かな物語を紡ぐものだったんです」

パティ・スミスとの出会いところで、ステファンによればパティ・スミスとの出会いはまったくの偶然であったという。

「ニューヨークに向かう飛行機で偶然にも隣の席になったんです。私はその時、1988年にイビサで亡くなった歌手、ニコ(ヴェルヴェット・アンダーグラウンドに参加したことで知られる)による最後の詩を読んでいました。パティが『その詩をどうするつもりなの?』と尋ねるので、『今はただ、7月の真夏に響くコオロギの音を思い出している』と答えました。ニコは自転車で転倒し、意識を失ったまま野原に倒れていたのですが、息を引き取る前、最期に聴いた音は、きっとコオロギの鳴き声だったのではないかと思ったからです。パティはこのアイデアをとても気に入ってくれて、オマージュ作品を作るなら詩を朗読してもよいと言ってくれたんです。これが最初の共同制作アルバム『Killer Road』です」

“往復書簡”の意味を持つ〈コレスポンデンス〉は、その名の通りパティ・スミスとの対話から生まれた作品であり、彼女自身の詩により焦点が当てられている。制作にあたっては、まずステファンが詩的な霊感の宿る場所や歴史的な重要性をもつ土地を訪れて“音の記憶”を採集することに始まる。そして、パティとステファンとで対話を重ねながら、パティがその録音をもとに詩を書き下ろす。その後、サウンドウォーク・コレクティヴがサウンドトラックに合わせ、映像を編集していったのだという。

表現を生む“音の記憶”との対話このようにして誕生したのが、本展の根幹をなす8つの映像だ。チェルノブイリ原発事故や森林火災、動物の大量絶滅といったテーマを探求するとともに、アンドレイ・タルコフスキーやピエル・パオロ・パゾリーニ等の芸術家や革命家を参照しながら、人間と自然の関係やアーティストの役割、人間の本質についての考察を促す示唆的な内容となっている。詩の朗読は、もちろんパティ・スミス本人によるものだが、ステファンは「かつて体験したことがない」ほど「驚異的」であったと語る。

「スタジオで録音しているとき、彼女は何千年も前に生きていたであろうキャラクターの心や魂に入り込み、自然や人間、詩人、神々の言葉の霊を呼び覚ますことができるのだと感じました。この能力をシャーマンのようだと喩える人もいますし、また魂の目覚めだという人もいます」

そして、本展でもう一つ見逃せないのが、日本で滞在制作した新作だ。例えばそのひとつに、四国で採れる特殊な石を素材にしたものがある。

「“歌う石”とも呼ばれるサヌカイトは、打つと驚くべき共鳴が生まれるので、古代から楽器にも使われてきました。私たちは楽器が取り出された後に残った部分を集めて、石の彫刻庭園《The Silent Garden》を制作したのですが、日本の神道や寺院文化に対するオマージュも意図しています」

最後に〈コレスポンデンス〉の制作や発表を通して得た気づきについて、ステファンは次のように語ってくれた。「今生きている世界は、何千年もの間に互いから学び合い、共有してきた結果だと再確認しました。ですから、私にとって〈コレスポンデンス〉は、異なる伝統や文化が交流する重要性を伝える作品でもあるのです」

『MOT Plus サウンドウォーク・コレクティヴ & パティ・スミス|コレスポンデンス』会場:東京都現代美術館 企画展示室 B2F
会期:~6月29日
開館時間:10:00~18:00
休館日:月曜
観覧料:一般 ¥1,800、小学生以下無料
https://www.mot-art-museum.jp/

ステファン・クラスニアンスキー/STEPHAN CRASNEANSCKIプロデューサーのシモーヌ・メルリとともに率いる現代音響芸術コレクティブ、サウンドウォーク・コレクティヴの創設者、アーティスト。歴史的に重要な土地を訪れフィールドレコーディングした音源を基に、記憶や時間、愛などのテーマを探求する作品を制作。また、ジャン = リュック・ゴダール等、著名アーティストとのコラボレーションを通じて、音楽や映像など多岐にわたる表現を展開している。

文・富田秋子 編集・橋田真木(GQ)

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