ドイツにはアウトバーンという速度無制限の高速道路があります。一方、日本の最高速度は現在、新東名高速の新静岡IC~森掛川IC間(静岡県、50.5km)と東北道の花巻南IC~盛岡南IC間(岩手県、30.6km)の試行区間で設定されている110km/hですが、3月1日からこれらの区間で120km/hに引き上げられます。
世界各国の最高速度(自家用自動車、高速道路)をみると、速度無制限と知られるアウトバーンは速度無制限区間と130km/h区間があります。
なんとかならんか!!! 日本だけなのか!? 日本のナンバープレートはなぜカッコ悪いままなのか?
続いて最高速度の高い国はポーランドで最高速度140km/h。最高速度130km/hに設定されているのはフランス、イタリア、オランダ、ギリシャ、ルーマニア、ハンガリーです。
最高速度120km/hはポルトガル、トルコ、スペイン。最高速度110km/hはロシア、スウエーデン。イギリスでは最高速度112km/h。アメリカでは65マイル(約104km/h)か70マイル(約112km/h)になる地域が多いですが、テキサス州の一部地域では85マイル(137km/h)となっています。
ここでふと疑問に思うことがありませんか? 速度無制限のドイツを除いて、そのほかの国では最高速度が設定されています。
それなのになぜ、日本車だけが速度リミッターが普通乗用車が180km/h、軽自動車が140km/hになっているのでしょうか?
その昔、キンコン、キンコンと谷田部の高速周回路で、180km/h近くになると、速度リミッターの警告音がよく鳴ったものです。今、そんなクルマはあるのでしょうか?
そこで、今、スピードリミッターは、どうなっているのか? モータージャーナリストの岩尾信哉氏が、日本車メーカーおよび輸入車メーカーを徹底調査、スピードリミッターの今を追います。
文/岩尾信哉
写真/ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部
■自工会が回答 「スピードリミッターは規制ではなく、対応」
「自主規制とよくいわれますが規制でありません。自動車メーカーが個別に対応するということです」
日本メーカーのスピードリミッターの設定について、こうコメントをしたのは一般社団法人 自動車工業会だ。自工会は日本の自動車メーカーを中心として、自動車関連企業が共同で運営する、自動車業界のまとめ役といえる存在だ。
今回は乗用車両の最高速度制限に関する日本メーカーによる自主規制の起源について問い合わせした。すると、昭和50年に国土交通省が自動車メーカー各社に口頭で内容を通達したとされ、書面等で公式に残されたものではないという。
それでは具体的な速度設定については、どう決められたのか確認すると「高速道路の6%の上り勾配を100km/hの車速を維持するには、平坦路では180km/hで走行可能であることが必要」とされ、同様に軽自動車は140km/hに設定されることになった経緯があるという。
このように、「180km/h、140km/h」の制限をあくまで自主的な「取り組み」と捉えるなら、例外が存在しても決して不自然ではないということを踏まえつつ、話を進めていくことにする。
スピードリミッターの制御に関しては、1980年代に採用が始まった電子制御による燃料噴射と車速センサーを組み合わせて燃料噴射を停止するという、今から考えれば少々乱暴ともいえる速度制限が行われていた時代もあった。現在では機能的にはECUによるスロットルなどを含めたパワートレインの統合制御が基本となる。
後述するトヨタのように、スピードリミッターの制御については、車種ごとに要求性能に合わせて設定を変更するというのがむしろまっとうな対応というべきで、すべてのモデルを“一律”に扱うというのは、各車種の性能に大差がないという見識による少々前時代的とも思える前提に基づいているようで、もはや意味がないように思える。昭和の時代の「取り決め」にいまだに縛られているというのも釈然としない話ではないか。
■「スピードリミッター、普通車180km/h、軽自動車140km/h」へのメーカーの対応を聞いてみた!
