京都バス混雑の深刻化課題
2024年の訪日外国人客数(推計値)は過去最多の3686万9900人を記録したが、観光地として世界的に知られる京都市は、深刻なオーバーツーリズム(観光公害)に直面している。特に市営バスの混雑が大きな問題となっている。
【画像】えっ…! これが60年前の「京都駅」です(計11枚)
こうした状況を受けて、京都市は「市民優先価格」制度の導入を検討している。この制度は市営バスなどで、市民よりも観光客の運賃を高く設定するものだ。松井孝治市長は2024年2月の市会で、
「実現への課題の解決に向けて、着実に進んでいる手応えを感じている」
と述べた。2027年度中の実現を目指しているという。一見すると、市民に利益をもたらす構想に見える。しかし、導入のハードルは高い。
「市民」の定義が呼ぶ混乱
これまでの報道によると、マイナンバーカードと連携した交通系ICカードを使う利用者に、適用する方法が検討されているという。だが、単にマイナンバーカードで京都市内に住民票がある人だけを「市民優先価格」とするなら、不公平感を招く恐れがある。
京都市が毎月公表している「推計人口」によれば、2025年5月現在の人口は143万4956人である。一方、2020年の国勢調査では、人口は146万3723人だった。この約2万9000人の差は、「住民票を置いていないが実際に市内で暮らす人」を示している。代表的な例は、
・他府県の実家に住民票を残したまま京都で下宿する大学生
・市外に本籍を置きながら京都市内で働く単身赴任者
などだ。
彼らは日常的に京都市のインフラや公共交通を利用し、地域社会の一員として生活しているにもかかわらず、住民基本台帳には載っていない。つまり、今回検討されている「市民優先価格」制度の対象外になると考えられる。
では、制度上の非京都市民は、どれほど存在しているのか。京都府の統計書によると、2020年時点で京都市への流入人口は64万1789人だった。内訳は、通勤者が53万7049人、通学者が10万4740人。これにより、昼間人口は262万2355人に達している(京都府統計書2023年版)。
つまり、約67万人(前述の約2万9000人含む)が市内に通い、市営バスや地下鉄を日常的に利用している。それでも、「市民優先価格」の制度では対象外となる可能性が高い。
京都市は学生の街だ。また、家賃の高騰を理由に市外へ住居を移す「実質的な京都市民」も多い。住民票の有無で一律に切り分ける方法はシンプルだが、制度上の市民だけを優遇すれば、現実に都市を支える人々を排除することになる。不公平感が広がり、制度への反発を生むおそれがある。
約44万人が除外される制度設計
さらに懸念されるのが、マイナンバーカードと交通系ICカードを連携させて判別しようとする点だ。
京都市ではマイナンバーカードの普及率が著しく低い。総務省が公表した2024年3月時点のデータによると、保有率は69.3%。政令指定都市のなかで最下位だった。市民の約3割、人数にしておよそ44万人がカードを保有していないことになる。つまり、
「制度のスタート地点にすら立てない人」
が数十万人単位で存在する。カードを持たない理由もさまざまだ。必要性を感じない人や取得方法がわからない人に加えて、政治的な立場から取得を拒む人も少なくない。こうした状況で、義務ではないマイナンバーカードを利便性の代償として求めれば、社会的な反発や「炎上」を招く可能性がある。
東京都の「シルバーパス」のような制度を導入する案もあるが、これは現実的ではない。申請から発行までに膨大な手間とコストがかかるからだ。実際、東京都では、シルバーパスにかかる税金と利用者負担の合計が年間約251億円に上る(東京都福祉局報告書)。新たなパスを発行して「市民優先価格」を実現するのは、財政面から見ても困難だ。
割引導入が招く税負担の逆転現象
では、住民票のある市民だけを対象に運賃を割り引くことは可能なのか。これも実現は難しい。
京都市営バスは、独立採算を原則とする地方公営企業だ。2025年度の予算を見ると、運営費補助として市から7.0億円、府から0.1億円の計7.1億円の補助を受けている。また、車両購入や設備投資などの資本的支出には、市から5.5億円の補助がある。一方で、運送収益は228億円に上る(利用者からの収入)。つまり、現状では税金ではなく「運賃」で運営されている構造になっている。
ここで市民だけを割引対象にすれば、その減収分は、制度外の利用者からの収益では賄いきれない。最終的には、市の一般財源(税金)によって補填せざるを得なくなる。しかも、この制度を利用しない市民にとっては、他人の割引運賃を自分の税金で肩代わりしているという不公平感も生まれる。
