路面状況をストレートに伝える、純粋なレーシングフィールだった
メルセデスとマクラーレンが手を組んで生み出したSLR マクラーレン。V8スーパーチャージャーが叩き出す626psは、20年以上を経てもなお色あせない。現役でスーパーGT・GT300クラスを戦うレーシングドライバー、冨林勇佑選手がステアリングを握り、その本質を確かめた。走り出して漏れたのは“今のレーシングカーよりもレーシング”という一言だった。
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メルセデス・ベンツ「SLR マクラーレン」はなぜ20年前のクルマに見えないのか
圧倒的な存在感で見る者を惹きつけるSLR マクラーレン。試乗した冨林勇佑選手は、まずその佇まいに見入っていた。
「とても20年以上も前に作られたクルマとは思えない造形です。ベース車両がなくてよくここまで仕上げたと感心します。とにかく美しすぎる」
このモデルは、メルセデス・ベンツとF1の名門マクラーレンが技術とノウハウを持ち寄って開発したスーパースポーツである。 エンジンはメルセデスAMGがSLR専用に開発した90度V8 SOHCスーパーチャージャーで、総排気量5438cc、最高出力は626ps/6500rpmを発生する。 今回撮影した個体は2006年式で、走行距離は2万7000km。ボディカラーはクリスタルラウライトシルバーをまとう。
ロングノーズにコンパクトなキャビンという独特のシルエットは、フォーミュラマシンの記憶を呼び起こす。冨林選手は丸みのある曲面に、往年のグランプリカーの面影を重ねていた。
「どこか昔懐かしい1950年代のフォーミュラ1を思わせる、丸みのあるシルエットです。屋根がなかったらそっくりだと感じます」
純正タイヤ295とロングノーズ、SLR マクラーレンの走りはどう感じたのか
期待と不安が入り交じるなかで冨林選手はコクピットに乗り込んだ。とくに気になったのは、圧倒的な太さのタイヤと、視界の先まで伸びるノーズだった。
「この時代で純正タイヤが295なんて凄いですよね。僕の身長ぐらいあるロングノーズは意識しておかないと……」
この個体はリアに295/35R18サイズのタイヤを履く。走り出すと、外観から受ける印象は一変したという。
「いい意味で普通です。外から見ると大きいけど乗るとコンパクトに感じて、ノーズの長さも気になりません。ブレーキは重いですが効き具合がダイレクト。ステアリングも路面の状況がストレートに伝わってきます。今のレーシングカーよりもレーシングです」
カーボンファイバー製モノコックがもたらす剛性は、ちょっと走っただけで心地よい一体感を伝えてくる。冨林選手は視線をインテリアへ移し、そのセンスにも好感を抱いた。
「インテリアはカーボンを多用していますが、主張させすぎない、さり気なさが絶妙です」
シルバーのボディとは対照的に、車内はレッドとブラックを巧みに使い分けてコーディネートされている。硬質に見えるシートも、実際に座ると印象が変わったという。
「硬そうに見えるシートですが座ると身体に馴染んで想像以上に快適です。日本人にもフィットするほど、上手く作られています」
SLR マクラーレンの魅力に現役GTドライバーが“感性が磨かれる”と語った理由
SLRは、クルマに興味がない人までも惹きつける。もはやクルマという枠を超えた芸術作品だと冨林選手は感じていた。
「クルマってデザインを追求するとカッコいいけど乗ると幻滅します。SLRはそうじゃない。スタイルにしても、性能にしてもいつまでも乗っていたくなります」
街乗りだからこそわかる魅力を実感し、冨林選手はサーキットでも走らせたいと語る。速度域が上がれば、このクルマの良さがもっと引き出せると予測した。エンジンフィールにも、自身の戦うマシンとの共通点を見いだしていた。
「しなやかな乗り心地で、エンジンも滑らかで尖っていません。でも油断はできない底力が伝わってくる。自分がレースで戦っているAMG GTと雰囲気が似ているので繋がりを想像します」
現在、冨林選手はPACIFIC RACING TEAMからスーパーGT・GT300クラスにAMG GTで参戦している。1996年5月4日生まれの神奈川県横浜市出身で、グランツーリスモ優勝から2年後に実車のレースへ挑み、2022年にはGT300クラスへとステップアップした。いまはeスポーツで若手の育成にも携わる。プロの目から見ても、SLRは特別だった。
「秀でたクルマは理屈じゃありません。突き抜けているので自分の感性が磨かれます。デメリットといえば派手で目立ちすぎること。でも自分はまわりの視線がそれほど嫌いじゃありません」
50年先も色あせない! SLR マクラーレンという“芸術作品”の価値
SLR マクラーレンは、単なる高性能車という言葉では語りきれない。飽きることなく眺めていられる造形こそ、このモデルの核心だと冨林選手は言う。
「飽きることなくずっと見ていられます。旧さを感じないというよりも、50年先でも決して色褪せることなく斬新さを保っているはずです」
撮影車はローダウンやワイドトレッドスペーサーを組み、19インチのターピンデザイン鍛造アルミホイールを履く。カーボンリップスポイラーやカーボンリアディフューザー、カーボンステアリングなど、素材へのこだわりが随所に光る。インテリアはシルバーアロー300SLレッドとブラックレザーで仕立てられ、カロッツェリアのHDDナビも備わる。車両協力はアルティメット・モーターカーズ。
プロのレーシングドライバーの感性さえ研ぎ澄ますSLR マクラーレンは、時代を超えて価値を放ち続けるだろう。冨林選手は最後に街を後にしてサーキットへと向かい、その懐の深さをたしかめに行った。1台のクルマが人の心を動かし続ける理由が、この個体には確かに宿っている。
■メルセデス・ベンツ「SLR マクラーレン」主要諸元
エンジン形式:90度V8 SOHCスーパーチャージャー 総排気量:5438cc 最高出力:626ps/6500rpm 最大トルク:780Nm(79.5kg-m)/3250-5000rpm 全長:4656mm 全幅:1908mm 全高:1261mm 車両重量:1768kg タイヤサイズ(F):245/40R18(R):295/35R18
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