約16年ぶりの全面刷新は単なる1車種のモデルチェンジではない
2026年夏、日産自動車は約16年ぶりのフルモデルチェンジで4代目「エルグランド」を世に送り出します。
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新型は第3世代“e-POWER”を採用。電動駆動4輪制御技術“e-4ORCE”と組み合わせることで、高級ミニバンに求められる静粛性や快適性だけでなく、運転する楽しさまで追求したモデルだといいます。
約16年ぶりの全面刷新というだけでも話題性は十分ですが、本当に注目すべきは、なぜ今、「エルグランド」なのか? という点です。日産は現在、大きな転換期を迎えています。販売体制や商品ラインナップの見直しを進め、新たな経営戦略の下でブランドの再構築に取り組んでいます。
そうした中で登場する新型「エルグランド」は、単なるニューモデルではなく、日本市場で日産のブランドイメージを再び押し上げる役割を担ったモデルであるように見えます。つまり、日産は何を取り戻そうとしているのか? という視点から見ると、新型「エルグランド」の存在意義がより鮮明に見えてきます。
今では高級ミニバンというカテゴリーは当たり前の存在ですが、その価値を世に浸透させたのは1997年に誕生した初代「エルグランド」。
当時、ミニバンといえば実用車というイメージが強く、家族で移動するためのクルマという認識が一般的でした。そこへ日産は、大排気量エンジン、上質なインテリア、堂々としたスタイリングを備えた「エルグランド」を投入します。家族のために乗るクルマではなく、所有すること自体が満足につながるミニバンという価値を提示したことで、「エルグランド」は高級ミニバンという市場を切り開いたのです。
しかし、栄光は長くは続きませんでした。2010年に現行型であるE52型が登場したものの、基本設計は長らく不変。その間、ライバルは何度も世代交代を繰り返します。
トヨタの「アルファード」と「ヴェルファイア」は世代交代のたびに高級感や先進装備をブラッシュアップし、市場で圧倒的な支持を獲得。その一方、「エルグランド」は商品力を維持する改良こそおこなわれてきたものの、市場の変化の速さに追いつけなかった印象は否めません。
結果として「エルグランド」は、かつてのフラッグシップミニバンという印象を残したまま、長い間、沈黙を守ることになりました。だからこそ、今回のフルモデルチェンジは「次のモデルが出た」というだけの話にはとどまりません。約16年という空白期間を経て復活すること自体に、大きな意味があるのです。
●第3世代“e-POWER”を託された意味
新型「エルグランド」で見逃せないのが、第3世代“e-POWER”が搭載される点。単に第3世代“e-POWER”といっても、日本仕様として初搭載された新型「キックス」のそれとは異なるパワートレインです。
日産にとって“e-POWER”は、パワートレインの電動化戦略を支える中核技術。なかでも新型「エルグランド」に搭載される第3世代“e-POWER”は、発電に特化した新開発の1.5リッターエンジンを核とすることで、静粛性や燃費性能、そして高速巡航時の効率まで大きく進化しているといいます。
新技術を最初にどのモデルへ投入するか? それはメーカーにとって、最も重要視しているモデルであることを示すメッセージでもあります。もし販売台数を重視するなら、量販モデルを搭載するという考え方もあったことでしょう。
それでも日産は、新型「エルグランド」を選びました。この判断から見えてくるのは、高級ミニバン市場でもう一度存在感を取り戻したいという同社の強い意思です。
売れるクルマではなく“ブランドを語る”クルマ
各自動車メーカーのラインナップは、台数を稼ぐモデルとブランドを象徴するモデルとに分かれています。例えば、スポーツカーは販売台数こそ限られていても、人々にこんなに魅力的なクルマをつくれる会社だ、というブランドイメージを印象づける存在となります。
新型「エルグランド」も、そうした役割を担う存在です。
日産は近年、「移動をもっと知的で豊かな体験に変える」という長期ビジョンを掲げ、電動化やAI、自動運転技術を軸としたブランド再構築を進めています。その中で新型「エルグランド」は、第3世代“e-POWER”に加えて、高速道路でのハンズオフドライブに対応する“プロパイロット2.0”など、最新の運転支援技術を採用。日産の先進性を象徴するモデルとして位置づけられています。
つまり、新型「エルグランド」は単なる高級ミニバンではなく、「これからの日産は、こういうクルマをつくっていく」という方向性を示すショーケースでもあるのです。
その紹介に日産が使う“プレミアムグランドツーリングミニバン”という言葉も、興味深いポイントです。
これまで高級ミニバンというと、後席でくつろげることが価値の中心でした。もちろん新型「エルグランド」も、ゼログラビティシートやラウンジのような室内空間など、後席の快適性を重視しています。しかし、それだけではありません。
第3世代“e-POWER”によるなめらかな加速性能、“e-4ORCE”による安定した車両制御など、運転する人も満足できるプレミアムを前面に押し出しています。
これは初代が築いた、日産らしい走りへのこだわりを現代の電動化技術で再解釈したともいえるでしょう。
現在、マーケットには、出来のいい高級ミニバンが多数存在します。だからこそ日産は、豪華さで競うのではなく、ドライバーズカーとしての高級ミニバンという原点へ立ち返ろうとしているように見えるのです。
●ブランド再建は1台のモデルから始まる
企業の経営改革や販売戦略は、数字で語られることが多いもの。しかし、ユーザーがブランドを評価するのは、最終的には1台1台のクルマとなるケースが多いのです。「このクルマに乗りたい」、「このメーカーは面白い」、そう思ってもらえる商品があれば、そのブランドは支持を集めます。
新型「エルグランド」は、約16年間の空白を埋めるモデルであると同時に、日産ブランドの現在地を映し出す1台でもあります。だからこそ、第3世代“e-POWER”や“e-4ORCE”といった最新技術が与えられ、デザインも走りも全面的に刷新されるのでしょう。
もちろん、日産が目指しているのは、かつての栄光を取り戻すことだけではありません。電動化、知能化、そしてブランド価値の再構築という、新しい時代の日産となりたい。それを象徴するモデルとして、「エルグランド」を復権させようとしているのではないでしょうか。
そう考えると、約16年ぶりに生まれ変わる1台に、大きな役割が託されている理由も理解できるはず。そしてもし、新型「エルグランド」が成功すれば、それは1モデルのヒットで終わらず、日産ブランドが再び魅力を取り戻したという評価につながることでしょう。(VAGUE編集部)
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