京都市は、個人の税負担を試算できるサイトを公開している。このサイトを使い、具体的に試算してみた。仮に京都市在住の50歳・独身で、給与収入のみ。年収600万円の場合、次のような税額になる。
・所得金額:436万円
・所得控除合計:43万円
・課税所得:393万円
・市民税:31万5400円(所得割:31万2400円、均等割:3000円)
・府民税:7万9700円(所得割:7万8100円、均等割:1600円)
・森林環境税(国税):1000円
・年間納税額:39万6100円
このような税負担のもとで、仮に市営バスの運賃が1回230円として、「市民優先価格」として1回あたり50円の割引が導入された場合を想定してみる。
月20回(年間240回)乗ったとしても、割引額は年間1万2000円にとどまる。得をしたというよりも、自分の割引分をあらかじめ税金で支払っていると感じる市民が多くなるだろう。ひとりあたりの負担は小さくても、市営バスの利用者全体で見ると影響は大きい。2023年度のデータによれば、1日あたりの利用者数は33万3000人(定期利用9万3000人、定期外17万5000人)。制度次第では、膨大な減収につながり、市営バスの経営を揺るがす可能性がある。
逆に、市民以外の利用者に対して料金を引き上げる方式なら、財政的にはプラスになる。例えば、市民以外の運賃を250円とした場合、定期外の17万5000人が1日あたり250円支払えば、総収入は4375万円となる。現行の230円の場合は4025万円なので、差額は1日あたり350万円の増収。年間に換算すれば、約12.8億円の増収となる。
つまり、松井市長が検討している「市民は据え置き、観光客にはしっかり払ってもらう」という方針は、財政的には理にかなっている。ただし、前述のように制度運用面での課題は多い。
「観光都市」の限界構造
結局、「市民優先価格」の導入を難しくしている根本的な原因は、京都市の都市構造そのものにある。
例えば、イタリアのベネチアでは「入島税」という制度が導入され、観光客に明確な負担を求めている。この取り組みは世界的にも注目を集めた。これは、ベネチアが都市全体でテーマパークのような存在になっているからこそ可能な措置だ。
「訪れる人間 = ほぼ観光客」
という単純な構図が成り立つ。だから、入島税という仕組みも成り立つ。
しかし、京都市はまったく異なる。確かに観光資源は豊富だが、京都は観光だけで成り立つ都市ではない。多くの企業、大学、研究機関が集まり、日常生活が営まれている。政令指定都市としての多機能性を持つ都市だ。つまり、観光は都市機能の一部にすぎない。そのなかに、通勤・通学・通院・子育て・買い物といった、さまざまな生活行動が混ざり合っている。
ベネチアでは「訪れる人間 = ほぼ観光客」と判断しやすいが、京都市ではそうはいかない。市民と観光客をどう区別するのか――という問いが必然的に生まれる。この問いには、制度的にも倫理的にも、簡単な答えは存在しない。しかも、「市民優先価格」を導入したとしても、そもそもの問題は解決しない。観光客が多すぎて市民がバスに乗れないという現状が変わるわけではない。
本来、解決すべきは混雑の緩和である。市民に割引、観光客に上乗せという価格調整だけでは、本質的な問題は何も解決されない。
観光課税の現在地
現実的な解決策は限られている。例えば、特定の時間帯や路線に通勤・通学客専用車両を導入する方法だ。あるいは、観光客向けに運賃を高く設定した特急バスを走らせる対応もある。
もちろん、こうした車両を導入するには財源が必要になる。その原資として最も現実的なのが「宿泊税」の強化だ。宿泊税とは、ホテルや旅館に宿泊する利用者に課される地方税の一種である。主に観光客から徴収し、その自治体の観光振興や都市インフラ整備、公共交通の維持などに充てられる。
日本では地方自治体が条例で独自に導入できる。代表例は東京都(2002年導入)や京都市(2018年導入)だ。課税額は宿泊料金に応じて段階的に設定されている場合が多い。現在の京都市の宿泊税は以下のとおりである。
・宿泊料金2万円未満:200円
・2万円以上5万円未満:500円
・5万円以上:1000円
ただし、京都市は2026年3月から宿泊税を増税する予定だ。具体的には、
・5万円以上10万円未満:4000円
・10万円以上:1万円
とする方針である。それでもなお、都市の持続的な財源としては心許ない。宿泊税を公共交通を含む都市インフラ維持のための財源と明確に位置づけ、さらなる増税も視野に入れるべきだ。
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みんなのコメント
日本企業の減点主義、成功より減点されないことが大事というサラリーマン文化そのものだな。
そりゃ、何もできなくなるわ。