まずは日本メーカーに国内仕様向けの対応を問い合わせてみると、速度設定に関して前提といえる「180km/h、140km/h制限」の有無について、レクサス、スズキ、ダイハツでは明らかにされなかった。
「機密性と顧客への安全性」(ダイハツ)への配慮などといった見解について、こちらとしては異論を挟む余地はない。
日産はスピードリミッターを設定して“自主規制”しているとはいえ、具体的な数値の回答はなかった。トップパフォーマンスモデルであるGT-Rでは周知の通り、GPSによる位置情報を基にサーキットでの走行などではスピードリミッターが解除される機能を備える。
トヨタは、基本的に制限速度に関して非公表の立場をとっているが、車種ごとに性能に応じて対応しているとのこと。具体的の制限速度については、今回は一部ながら明らかにしてもらうことができた。
その一例として、クラウンとアクアのスピードリミッターの設定速度を教えてくれた。クラウンでは3.5L 、V6ハイブリッドと2L、直4ターボが180km/h、2.5L 、V6ハイブリッドが175km/h。アクアでは170km/hとされるように、各モデルの走行性能に適した細かい設定を施しているのは、至極まっとうな設計コンセプトといえる。
ホンダ、マツダ、スバルは「180km/hでのリミッター作動」との回答を得た。
三菱からは、より明確な設定内容を説明された。国内向けの乗用系車両の制限速度は180km/h、軽自動車と電気自動車のi-MiEVは130km/hを設定している。
制御については、ガソリンエンジンではスロットル開度、ディーゼルエンジンは燃料噴射量、ハイブリッド/電気自動車は制御ユニットで車両からの指示トルクを制限することにより、駆動力を抑制して車速を制限するとのことだ。
ホンダについては、NSXでは“車両設定”によって解除可能となっているのを例外として、乗用系では180km/hのリミッター作動としている。
軽自動車の実例を挙げれば、ホンダが開催するN-ONEのナンバー付き車両によるワンメイクレース「N-ONEオーナーズカップ」では140km/hでリミッターが作動する。
■ベストカー2018年6月10日号掲載の実測最高速テスト
ベストカー本誌が日本自動車研究所(JARI)のテストコースにおいて、最高速テストを行っているのでその結果も合わせて見てほしい(2018年6月10日号)。
●R35GT-R/311.17km/h
●レクサスLC500h/184.4km/hリミッター作動
●ホンダNSX/296.13km/h
●トヨタ86GR/190.05km/h(リミッター作動)
●セレナe-POWER/157.99km/h
●ステップワゴンハイブリッド/160.25km/h
●セレナオーテック(2Lガソリン)/156.86km/h
●プリウスAツーリングセレクション/181.35km/h
●トヨタMIRAI/178.38km/h
●シエンタハイブリッド/146.79km/h
●デミオXD/179.53km/h
●オデッセイハイブリッド/161.57km/h
●ロードスターRS/181.29km/h(リミッター作動)
■輸入車メーカーのスピードリミッターは?
それでは日本市場に輸入されるモデルの各ブランドでは、どのように対応しているのだろうか。締め切りの関係もあって、明確な回答が得られなかった場合もありえることをご了承いただきたい。
スピードリミッターに関する問い合わせに対して「公表せず」と回答したのは、PSAプジョーシトロエン・グループ、日本ではクライスラーのジープブランド、イタリアのフィアット、アルファロメオ、アバルトを扱うFCA(フィアット・クライスラー・オートモビルズ)、そしてフォルクスワーゲンとアウディだった。
FCAジャパンでは「公式情報として社外提供することができない」すなわち「本国より公式のデータ提供がされていないため」とのことだから致し方ないだろう。
具体的に上限速度についての回答を得られなかったのは、ジャガー・ランドローバーやアストンマーティン、ボルボ、ゼネラル・モーターズのキャデラック/シボレーだった。
ジャガー・ランドローバーは両ブランドで同様の機能を与えたうえで、“アクティブスピードリミッター”と呼ばれるシステムでは、作動時にカメラで認識した交通標識やナビゲーションの制限速度情報のいずれかを上限として速度制限を実施する。
■スピードリミッターを設定していないスポーツカーメーカー
基本的に速度制限制御を実施していないと回答したメーカーは、フェラーリ、マセラティ、ベントレー、ロータス、ポルシェと、名だたるスポーツカーブランドが並んだ。
ちなみにロータスでは、リミッターをエキシージV6ロードスターのみに設定、スロットル制御により、最高速度は233km/hに設定されているとのことだ。またルノーアルピーヌA110は250km/hに設定しているそうだ。
スピードリミッターとは別種ともいえるが、スポーツカーであってもポルシェはスピードウォーニング機能があり、冬期のスタッドレスタイヤ装着時などに対応するために、ドライバーが任意に速度上限を設定できる。とはいえ、あくまで警告機能であってスピードリミッター機能は含まれていないという。
速度無制限のアウトバーンでの走行性能を考慮するドイツ勢に関しては、たとえばBMWは全モデルにおいて「200~250km/h」とのコメントを得た。ドイツ系のメーカーではカテゴリーに関係なく、コンパクトクラスであっても同様の設定となるようだ。
ダイムラーについては、メルセデスベンツ、メルセデスマイバッハ、スマートの各ブランドでは、「リミッター作動速度はを公表しておりません」とのことだったが、スマートには可変スピードリミッター(アクセルペダルをキックダウンの位置まで踏み込むと一時的に解除できる)が、それ以外のモデルには“スノータイヤスピードリミッター”(アクセルペダルを奥まで踏み込んでも解除されない)が用意されている。
いっぽう、メルセデスAMGモデルについては詳細な回答が得られ、「AMGドライバーズパッケージ」の名称で下記のようなスピードリミッターの設定がある。
●CLA 45、GLA 45:パッケージオプション:250km/h→270km/hへ変更
●C 63 S(セダン、ワゴン、クーペ、カブリオレ):標準装備:290km/h
●E 63 S 4MATIC+ セダン:標準装備:300km/h
●E 63 S 4MATIC+ ワゴン:標準装備:290km/h
●GLC 63 S:標準装備:「速度リミッターの設定が変更になります」の記載のみ(作動速度は不明)
●GLE 63 S:標準装備:250km/h→280km/hへ変更
●S 63ロング、S 63 4MATICロング:パッケージオプション/S 65ロング:標準装備:「速度リミッターの設定が変更になります」の記載のみ(作動速度は不明)
●S 63 4MATICクーペ/S 65クーペ:パッケージオプション:250km/h→300km/h
●S 63 4MATIC+ カブリオレ、S 65カブリオレ:標準装備:250km/h→300km/h
●SL 63:標準装備:250km/h→300km/hへ変更
このように、速度レンジがすべて250km/hオーバーというのはさもありなんというべきだろう。ところでメルセデスベンツ、BMW、アウディでは最高速250km/hでの“紳士協定”が存在とするという話があるが、公式には確認できなかったとはいえ、AMGモデルの速度制限の設定変更前の値からある程度は想像できるかもしれない。
■小型車からスーパースポーツまでさまざまな対応
さらに独自に資料の調べを進めるうちにわかってきたのは、小型車などで車速が200km/hに到達するような性能を有していなければスピードリミッターの設定なしの場合があるいっぽうで、走行性能がアップするにつれて追加的に設定されることもあるようだ。
たとえば、PSAプジョーシトロエングループのように、欧州の小型車ではスピードリミッターの設定は多くは見られないケースもある。
ルノーに関しては明確な回答は得られなかったが、日本市場に導入されているモデルのなかで、欧州のC/Dカテゴリーに属するメガーヌでは“GT”ではスピードリミッターは未設定のようで、トップパフォーマンスモデルである“R.S”で.は250km/hでリミッターが作動するといった例があるように、各モデルごとに対応しているようだ。
スーパープレミアムブランドといえるロールス・ロイスは、具体例としてファントムの日本でのリリースを見れば“250km/hでリミッター作動”とある。
マクラーレンの現行モデルの最高速度を見ると、720S:最高速度:212mph/341km/h、600LT/570S:328km/h:202mph、そしてスピードテイル:403km/h:250mphとされていて、もはやスーパースポーツではリミッターの存在意義がかすんでしまう。
ランボルギーニについても、最高速度を現行モデルの最高速度は300km/hオーバーを謳っているので、イタリア本社からの回答が間に合わなかったとはいえ、スピードリミッターの存在に言及することの意味自体が薄いかもしれない。
スピードリミッターの話題は日本メーカーでは“グレーゾーン”の領域になってはいても、さほど違和感は覚えなかったのは、トヨタのようにメーカーとしての見識と各モデルの性能に対するこだわりが見えるケースもあったからだろう。
安全性やパフォーマンスに応じた設定が適切に施され、これにドライバー側の走行性能の把握や道路環境に配慮する“理性”が加われれば、スピードリミッターはあくまで”黒子”の存在となる。
最後に、本企画はスピードリミッターの解除を助長するものではないことを明記しておきたい。法定速度をしっかり守って安全運転を心がけていただきたいと切に願います。
※参考データ/日本車の輸出仕様のメーカー公表最高速(ベストカー2018年6月10日号掲載)
※輸出仕様には(海外用の)カタログに最高速度が明記されているため、そこから抜粋しました
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